第三十七話『閃光と魔法』

 手に握られた、拳銃型の電気拘束銃。

 学年一のいじめっ子と、その標的との決闘。


 そもそも学校でこの様な行為が行われること自体疑問に思える。

 しかしこの帝国第一に連なる工業高校だけは、別格で。


 国によって、生徒間での決闘を行うことを許可されている。

 ……従軍への意識を高める為でも、あるとか無いとか。


 そもそも、帝国は武力で全てを語る傾向がある。

 その忌むべき性格が、運悪く滲み出てしまったのか。


 そんな闇を垣間見て、一人の老人は顔を硬らせる。

 エルシーだ。退職間近だが、この決闘を聞き付けて担当官になったのだ。


(相手は高明な軍事家系の長女であるリアル。その戦闘能力は計り知れない……)


 しかし。

 エルシーは画面に映るエクセルを見て、口角を小さく上げた。


(けれどエクセルさんが相手なら……結果は決まってるでしょうね)


 そして横にあるボタンを押す。

 ──────試合開始の、合図だ。



 ♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢




 けたたましく鳴るブザーと共に、大声が轟いた。

 耳を劈く怒号。……リアルのモノだった。


「ここでぶっ殺してやるからなァ!!!」


 明らかに蛮族の言う言葉である。

 女同士の仁義なき戦い。


 その火蓋が切って落とされたのだろう。

 私には、どうでも良い些細事だが。


 ……銃を握りしめ、体を動かす。

 障害物を避け、目の端に映った監視カメラを見て、囁く。


「レネ、監視カメラの位置は」

「──────左前方二十メートル。右十メートル。右前五十メートル」

「他は?」

「近付いたら随時報告します」

「了解」


 これから行うのは、十七歳の女子高生が行えるとは思えぬ高起動。

 監視カメラに少しでも映ってしまえば、魔法を使ったなど疑われるかも知れない。


 幸い障害物のおかげで、死角は多数ある。

 そこを縫う様にすれば、リアルを暗殺(比喩)出来るだろう。


 そしてそのカメラの位置は把握した。

 後は……。


「身体が壊れない程なら、許されますよね」


 漂い始める藍色の光の粒子。

 目は一瞬金眼に移り変わり、空気が低音を立てて揺れていく。


 織り成される魔法は、身体強化。

 漂う光の粒子は魔力をとなって、私の新しい血と成る。


 故に。

 霧の如く。


 又は閃光の如く、地面を駆けられる。

 一般人が捉えられる筈もない。


「───ッ!!!」


 現場でしか聞こえない、空気が大きく揺れ動く音。

 肌がひりひりする様な不快感。


 また、音がした。

 定期的に、稲妻が地面を破る様な音が響く。


「何この……音」


 リアルは足を止め、その音の源を辿った。

 右前方……遠い。


 左前方……近付いてきてる。

 左後方──────。


「……え?後──────」


 バチっ。

 首筋に針が刺さった様な、痛みを若干感じた。


 黄色の閃光が、空気を伝う。

 その瞬間、白目を剥いて。


 ──────倒れていたのは、リアルだけだった。

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