第三十六話『私は、今』

 気付けば私は決闘場に居た。

 多少とはいえど盛り上がるざわめき。


 特設の屋内戦闘場の中で、ただ一人。

 なるがままこうなってしまった対戦に、溜息を零した。


「……はぁ」

「そんなに落ち込まないで下さいねー。元はエクセルさんが悪いんですからぁ」


 その隙にレネが割り込む。

 幼気な言葉には、否定できない鋭さもあった。


 しかし。


「納得出来ませんね。何故あれしきの事でここまで大事に……」

「リアル、とか言う子の癇癪を買ったからですねぇ。入学早々トラブルですかぁ」


 上から見下ろす様な口調に、私は苛立ちしか覚えなかった。

 いや、それは無視しておくことにして。


 年頃の女子というものは、ここまで短気であろうか?

 ……全く度し難い事だ。


「ですが、それでも何故決闘にまで?」

「それ程嫌いなんでしょうねぇ、エクセルさんの事が」

「しかしそれはリアルだけの私情ですよ。後の付き人は……」

「……確かに、叩きのめしても良い、って言ってましたねぇ」


 レネの相槌に、私は以前の会話を思い出した。

 ユーナとマーズと言ったか。リアルの付人?だ。


 大人しい子がマーズ。

 少し活発な子がユーナらしいのだが。


 この決闘を取り付けられた当初、彼女達は言ってきた。


「姉貴は学校で有名ないじめっ子なんですけどー……」

「勝って懲らしめてくれませんか、シールさん。貴方なら出来ますよね?」


 ユーナとマーズがそう私を期待して言って来たのだ。

 なんの根拠があって私にそこまでの期待を寄せているかは、まったくもって不明。


 聞くと「だって強そうだから」だというのです。

 ……勘で判断されては困るのだが……。


『そもそも友達じゃないのか』とか。

『何故決闘をする前提なのだ』とか言いたいところだったのだが、止めた。


 既に引けぬ山だ。

 仕方ないので要望通り、勝ってあげるとしよう。

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