第三十八話『転機』

 たった数十秒で終わりを告げた決闘。

 その余韻に浸るまでもなく、敗者と勝者は向かい合っていた。


「……本当に申し訳ないわ」


 リアルは消え入るような口調で、私に頭を下げた。

 取り巻きは、近くの廊下の角からこの光景を窺っていることだろう。


「それに付け入る事はしませんが、今後、この様な事は控えていただけますか」

「───はい……」


 今までの態度とは打って変わりすぎている。

 リアルという人間は、二つの人格でも持ち合わせているのでしょうか。


 若しくは『戦いで負けた』という事実を受けて、勝者たる私を認めたのか。

 軍人家庭らしいですし、そういうモノもあるのかと、勝手に納得しておきましょう。


「私も責める事はしません。今度また会う事があったら、またお茶でもしましょう」

「え、許すのですか?」


 リアルは私の言葉に顔を上げた。

 ……何かおかしい事でも言ったでしょうか?


 確かに彼女は私にとって迷惑な事を起こした雌豚でしょう。

 しかしそれももう過ぎ去った事。


 本人の反省・改心の余地あれば、私も憤慨する事はない。

 ──────帝国だけだ。私の眼中にあるのは。


「もう過ぎ去った事。気にはしていません」

「シール───」


 これ以上の会話は不要なので、私は踵を返して帰ることにした。

 その後ろで、羨望の眼差しが作り上げられていく事さえも、無視して。


「私を許すなんて……確かに負けたのはこっちだけど……」


 少し項垂れ、また顔を上げて。

 その表情には、決意がにじみ出ていた。


「───シールファンクラブも……いいかも……」


 私は依然として、無視する。

 その口から出た言葉には、目を背けておく事にしましょう。


 ……気にしていたら、吐いてしまいそうですので。

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