第二十三話「邂逅と死」

 排水や塵に身体を汚し。

 けれども私は殺戮を繰り返す。


 人に見られない様に殺人を行うなど、容易いにも程がある。

 それに、今は殺戮時の深夜である。


 長い警備の時間に飽き飽きして来た警備兵を羽交い締めにし、ナイフで殺す。

 その死体を隠し、また殺す。


 もう帝国兵もお疲れの時だろう。

 私が永遠の眠りに誘ってやる。


「───教えろ。兵は何処にいる」


 声を変え、兵の足首を抉って動けなくしてから、私は問う。

 顔は見られない。ここは闇の中だから、


「ひ、東監視塔で、今は休憩してる筈だ……」

「そうか。───ご苦労だったな」

「ぐ───」


 躊躇なくナイフを兵の首に刺し、その武器を奪い取る。

 返り血など気にしない。私に取っては戦化粧に過ぎないから。


「ふむ。二十年前のと比べて随分と変わったな」


 手に取った銃を眺めながら、その変化に驚く。

 まぁ良い。人が殺しやすくなっただけだ。


「さて、次は───」


 東監視塔には警備が居ないらしい。

 ならば……。


 私は目に映った、司令官邸を見て怪しく微笑んだ。

 ここで何十人殺したか……ふっ。


 ──────次は、お前だ。ツアー。



 ♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢



五十歳いそじにして、司令官の座を掴み取りましたね!ツアー司令!」


 暖炉と赤い絨毯で彩られた英国風のレイアウト。

『司令官室』と書かれた部屋の中で大声で敬礼する、ある男がいた。


 彼の胸元には、大尉の章が付けられていた。

 そして大尉が話しかける相手は……ツアー司令官。


 椅子に深々と座り、存在感を醸し出すツアーは、躍進した。

 帝国の全軍を指揮する立場の───あの司令官までに。


「お前も大躍進したじゃ無いか、ルーキー」

「もうその呼び方は止めて下さい、ツアー司令。私ももう大尉ですよ?」

「は。未だに死体見て狼狽える奴はルーキーとしか言えねぇなぁ」

「じゃあ克服したら!止 め て く れ ま す か!」

「……どうだかなぁ」


 小さいけれど、確かに本心から微笑むツアー司令官。

 砕けた口調で大尉とは、随分と親しい中の様だ。


「───で。エクセルの場所は発見出来たのか?」


 けれどツアーは本題に移る様に、椅子に座り直した。

 大尉もそれに当てられ、顔色を強張らせた。


「……未だ不明です。やっぱり死んだのでは?」

「いやぁ、あり得ねぇ。あいつは絶対に生きてるさ」

「───分かりました。更に調べて見て、収穫があったら報告しますね」

「ああ、頼んだぞ」

「……では」


 大尉はツアーに敬礼を送り、司令官室のドアを開けた。

 ……だが、その瞬間。


 ──────大尉の顔が、何者かに撃ち抜かれた。


「……ッ、フ、ハハハハ」


 ツアーは突然、身体を小さく仰け反らせて笑った。

 ……同じく、司令官室に突入して来た───私を見てね。


「あーあ。重要な人材が失われちまった」

「───何をご冗談を。ただの雑魚じゃありませんか」

「ほぅ……」


 ツアーと私は睨み合い。

 私が銃を構えると同時に、ツアーは机裏のボタンを押した。


 その後の銃の発砲は、防がれた。

 恐らく、ボタンと連動して出てきた障壁の所為だろう。


「───ち」


 殺せない。

 そう悟った時には───。


 いつ来たのか。

 機械兵オートマタが私に銃を向けていた。


 駆けつけるのが早過ぎる。

 流石司令官室ですね。


 ふむ、今のところ絶体絶命。

 ───ここから、どう生き抜くべきでしょうか。

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