第二十一話「修羅場」

 

 バッグを下ろされ、中を精査された後。

 機械兵オートマタの目がこちらを向き、冷淡に告げた。


「最終検査。対象の身体検査を行います」


 その瞬間、奥の男性の眼光が強まった。

 いつもこれ程までに警戒しているのか。難儀な物だ。


 無視することは出来ない。

 首筋の機械と、ナイフが見つからない様にせねばならない。


 そこまで厳しく無いことを祈るばかりか……。

 兎に角手を広げ、身体検査を引き受ける。


 機械を取り出して頭髪のチェックを行い、異常が無い事を確認。

 目の色も詳しく確認された。


 そこからはボディチェック。

 足から手触りを確認していく機械兵オートマタ

 温もりを全く感じない手に激しい嫌悪感を覚えたが、それでも耐えた。


 その冷たい手は足から腰へ、やがて胸へと向かう。


 けれどそこにはナイフがある。

 そこで私はボディーチャックを拒んだ。


「……やめて下さい」

「───許可なく検査を拒否する事は禁じられています」


 機械兵オートマタがそう言うとと同時に、緊張が高なった。

 視界端で、他の警備兵が銃を向けている。


「一々手付きがイヤらしいんですよ。反吐が出ます」


 ……そう言った自分にも、反吐が出る。

 一応体は女性ですが、中身は男性なので、女性ぶるのは流石にね。


 しかし切り抜けるにはこれしか無い。

 その拒否に機械兵オートマタは、背後の警備隊長に確認を取った。


「……そう言うのもあるんだろ。もう良い。通してやれ」

「了解しました」


 胸の奥に、冷たい空気が入っていくのを感じた。

 安堵の表情は出さないものの、不意に漏れ出てしまうほどに安心していた。


「ほんっと、勘弁してよね」

「申し訳御座いません。検査は終わりました。……どうぞ、お通り下さい」

「ありがとね」


 警備隊長の配慮のお陰で、危機はあったけれど通る事は出来た。

 ある意味のプライドを切り捨てたものの、上々でしょう。


 レネからのからかいは覚悟しますが。

 兎に角私は荷物を取り、そのまま第一関所を抜け出したのです。


 これ以上の収穫はないでしょう。

 しかし。


「……やっけーに女々しかったですねぇ、エクセスさぁーん?」

「うるさい。切り抜けるにはこれしか無かったんですよ」

「へぇー、エクセル……ちゃん?」

「……黙ってて下さい」


 レネを殺したいと思った。

 しかしまぁ、ここからは上り坂なので……恨まない様にしておきましょう。

 いつかは───いや。



 ──────そしてそこから、数十日が経った。

 第二関所。


 その門戸に至った時に、小さな笑いがこみ上げてきた。


「以前は不法入国して痛い目を見ましたが。今回は違う」

「ですねぇ。第一関所を通過できたのなら、後は簡単ですしねぇ」

「……行きましょう、後は乗り込むだけです」


 帝国首都。

 ツアー、そして帝国倒壊までの道は、近い。


 事実、第一関所の検査を終えているためかそこまで厳しい訳ではない。

 少し手間取りはしましたが───。


「ふぅ、一時はどうなる事かと思いましたが……来たか。帝国首都」


 立ち並ぶビル街。

 排気ガスとゴミの匂いで溢れかえるこの汚い街。


 忘れない。

 また来たのだな、私は……この地に。


 上っ面の安寧を感じるのはここまでだ。

 ……私が潜り込んだからには、もう後は無い。


 果たして見せよう、復讐を。

 殺してみよう、我が天敵を。


「行きましょう、エクセルさん」

「──────ええ。後には引けません。死ぬ気で、復讐を果たすよ」


 武装はナイフのみ。

 食料も無い。


 けれど私は、それでも。

 ───復讐する為に、帝国軍基地に侵入するのだ。

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