第2話「医者達」
「意識不明。十分な処置は施したのですが───」
「駄目か。一体何が彼を眠らせているのか……」
「不明です。身元も、全て」
「ふむ……。少し様子を見てみよう。いつかは起きるだろう」
………………。
…………………………。
……………………………………。
「未だ昏睡状態。覚醒の兆しは在りません」
「搬送から五十日。バイタルも低下していない。脳に疾患がある訳でもない……」
「謎、ですね。ドクター」
「ああ。……流石に怖くなってきた。この患者自体が」
「観察を続けましょう。……ほら、会見も控えておりますので」
「───そう、だな」
…………………………。
…………………………………………。
……………………………………………………。
「まだ、目覚めないのか」
「はい、ドクター。これで半年です」
「はぁ……。───観察を、続ける」
「はい」
…………………………………………。
悲鳴が聞こえる。
私を突き動かす、薪が燃える音が。
数日ぶりだろうか。
いや、正確な日時は不明だが……。
日差しが、私を起こした。
白いベットの上に、私は寝ていた。
蛍光灯が、天井で淡く輝いている。
そこから体を起こそうとしたが───動けなかった。
首は動かせる。
恐らく、筋肉量の著しい低下が起きて居るのだろう。
───寝ていた時間は、数日どころではないな。
そう悟る瞬間、耳に小さな話し声が聞こえてきた。
聞き覚えが、あった気がする。
「アカネ君。今回の視診だが……」
「分かっています。患者エクセルの容体観察ですね」
「ああ。だが期待はしていないよ」
「私もです」
エクセル?
ああ、私の名か。
声が近付き、扉が開く音が聞こえる。
足音がこちらへ向かい、顔を覗き込んできた。
「どれ───ん?」
「始めまして。医者殿」
「おおっ!?」
尻もちをついた音が聞こえた。
それを横目に見ていたナースが、こちらを興味深そうに覗き込んだ。
そして頷き、小さく、淡々と笑みを浮かべた。
「患者エクセル。覚醒確認。ドクター、貴方の予想は外れた様です」
「それは君もだよ」
重い腰をあげながら、医者は立ち上がる。
そして「驚きはしたがね」と見栄を張りながら、こう私に囁いた。
「あれだけ眠っていたのに、発声は滞り無いのか」
「ええ、医者殿。お聞きしたいのですが、私はどれだけ眠っていたのですか」
医者がどもった。
代わりにナースが答えた。
「五年です」
「五年……」
「案外驚かないんですね。患者エクセル」
「はい。少し予想はしていましたので」
医者は言った。
「エクセル君。君の事は探らないでおいたが……とにかく。
リハビリを推奨する。今のままでは立つこともままならないだろう」
確かに。
体にかなりの違和感を感じる。
ならば、その上で。
聞いておきたい事が、ある。
「───どれだけ、かかるのですか?」
強張った私の顔。
それを見た医者は、小さく笑った。
「───君次第だ。頑張り給え」
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