第3話「あの記憶」

 五年のブランク。

 物を握るにも、少し気掛かりがある。


 医者達が筋肉低下を防ぐ治療をしてくれていたそうだが。

 未だ走り、食べることもままならない。


 リハビリは最短で一ヶ月はかかるだろうと言われた。

 けれども、こうも言われた。


 熱心な心が有れば、数日で達成できるやもしれない、と。

 ふ───そうか。


 ……熱心な心、か。

 私には、それがある。


 彼らの悲鳴が。

 託された命が。

 託された使命が。

 滅ぼされた王国の恨みが。


 鮮明に辿れる。

 あの記憶を。


 鮮明に思い出せる。

 私の肩に重くのしかかる、彼らの悲痛な叫びを。


 忘れられない。

 忘れたことは、ない。


 あの黒い部屋の中で燃やし尽くした……。

 ───あの、復讐の灯火を。


 私は殺す。

 敵国を。


 私は果たす。

 復讐を。


 それさえ有れば。

 こんな苦難、三日で達成できる──────!!!


 照り付ける白い太陽。

 あれを見たのは、八年ぶりか。


 私はリハビリを達成した。

 腕も、足も、指も、目も、全て、あの時の様に。


 背中で手を振る医者達に深く一礼を贈り。

 そして、私は歩き出す。


 あの敵国への、復讐の為に。

 私は、敵国を滅ぼす為ならなんだってする。


 医者達は、私が生き抜く為に若干の金をくれた。

 三晩を暮らせるほどのお金を、見ず知らずの私に。


 ありがたく使わせてもらう。

 ──────我が大義のために。

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