第97話 集う英雄達<下>
お互いに被害を最小限にする為、決闘方法はPVPで決めることにした。
それだけ英雄という人はぶっ飛んだ想像をしてくる者達です。その上で個人技に秀でているので天は二物も三物も与えた、なんていう人もいますが……
「さぁて、嬢ちゃん。こちらは久し振り過ぎて加減が出来ない。簡単に沈んでくれるなよ?」
『もちろん。油断も手加減も一切しません』
「そりゃおっかない」
「私も、食らいつきます。今度こそ一発当てて見せるんだから!」
ジョージさんからの挑発を受け流し、シャーリーさんからの宣言を冷え切った目で逸らす。
意識が加速する。勝負は一瞬。それだけあればこの大地は四度ほど姿形を変えるのだから。
動き出しは軽やかに。わたしの想像力によって、天と地が文字通りひっくり返った。落ちて行く足場。真上から降り注ぐ土砂が対戦者を襲う。
精霊は重力がないから落下ダメージがない上に、地属性ダメージを無効化する。だからこの状況はドライアドにとって有利に働く……筈だった。
だがこの程度で慌てる者など英雄にはいない。
腐っても英雄。空を足場にしながら、空気を掴むトラ獣人がこの状況をひっくり返す!
ジョージさんの最も得意とする柔術で、ひっくり返った天地があっさり元の形へと戻された。
同時に空から矢の雨が降り注ぐ。
逃げる場所の一切ない面での攻撃。
それをわたしは【ノック】で余すことなくはじき返し、指向性を持たせてお返しした。
それを放ったシャーリーさんは動かない。
なんとかしてくれるジョージさんが居るからだ。
この親娘はあの時から一切ブレない関係を今も築いている。それを羨ましく思った日もあれば、自分は“ああ”はなれない事を否が応でも知ってしまっている。だからそれは理想で留めた。
ジョージさんの腕より放たれた拳は簡単に空気の層をブチ破り、その拳圧だけでお返しした矢の尽くは地面へと突き刺さった。仕切り直しだ。
今度は二人同時に動いた。
左右に分かれて全く違う動き。
シャーリーさん単体なら驚異足り得ないけど、ジョージさんによって動きを限定されるとちょっと厄介な人物ではある。
あの人が英雄足り得たのは正確すぎる弓を射る術でもなければ、攻撃したことを悟らせない事でもない。
シャーリーさんの創造力は矢に特化していた。
だからその仕組みについて知識のないわたしには、時折想像以上のものが飛んできてはヒヤヒヤさせられるのだ。
そしてもう一方のジョージさんはノワールが苦手意識を持つくらいにはわたしの天敵。
自慢の【ノック】を使った防御手段はあの人には通用しないのだ。対人のスペシャリストである彼の前では、一般常識はあってない様なものだった。
だからわたしが対処するのは両方だ。
逃げ場はない。真正面から受け止め切って、それらを打ち破る。でなければ後に控える彼に対して失礼だから。
◇side.レン
ボクのお母さんは凄い人だと知っていた。けれどどう凄いのかまでは知らないでいた。それを知っている人から聞かされた英雄譚は、あまりにも現実のお母さんとかけ離れていたから結びつかなかったんだ。それはきっと噂に尾ひれがついたんだって、そう思っていた。
いつもほんわかとボクを包み込んでくれる優しいお母さん。けれどそれだけじゃなく、間違った事をしたら、ちゃんと怒ってくれて、そして何をどう間違ったのか優しく教えてくれた。
そんなボクの大好きなお母さんは、噂以上の事を、ノワールお姉ちゃんでも驚く様な事を平然とやってのけた。
すごい……それを受けてさも平然そうに返すあの人達も!
ボクは自分の力を勘違いしていた。
お母さんに教えてもらった技術は確かにボクの中の常識を壊してくれた。けれどそれだけだ。それ以上をボクは生み出さなかった。それがボクの間違い。
それを正すようにお母さんは今、正しい力の使い方を教えてくれているんだ。
正直、今のボクより低いレベルのお母さんのやってる事は一切理解できなかったけど、つまりそれはボクの持っているスキル以下で成し遂げたという事を示す。
ボクが見落としてきた力の使い方だ。
凄いなんて言葉では言い表せないけど、お母さんはこのたたかいを通じてボクに何かを教えてくれようとしている。
だからボクは心の中でお母さんの応援をした。
敢えて口に出さないのは、お母さんが勝つのを信じているから。
◇side.シャーリー
全く掠りもしない!
わかっていた事だけど、改めて実力の差に開きがある事を痛感する。今日は娘も来ている。まさかここでノワールに会うなんて……本当についてない。
そしてすぐ後ろにはタカ君も……彼は高校時代から全然変わらない。
結婚して少しは丸くなったかと思ったら。全然そんなことないんだもん。
彼の前であの子に負けるのは嫌だな。
視線の先に私は入ってないって知ってる。
すでにお互いが既婚者である事も。道を違えた事も。
でもだからって、挨拶ぐらいは欲しいよね。同級生として扱ってくれるぐらいの余裕は欲しいよ。
だから、このまま負けるなんてあり得ない。
絶対にノワールに一矢報いる。それが私の答えだよ、タカ君。
「お父さん!」
「応よ、仕掛ける」
「任せた」
お父さんが腰をためて拳を握りこむ。
全ての技の発動が一緒なのが目くらましを兼ねている。
だというのに目の前のあの子は発動体制からそれらを感知するのがずば抜けていた。
だからこっちは最速の技で対応する。
もちろん、お父さんの技の一撃必殺だ。
当たればタダではすまない。
さっきの『天地投げ』だって、普通なら対処できない。
私は慣れとしか言いようがないけど、あれを初見で見極められるノワールはさすがとしか言いようがなかった。
「よそ見してていいの?」
空中で姿勢制御を取っているノワールに向けて、矢を番えず弦を弾く。
音による真空の刃を発生させ、ノワールに狙いを定める。
しかしあの子は見もしないで払うようにしてそれらを【ノック】で跳ね返す。
だが、その一瞬の隙が、お父さんの発動スキルのキーになる。
「おっと、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」
ガォンッ!!
拳をただ震わせただけ。
振り抜いた速度が音の壁を超え、空気を切り裂くように空に牙跡を残す。『空牙』だ。
ノワールは防戦一方。
なんと言ってもお父さんの技はノワールの防御壁をいともたやすく貫通する。
だから、ここが狙い目。
「──ッ」
言葉は必要ない。そんな隙はこの子に余裕を与えるだけ。全ての予備動作から無駄を省いた一撃。
それが私の『ファストショット』
最速故にダメージはカスレベル。でもノワールのHPはそもそも低い。
不意打ちでもしない限り当たらないのなら、今を置いて狙わないのは失礼だ。
でも、
『あっぶな。そんな隠し球持ってたんだ。油断できないなー』
簡単に弾かれる。知ってたよ。
でもね、ノワール。今一瞬だけど隙を晒したね?
「もう一丁食らっとけ。『空牙──十連』!!」
お父さんの切り札が炸裂する。
威力も凄まじいが、それによって起こされた音が、落雷を思わせる衝撃波を生み出す。
さっきの今でその脅威を目にしたばかり。
それを隙を開けずの10連撃。
もちろん私もここで『ファストショット』を挟んで打ち込む。
ずるいとかそういう心理は必要ない。
彼女に取って、できるのにやらない方が納得できないのだ。隙が多くて威力の高い必殺技なんてなんの意味もない。彼女に取ってそれこそ見飽きたものだ。
ノワールという存在に考える隙を与えてはダメ。
それは過去のプレイヤーにとっての常識である。
当てる、当てる。絶対当てる。
見ててねタカ君。貴方の憧れの存在を私が地に落とす姿を!
もはや意地だった。
すでに終わった恋路を今更蒸し返すつもりなんてない。
親の決めた結婚相手だとしても、今は子供をもうけて幸せに暮らしている。
だからタカ君は初恋の相手。
でもね、ノワールは別なんだ。
彼女は私が超えられなかった壁なの。
一歩どころかその力量の差は開く一方で、だから。
これはゲーマーとしての意地だった。
「うぁあああああああああ!!」
もはや連写の領域にまで達した『ファストショット』の雨。『ファストレイン』を、ノワールは掻い潜るように滑り、回避する。
一際大きく上空に飛び跳ねる。
上空が安置とか弓術師に喧嘩を売っているの?
私はノワールの策を読みきれずに上空に視線をあげて狙い……
「──あっ」
そして真上から落ちてくる土砂に、あの時のトラウマが再発した。すぐに意識は暗転し、私達親子はPVPシステムにより『LOSE』宣告を受けていた。
ほんの一瞬たりとも意識を途切らせていなかったのに。
全く、全然その背中に追いつけないんだから。
お父さんも参った参ったと肩をすくめている。
『いやー、楽しかったね。やっぱり英雄同士の戦いはワクワクするね。でもごめん。わたしも負けてあげられないんだ。だから本気を出した』
「ったく、ブランクって言葉はお前さんにはないのか?」
『そういうジョージさんこそ、お年を召してなおキレが増しているじゃないですか。それとシャーリーさんも』
「お世辞は結構よ。結局今回も当てられなかったもの」
『精霊の時はいつも本心ですよ。シャーリーさん、お強くなられましたね』
「う……──あ、ありがとう」
「全く素直じゃないんだからよ、こいつは」
「お母様、凄かったです!」
駆けてくる娘を抱きとめ、ほうとひと心地つく。
ようやく緊張の糸が切れた。
全く、まだゲームにログインしたばかりで娘に全然いいとこ見せられてないのに。それでも嬉しそうに微笑む娘に、なんだか毒気を抜かれた気がした。
「ありがとうね、アリス」
「えへへ」
そこへタカ君……マサムネが歩み寄ってくる。
先ほどまでの剣呑な気配は霧散し、今は目元に優しげな視線を落としていた。
◇side.マサムネ
「……久しいな、シャーリー」
「タカ君……」
「見事な作戦だった。それにジョージさんとの連携も素晴らしい。見事だとしか言いようがない。未だ衰えを知らないな」
「ありがとう」
「でも、それでもあの子には届かなかった」
「うん、あの子はどんどん凄くなっていく。それでもまだ背中を追うの?」
「ああ、このゲームに復帰する時そう決めた。そして彼女に俺がマサムネだとバレた時にもな。未だに震えが止まらないよ。彼女の凄さは日に日に上がっていく。本当に自分の力が届くのかわからない」
「タカ君……」
「でもな、シャーリー。俺は彼女を超えるよ。旦那として、そして息子に頼られる父親として」
「そっか。じゃあ私も応援してる。娘と一緒に」
「これ以上ない力になる」
「おう、マサ坊。勝算はあるのか?」
「そんなものありませんよ。見たでしょう、あの力を」
「確かに、あれだけ動きを固めたのに掠りもしねぇのはちっとショックでけーけどよ」
「だからオレはオレなりのやり方で彼女に迫ります。今日を皮切りに」
「そうか。骨は拾ってやる」
「感謝します」
あの二人ですら手玉に取られた彼女の元に一歩踏み出す。
すると後ろに控えていたドライアドの一人が前に出てきた。
NPCではない。すると、そうか。
『お父さん!』
「蓮か」
『そうだ!』
「下がってなさい。今から母さんと大切な約束がある」
『さっきの人達だって凄かった。なのに負けた。それでも挑むの?』
「ああ、そうだ。それが彼女との、母さんとの約束だ」
『蓮君、お父さんは昔からこうなのよ』
『そんなの分かんないよ! どうして一緒に遊ぶだけじゃダメなの?』
「憧れだからだ」
『憧れ?』
「オレがまだ学生時代、当時の母さんに出会い、その力に憧れた。男なら強さに憧れることはなんら不思議じゃない。お前もそうなんだろう?」
『父さんもそうだったんだ……じゃあなんで普段家にいないんだよ! お母さんいつも寂しそうにしてるんだぞ!』
「お前も直にわかる。彼女が優秀すぎることに。そしてそれに甘えるうちに、いつしかそれが当たり前になる。蓮、お前が未だにお母さん離れできないのも、彼女が優秀すぎるからと知れ!」
オレは正論を吐いた。そして彼女との約束を果たすべくPVPにエントリーする。
『あなた……流石にさっきのはどうかと思います。それにわたしだって子離れ出来てませんし』
「あいつは昔の俺にそっくりだ。だから今のうちから釘を刺した。それまでだ」
『だとしてもですよ。確かにあの子はやや甘え癖のある子ですけど……』
「やや? 10歳にもなって一人で布団で眠れない子に対して本気でそう思っているのか?」
『いけませんか?』
「はぁ、一度世間一般の常識をわからせる必要があるようだな」
『むむっ、負けませんよ?』
少しこじれた夫婦喧嘩の如く、俺と彼女の戦いの初戦が幕を開けた。
これより始まるのは夫婦喧嘩にして、当時の再現。
いいや、あの頃より揃えられた環境が大きく異なる。
お互いにレベル10にも満たない状態。
そして俺は急拵えの刀を腰に履き、引き抜く。
急拵えの割には出来が良すぎる業物。
流石マリーさんと言ったところか。あの人も普段めちゃくちゃなのに一つのことに打ち込むとこうまで印象が変わる。
『ふふ、嬉しそうですね。あなた』
「分かるか? オレにとって刀剣はヒーローの象徴だった。だからこれがあると無いとでは、集中力に大きく差が出る。殺傷力など二の次だ」
『あとであの子にそう伝えておきます』
「参ったな。では、行くとするか」
『はい、いつでもどうぞ』
散歩に出かけるかのようなステップで、距離を詰める。
ウルフ種の[エクストラジョブ・サムライ]の特性があの当時のままならば……
オレは影を纏い、真上から撃ち落とされた彼女による攻撃を影の中に入って回避。伸ばした影の向こう側より這い出る。
「危ないな」
『そう言っておいて、余裕で躱しているじゃないですか』
互いに視線を切り結び、少しづつアクセルを踏み込んでいく。互いにとっての全力も随分と久しぶりだ。
彼女は実力を押さえ込むようにしていたし、オレは当時と違う道を歩んだ。
マサムネだとバレたら離婚の危機だ。そう思ってなるべく実力を出さないようにしていたんだ。
「さて、互いに準備運動は済んだかな?」
『こちらはもう少しというところです』
「後は体を動かしながら慣らしていこう」
『そうですね。その方がわたし達らしいです』
「では、行くぞ」
『はい、あなた』
影を纏い、潜り込む。
この状態は何も回避にのみ使われるものではない。
もっと多角的に使うものだ。
例えるならば瞬間移動。
影Aから影Bに移動する荒技だって可能である。
ノワールは上空にいる。太陽を背にして。
だから当然彼女の体には日陰が出来る。
オレはそれも影と捉えることで移動ができる。
だが彼女の小さな体から、このウルフの体積をせり出すのは非効率。ではどうするか?
ここで刀が生きてくる。
ヒュカッ
瞬間的にノワールの胸から生えた影の刀が、頭に向かって縦方向に切り裂くように閃く。
しかしノワールはそれを【ノック】ではじき返し、上空に飛翔。全身に太陽の光を浴びてオレの領域から抜け出た。こうなったらオレには対抗手段がない。
「──と言うとでも思ったか?」
ザリッ。足を大きく開き、納刀する。
「WHOOOOOOOOOO!」
咆哮一閃。地上から発射された雷が、ノワールめがけて飛翔する。これぞ対ノワールようにこっそり開発していた雷纏い。今までの雷牙や雷閃の比ではない。空に対抗する為に作ったはいいが、空歩ほど取り扱いが容易ではない為動き回らなければならない。そのおかげでスタミナこそ消費はするが、これの旨味は回数制限が無い事にある。
地上と違って空をも走ることが出来るオリジナルコンボ。
さてノワール、これをどうやって躱す!?
『うふふ、あはは、面白いですあなた。だからわたしも本気を出します!』
「来い!」
ここから先は、まるで地上に生えた木を自分の眷属が如く操るノワールと、雷の速度でそれを回避していくオレの消耗戦。
立ち止まることすら忘れ、切り結ぶたびにどちらか一方の対抗手段を削っていく。そういう勝負が展開された。
◇side.レン
何、これは何?
こんなのは知らない。こんなものは知らない。
『お母さん、お母さんの背中はどこまで遠いの?』
ついそんな愚痴をこぼしてしまうほど、お父さんとお母さんの戦いは壮絶だった。
さっきの人達は手加減されてたんだ。あれで手加減?
僕なんかが敵う相手じゃない。初めてそう思った。
でもお父さん達は楽しそうに力を振るってる。
そこに悲壮感は見られない。
本当に出し惜しみなく、力を出し切れるライバル。
その言葉がしっくりきた。
お母さんにとってお父さんはライバルだったんだ。
口ではなんだかんだ言ってても、それは意識してたってことだもんね。
僕はお父さんに勝てるかな?
わかんない。だってお母さんにだって全く及びもつかないもん。
その日僕は、悩んだ。
上には上がいる。その言葉を胸に刻んだ。
結局お父さんはその日負けちゃったけど、普段より素直な気持ちで接することができたと思う。
「いやー、参った参った。母さんが全然手加減してくれないんだ」
『本気で来いと言ったのはどなたでしたっけ?』
『凄かったよ!』
「そうか、どっちが凄かったか聞いておきたいところだな」
ニヤリと口角を上げながらお父さんが顎をしゃくる。
それを見てお行儀が悪いですよとお母さん。
良かった。あんなに激しい攻防をしたのにも関わらず、そこには普段の二人の姿があった。
『二人とも僕なんかよりずっとずっと凄いよ。僕だったら父さんの攻撃は躱せないかもしれないし』
本心だ。
でも、二人して違う態度を見せた。
父さんはどこか嬉しそうに。
お母さんは、それはいけませんねと感情をあらわにする。
僕のお母さんはああ見えてスパルタだ。
自分ができるからって、誰でもできる。当然僕にもできるって譲らない時がある。
きっとこれから僕に待ち受けているのはあれぐらいの攻撃を回避する教育だろう。
でも、これだけは言わせてほしい。
本当に、本当に二人ともカッコよかったって。
いつも優しいお母さんは見たこともないくらいに苛烈に、そしていつも家にいない父さんは、それに勇敢に立ち向かっていた。
それは僕にとってのヒーロー像を塗り替えるものに等しい。でもお母さんがいる手前、正直にそれを話せない僕がいた。
僕はお母さんの味方だから。
だからお母さんが敵役である事を話せないでいた。
そして父さんにも同様に。
今まで父さんとは敵対してきたから。
お母さんは僕が守るんだって勘違いしてた。
父さんは別に僕たちを見捨ててた訳じゃないんだって、今日の戦いを見てしれた。
父さんは、ずっとずっと出来の良すぎるお母さんに対抗すべく、今もこうして全力で事に当たっている。
僕は知らずにそれに対して八つ当たりして……僕は大人なつもりでいたけど、まだまだ子供なんだって思い知らされた。
だからこれは僕が心の内で勝手に思う事。
僕の両親は二人とも自慢できる最高の親だって。
そして僕はその二人の間に生まれた。
その結晶である僕が、どちらの意思を引き継ぐかなんて決まりきっていた。
今はまだ妹が小さいから、僕はお母さんの味方でいてあげたい。
でもお母さんは僕がいつか倒すから。
だから、それまで誰にも負けない僕のラスボスで居て──
その日願った少年の純粋な夢は、まず間違いなく叶えられるだろう。と同時に少年にとって苦悩の日々の始まりになる事になる。
ImaginationβraveBurst
大海に放たれた一匹の稚魚は、全てのプレイヤーにとっての共通の敵になるべく、どんどんと力を吸収していった。
本来ならば愛する夫に失望されないように。
そして愛する我が子に自分を乗り越えてほしいと願いながら。
ノワールは慈悲深い聖母のように全てを包みながら、絶対に打ち崩せないラスボスとして君臨し続ける。
これはのちに語られる歴史の一ページに過ぎない。
愛情を知らずに育った少女が、恋を知り、そして愛する家族を勝ち得た。
普通ならばここで話はうまいこと収まるものだ。
しかし彼女は優秀過ぎた。完璧主義者だった。
故に万能であろうとする。
愛する夫の為に隙をなくし、いずれ飛び越えてくれるだろう息子のために、足が届かないほど大きな踏み台であろうとした。
彼女のストーリーはまだまだ続く。
でも彼女にとっての幸せはもうここに十分すぎるほどあった。
だからこれで彼女のお話は一度幕を閉じる。
愛を知らないノワールは、愛を知りより手強くなって帰ってきた。その事実と共に──
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