最終話 ノワールを継ぐ者
お父さんとお母さんの激しい攻防を見たあと、僕はまだまだお母さん達の実力に追いつけていないのだと気づいた。
本気になったお父さんは凄かった。
だけどお母さんはそれを超えてすごくなった。
要は僕はお母さんに本気すら出してもらえなかったってことになる。
そしてお父さんの言っていた言葉。
『お母さんは優秀すぎる』その言葉の意味はなんとなくわかってた。だってクラスで僕のお母さん程あれもこれも出来るお母さんていないもん。
だから分かってたんだ。お母さんの優しさは僕たち全員に向けられてるって。
お父さんにも、僕にも、そして妹の瑠璃にも。
普通の大人だったらどちらか一方になってしまうところ、お母さんは瑠璃が夜泣きで煩くしてても、あやしながら僕の翌日の着替えから何から完璧に揃えてくれる。
僕が寂しくて一人で眠れない夜も、一緒に添い寝してくれた。
でもね、あれから結構時間がたったのに、未だに添い寝してこようとしてくるのはやめて欲しいかな?
あれから4年──僕は14歳になった。
お母さんがあの世界でノワールとしての第一歩を踏み出したときと同じ年齢だよ。
妹の瑠璃はお父さん子になった。
一応僕の言うことも聞いてくれるけど、お父さんにべったりだ。
僕がお母さんにべったりな理由に似てるのかもしれない。そんなことを考えながらVR中学に通学する。
廊下を歩いていると、見た目だけは完璧な美少女の知り合いが、思案顔の僕に伺うような声をかけてきた。
「どしたーレン。悩み事?」
「ユッキー……」
彼女は立橋雪子。茉莉おばさんの娘で、僕より一つ上の中学三年生。今でも父親の幸雄さんを狙ってる生粋のファザコンだ。お前もマザコンだろって? 僕はそういうのは卒業したんだよ。
あの時のお父さんの言葉が今では嫌でも理解できるからね。このままじゃ僕はダメになるって、だから自立しようと自分のことは自分でやろうとしてる。
「ちょっと進路について悩んでるんだ」
「何を悩む必要があるか。大手企業の跡取り息子が。なんの憂いもないじゃないの」
「いや、このまま親の引いたレールに乗っかっていいのかなって思うんだよね」
「ふーん、そう言うこと。ま、悩めるうちに悩んじゃいなさいな。悩める余裕があるだけ恵まれてるよー」
「そうする。ありがとう、ユッキー」
「おや、レンが意外に素直。明日は雹でも降るのかー?」
「なんだよそれ」
昔からだが、この人は僕のことをからかうような態度で接してくる。だがその方がありがたかった。僕はお父さんに似たのか顔は美形だが、クールぶっているのだと周囲から思われている。
造形に関しては確かに僕も妹も両親も美形なのだろう。でもこれが当たり前だったから、そのように言われても対処に困るというのが本音である。
単純に声を出すより思考を加速させるのが好きなんだ。
こういうところは案外お母さんに似たのかもしれない。
「それよかレン、次の英雄決定戦は出るの?」
「うん。いい加減出なさいってお父さんがね」
「両親から出ることを強制されるのは大変だーねー。でも今のレンならそれができると思ってるからこその誘いでしょ?」
「そりゃそうだけどさ」
「んじゃ、あたしも出てみよっかな?」
僕はその返しに目を丸くする。
彼女が選択した種族はラビットだ。非力で、スピードこそあるものの、どちらかと言えば生産向きの種族。それであの魑魅魍魎が跋扈する大会に出るって言うのだ。正気かと思うのはあのゲームのプレイヤーであれば共通認識だろう。
「ラビットで? 正気?」
「祐美さん見てたら、種族もビルドも関係ないって気づかされたんだよね。だからこの種族でだって上を目指せると思うんだ。で、レン。もし勇者として勝ち抜けたら、その時は一緒に組まない?」
「うん、別にいいよ。ユッキーの動きなら頭に入ってるから。でも勝てたらね」
「おや、いつになく弱気だね?」
「だって勇者になるってことはドライアドでトップに立つっていうことだよ?」
「あっ……」
そこで彼女はようやく気づいたようだ。僕が何を言いたいかを。ドライアドでトップになる。その前に立ちはだかる越えなきゃいけない壁の高さを。
「祐美さんはなんて?」
「全力でかかってこいって」
「あちゃー、手は抜いてくれない感じか」
「真剣勝負だからね。普段の優しいお母さんは期待しないでくれって言われちゃった」
「うわぁ、大変だねー」
「それでも自分の力をぶつけなきゃきっと納得してくれない。うちのお母さんはそういう人だから」
「出来すぎる親を持つと大変だ」
「ユッキーのご両親だって英雄だったんでしょ? 特に催促とかはないの?」
「うちは放任主義だし。ママは自分のことで手一杯! あーあ、あたしも祐美さんの家に生まれたかったなぁ」
「それはそれで大変だけどね。ユッキーはお母さんのいいところしか見てないもん」
「えー、そんなことないよ」
ほんと、そう思う。
うちのお母さんは万能だから、分け隔てなく、なんでも卒なくこなしてしまう。流石に肉体労働はできないけど、家事や教育に関しては驚異的だ。そんな人からかけられる期待というのはただのプレッシャーにしかならない事を当の本人は全く気にしてない。
これを自覚した時、父さんの苦労をようやく理解したくらいだ。お母さんが理想的過ぎるからこそ、父さんはそれに並ぼうとした。優秀な父として僕たちの前でもそうあろうと。
それがそもそもの間違いだって気づかぬままに。
ユッキーとの会話は適当に切り上げ、廊下で別れる。
どうも彼女はトイレに行く途中だったようで、思い出したように駆け出していったのだ。そんなことを堂々と言うから彼女はこの学校で残念系美少女と呼ばれている。まぁ彼女にとっては攻略対象外に何を思われようと痛くもかゆくもないのだろう。
ただし攻略対象の前では絶対にそんなことはしない。徹底的に完璧を演じるのだ。
だから長話を持ちかけて悪いことをしちゃったかな? と目的の場所に歩きながら罪悪感に駆られていた。
ちなみにVRと言えど尿意は来るものだ。
その場合は一度ログアウトして自宅で用を足す必要があった。
だから彼女は急いでいたのだろう。
そんな感じで僕は目的のクラスにたどり着く。クラスメイトに朝の挨拶を交わしながら自分の席に着く。
すぐ横の席にはすでに次の授業の準備を始めるクラスメイトの姿。それを確認してから声をかけた。
「おはよう、太刀川さん」
「おはよう、高河君」
彼女は太刀川アリス。あの時ゲームで出会ったエルフの子だ。僕たちと敵対し、初めて負けを認めさせられた元英雄の二人組。その連れだった彼女は、なんと僕と同じ年だった。同じクラス、隣の席になったのは全くの偶然で、最初こそまだ確証は抱けなかった。
それでもいつしか友達と会話をしているうちに会話に混ざってきて、彼女があの時のエルフだって発覚した。
それからは学業の合間にゲームでの話をするようになった間柄だ。
「そういえばイマブレで英雄決定戦が近日中に行われる予定だけど、太刀川さんは参加する?」
「私はどうかなぁ。お爺さまが出るようなので、お母さまと一緒に観戦する予定だけど。参加となると熟練度不足としか言いようがないかも。高河君は?」
「僕は強制参加だよ。両親からの期待が重くてね。今からため息ばかりついてる」
「あはは、ご両親が有名人だと大変ね」
「それユッキーにも言われた」
「立橋先輩にも?」
「さっき廊下で会ってさ。ちょっと立ち話したんだ」
会話は弾み、予鈴がなる。
僕たちはHRに向けて準備を始め、担任AIからの話を聞いて授業に集中した。
放課後、特にどこに夜でもなく我が家に帰宅。
帰宅と言っても中学の玄関をくぐればすぐそこは我が家だ。VR中学校はそういう作りになっている。
アバターこそゲームを遊ぶ時と同じような設定をすれど、別に冒険はしないのでリアル準拠。勉強に励めるように集中力が増加する仕組みが施されているとかなんとか。
家に帰ってもすぐにVR塾に直行する。
それが終わればようやく晩御飯。
明日はイベントだからと父さんも早く帰ってくるらしい。
食卓から美味しそうな匂いがしてきた。
手を洗い、食器の準備などを手伝う。
お母さんは放っておけばなんでもやってしまうけど、だからといって何でもかんでも任せ過ぎるのは良くないとも思ってる。
だから僕は気づき次第自発的にやるように心がけている。
「お母さん、ただいま。手伝うよ」
「あら蓮君、おかえりなさい。お手伝い助かるわ」
「取り皿出しておくね」
「深めのお皿をお願い。今日は瑠璃の大好物の煮込みハンバーグにしてみたの」
「わぁ、聞いただけでお腹がすいてくるね」
「あ、そろそろ支度ができるから今のうちに瑠璃を呼んできてくれる?」
「はーい」
お母さんは僕がお手伝いをするようになってから、僕でもできるような仕事を残すようにしてくれた。
以前だったらその手の仕事は既に終わった後の方が多かった。
瑠璃はまだ4歳。と言っても既にお母さんによるスパルタ花嫁修行が課せられている。
スケジュールは分刻みで、寝る間もないんじゃないかというほど習い事にかかりきりだ。
それでも妹はそれが出来てしまう。
その姿はまるで幼い頃のお母さんのようだと父さんは語った。
最初こそは習い事の量も僕と同じくらいだった。
でもすぐに習得してしまい、手持ち無沙汰になってしまったのだとか。それからだ、お母さんが少しづつスパルタ教育の顔を見せてきたのは。
本人は自分もそうしてきたから、もしかしたら瑠璃もできるかもしれないって、そう思い込んでるんだ。
これだからなんでも出来ちゃう人はタチが悪い。
父さんもそれには苦笑いしてたっけ。
そして僕にこう言っていたのを今でも思い出す。
「瑠璃はきっとこのまま成長すれば母さんと同じ道を歩むだろう。でも蓮、彼女は彼女のまま、お前の大事な妹なんだ。それだけは忘れるなよ?」
それはきっとかつて父さんがお母さんに抱いていた感情そのものなんだと思う。
多くの葛藤を乗り越えた末に導き出した答え。
なんでもできるからって、機械じゃない。
心もあれば感情もある。それを忘れるなと言われた気がした。
部屋をノックすれば妹は無表情で僕の顔を一瞥してきた。
妹の瑠璃は、僕以上に思考を加速することに長けている。
だから表情を動かすよりも、そちらを優先しがちだ。
でも感情はある。ちゃんとあるんだ。
「お母さんにがご飯が出来たから呼んでこいって。それと今日はお前の大好きな煮込みハンバーグだぞぉ。準備が出来たら手を洗って台所に来てくれ」
「……」
妹の瑠璃は特に表情は変化させず、その場にじっと佇んでいた。決して反応がないのではない。彼女は言葉よりも先に脳内であれこれ考えてしまうだけだ。感情は遅れてやってくる。
だから言葉を伝えたら僕は彼女の部屋から出て行った。
彼女は一人を好む性質を持っている。だからと言って一人でも平気というわけじゃない。
僕は妹に友達と同じように接する。ちゃんと話しかけて、伝える。
感情は薄いけど、言ったことはちゃんと伝わってるってわかってるから。
台所に帰り、報告義務を全うする。
少しして妹がやってきた。首からは食事用のよだれかけを自ら着用し、自分の席に自ら着いた。
僕はそのことに安心しながら、自分の皿によそわれた煮込みハンバーグに目を輝かせた。
父さんの帰りを待つ間、イマブレの話題について少し触れた。僕とお母さんの話題に瑠璃も食いついてる様子だ。
彼女のイマブレデビューも近いのかもしれない。
そうこうしているうちに父さんが帰ってくる。
出迎え、一緒に久し振りの食卓を囲んだ。
瑠璃も食事中は笑顔をこぼす。
僕もそれを見て一口大のハンバーグを頬張った。
美味しくて表情を綻ばせる。僕も、妹も、お父さんもお母さんも。
その日は久しぶりの家族団欒。
いつもより多く言葉を弾ませ、来たる日の英雄決定戦を家族全員で共有した。
瑠璃は未だデビュー前だけど、どんなものかお母さんから伝え聞いているのか、その瞳から感情が伝わってくる。
今日初めて聞く。ううん、一週間ぶりに聞いた妹の声に励まされ僕は気持ちを昂らせながら床についた。
その日は興奮冷めやらぬまま夜更かしして、次の日遅刻しかけたけど。それくらいのやる気に満ちていたんだ。
そして時は巡り、運命を分ける時がついにきた。
ドライアドのアバターに神経を通し、対峙する絶対王者を見据えて交信を送る。
『今日は僕が勝つよ』
『楽しみにしてる』
両者の視線が切り結び、同時に空間が5度ほど爆発した。お互いの牽制で放った全てが弾かれた合図だった。
さあ開戦だ。
僕は空間に意思を広げ、得意技でもってお母さんを迎撃する準備を始める。
その日、全プレイヤーが驚愕することになるだろう。
魔王として君臨し続けたノワールに対し、唯一拮抗したプレイヤーが居たことを。
それもドライアドが畏怖して止まない『火』を使う事によって見せつけたことを。
ドライアドの身で、火を扱う。この意味をわからないプレイヤーはドライアドを一度でも体験したことのある者ならばなんと無謀なと思うかもしれない。だからこその切り札!
それは相反する属性の矛盾。
絶対的弱点を内包しているからこその平等性が瓦解したのだ。
『びっくりした? お母さんもまだまだイマジネーションが足りないね』
『言ってくれますね。このくらいならまだハンデですよ。よもやこの程度でお母さんが諦めるなんて──』
『思ってないよ』
『それは重畳』
拳の先に、圧縮した空気の層。それが二重三重におりかさなって内側に炎を内包している。
これが僕の新兵装、『エレメンタルアーツ』だ。
スキルに頼りすぎるな。ヒントはお母さんがくれたんだよ?
だからこれが僕の答えさ。
『風の弓セット。フレイムアローシャワー』
『それを、そう使いますか!』
ヒュパッ
それは弧を描いて火の粉を周囲に撒き散らす、ドライアドにとっては一大事の武装だった。
ただでさえ火属性ダメージは貫通する上にダメージ10倍。
当たらなくても近寄れない。だからノワールは風を起こすことでそれらを追い払う。
──そう仕向けた。
『それも読んでたよ。闇の団扇セット。対ノワールウェポン、六式……鳳凰舞!』
『くっ、我が子ながらなんて姑息な!』
団扇でもって仰ぎ【ノック】で囲んだ空気の層にお母さんを閉じ込める。もちろん周囲の渦には火の属性。だけど詰めの甘いこの術式じゃ簡単に出てこられてしまう。
お母さんも僕と同じで常にパワーアップしているから、だからこその対ノワールウェポン。
これらの真骨頂はノワールとしてのお母さんの動きを見て、その行動を割り出した未来演算。
改良に改良を加えてバージョンアップし、それもついに六式へと至った。
──見えた。
やはり術式の穴を縫って抜け出すつもりだ。でも、その割には何かを待っているような……
それはつまり誘い。
僕をそこへ誘導してカウンターを狙おうというのだろう。
だからその誘いには乗らない。
ならば僕が取るべき行動は一つ。より勢いを増して追い込む。
お母さんに、ノワールに手心を加えて一体どれだけのプレイヤーが今まで返り討ちにあってきたことか。
僕は今日こそお母さんを打倒すべく策を練ってきた。
だからこの勝負を落とすわけには……
『試合中に他の事を考えてましたね?』
『しまっ』
自分の身に起こった事を例えるならばこうだ。
ショートワープによる位置取り替え。
本来ならば空中戦である僕らに、その戦法は使えない。
だがお母さんは、一瞬にして動きを止めた僕の足元に岩盤を打ち上げ、その瞬間を見極めて位置を取り替えたのだ。
僕はあっという間に劣勢に追い込まれ……
『なーんてね。なんの対策も立てずにこんなもの扱うと思う?』
『隙ありですよ!』
『おっと』
術式は所詮術式。それを解けば僕に害は及ぼさない。
だけどお母さんはその隙を狙って追撃をしてきた。
脅威が霧散すれば、それによって溜まっていた鬱憤は僕に押し付けられる形になる。
鋭い一撃。
『……僕が誰に柔術を教わってるか忘れちゃった?』
『うわぁー』
突き出された拳をやんわりと受け止め、ひねり、そして投げ飛ばす。これはドライアドにとって天敵と呼ばれたジョージさんより受け継いだ技術。それらをドライアドの身で扱えるまでに昇華した。
『僕には空気投げも空牙も無理だけど、受け身くらいならこの体でも取れるんだよ!』
『ほんと、レン君はお母さん好みのライバルに育ってくれました!』
『そういって、また上からモノを言う。自分ができないからって僻むもんじゃないよ?』
『お母さんにそんな事言っていいと思ってるんですか?』
『もちろん、普通はダメだよ。でもここではこうやって油断を誘うのさ』
少し力んだ攻撃を受け流し【ノック柔術】を仕掛ける。
柔術は相手の力と勢いを使った体術だ。ならば重力を操ることのできる【ノック】を活用できないかと考案したのがこれ。
巴投げの要領で宙に浮かし──
『本日お披露目第二弾。雷の刀──雷神セット』
両手に雷をまとった刀を二本、顕現させる。
それを注視するのは四つの瞳。
お母さんと──お父さんだ。
『ノック剣術──不動阿修羅!』
僕は模倣した技術と技名をその日初めて披露する。だけどお母さんは違うことを気にしているみたいだ。
『レン君、悪いことは言わないからその恥ずかしい名前だけはやめておきなさい。お父さんみたいに後で苦しみ抜くことになるわよ!』
『恥ずかしくない、お父さんの剣術は世界一かっこいいんだ──!』
否定を始めるお母さんに、胸元で交差した刃を一気に振り切った。
唸りを上げて迫る十字の疾風。
お母さんはそれを弾こうと【ノック】を構え、すぐにそれが意味がないと悟ってショートワープで地上に移動した。
相変わらずいい読みだね。
【ノック剣術】は力の応用をノックで構成している。
如何に万能の力を持つ【ノック】と言えど、同じ根源を持つ能力には対処しようがないのだ。
それからもみみっちぃ親子喧嘩は続き、ようやく勝負がつく。
全ての手札を切らされてなお、余裕を浮かべるお母さん。
まだ切り札は隠し持っているぞと言わんばかりの態度である。
でも、お母さんは──
『よくここまで上り詰めました。まだ詰めの甘いところもありますが、次代を担うドライアドの使い手として合格としましょうか』
『合格?』
『今のレン君になら、わたしの代わりを任せられる。そう言う意味ですよ』
お母さんはそれだけ言うと、システムを操作して敗北宣言をした。正直まるで勝てた気のしない勝負内容だったけど、ようやく認めてもらえたことに、小さくガッツポーズをした。
続く借り物競争では、無事に勝ち残ったユッキーと組んでそのまま決勝まで進む。
英雄になれる10名に選ばれ、そこでお父さんとかち合った。
僕の憧れの存在のお父さんと語らい、そして同じ時間を共有した。
お母さんと違って一切手は抜いてくれなかったけど、それがとても嬉しくて、負けたのに僕は笑顔を浮かべていた。
試合が終わり、街を歩くと僕は『2代目』と呼ばれるようになっていた。
それはお母さんが生み出したドライアドの糸使いの2代目という事。
僕なんて全然ですよ。そう言ってしまうが、あの試合を見たプレイヤーたちは口を揃えてこういった。
「その謙遜は俺たちに刺さる。ありがたくその称号を受け取っとけ」
そう言われてしまえば僕にはそれを断ることもできない。
お母さんに認めてもらって、お父さんに本気を出してもらった。
英雄になって、それで2代目と呼ばれて。
僕はここにゴールがあるのだと思ったけど、違うんだ。
ここから始まるんだね。
ギュッと手のひらを握り、お母さんに託された2代目の重みに身を竦ませる。
『重いなぁ』
この称号はなんて重いのだろう。
僕はこれにふさわしい男になれるのだろうか?
いや、これからそうなれるように腕を磨けばいいのだ。
ここには隣で笑ってくれる友がいる。
彼女たちと一緒に、ここで。
fin
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