第63話 今を歩く若者達へ<上>

 あれから私達は食後の軽い運動と称して臨時パーティを組んでMOB討伐に乗り出しました。


 まずは近場からという事で、ゴミをアイテムバックに詰め込んでお片付け。

 アイテムバッグは形式上鞄の形をしているだけで、管理は実際メニューのアイテム一覧で行います。

 その中でも不用品を端っこに寄せて、っと。ゴミだけで重さが1000近くあるのをどうにかしたいですね。一番いい方法は食べる分のお肉だけとってローズさんの餌やりに混ぜ込めないかって案。だけど彼女は難色を示した。

 理由を聞くと「そうやって余ってるからって餌にゴミを混ぜて与えるのは流石に可哀想」との事。

 まるでペットのように扱っているかのような言い草ですが、彼女のやっていることは悪逆非道そのもの。

 なんせけしかけて高みの見物を決め込んで弱ったところを返り討ちですから。

 どの口が言うのかと。

 まぁゴミを押し付けて嫌がってるのも事実。違う方法を考えましょうか……不法投棄も……なんでもありません。


 それはそれとして。


 その中から将来有望(あまりもの)のプレイヤーを3人誘いました。


 焼肉試食会の時は多くのプレイヤーに舌鼓を打ってもらいましたが、良ければ、と誘っても難色を示しました。どうやらすでに入っているパーティから抜けることができないらしいですね。

 ただし一貫して彼らは私達のジョブを聞いた途端に聞こえなかったふりをしたので、問題はそこでしょうけどね。


 そういう意味ではあまりものどうし仲良くいきましょうか。三人組は昨日今日始めたばかり、どうせお金も持ってないし死んでも痛くないと言うのが理由のようでしたが、これは彼らの認識を変えることから始めていきましょうか。


 ヒューマンのルッツは黒髪短髪の男の子。ジョブはファイターでショートソードとダガーのなんちゃって二刀流の子です。

 ローズさんと気の合う元気いっぱい夢いっぱい……ですがその視線はローズさんの胸に釘付けでした。男の子ですからね。仕方ありません。

 お陰で私には見向きもしません。

 くそっ。女の魅力は胸だけじゃないないんですからね。


 もう一人はラビットのミミさん。真っ白な体毛を身にまとった獣人の女の子です。

 目元がクールでツンツンとした感じ。

 しっかり者で真面目な印象ですね。

 ローズさんの胸をガン見してデレデレのルッツの頭を掴んで一緒にローズさんに謝ってました。おやおや、仲睦まじいですね。

 ですがローズさんに謝る必要はありませんよ。その子見せた相手がどういう反応するか楽しんでるような子ですから。


 最後にそれを見て指差して笑ってる男の子がタイガーのジーク。

 こっちは完全に二足歩行している虎です。大迫力ですね。ですがお肉はしっかり火を通してから食べていました。

 猫舌な為多く食べれなかったことを内心悔やんでいたのでしょう。

 自分より多く食べていたルッツを笑うことで溜飲を下ろしている様子。

 それでも怒らないあたり、この三人は仲良しなんでしょうね。


 そんな仲睦まじい三人組の内二人を心中で抹殺リストに書き込み、表面上はニコニコしながら私達一行は戦闘で各々の力を見せつけるように動き出しました。


 ミミさんが狙撃で動きを止めて、ルッツかジークがトドメの一撃を入れる。

 これって連携かな? 違うような?


 案の定、男子二人が自由に動くためにミミさんが苦労をする構図が出来上がっていますね。

 ここで真打のローズさんが登場。

 彼女の《鞭打ち》はヘイトの消失と数秒間の意識誘導。

 ミミさんの仕事を奪う形で大活躍しました。

 ミミさんはやっと休めるとばかりにこっちへ来ました。はて? ここは休憩場ではないのですが。



「あの、ユミリアさん? いくらここのMOBが弱いとは言え、流石にそこまであからさまに休憩しているのはちょっと、危ないですよ?」



 あ、ダメ出しの方ですね。

 すいません、ダメな大人で。

 ですがこう見えて戦闘中なんですよ。

 そうは見えないだけで。



「まぁ、お気遣いありがとうございます。でも私こう見えて結構戦える方なんですよ?」

「そうは見えませんが……」



 そのまっすぐな瞳が痛い。

 ではなく、行動で示すとしましょう。



「大丈夫です。すでに綱はかけてありますから。隣に座って見ててくださいね」

「はぁ……」



 ミミさんは納得いかないながらも年長者を立ててやろうと態度を改め、隣に座ってくれました。

 聞き分けのいい子は好きですよ。

 では実演開始です。



「ここからどうやって攻撃するんですか?」

「すでに攻撃中ですよ。もう直ぐで倒せます。相手のHPゲージを見ててください」

「何言ってるんですか、そんな訳……あれ? HPがどんどん減っていってます! え、え! どういうことですか!?」



 意味がわからないとばかりに狼狽えるミミさん。そして衰弱しきった私の周りの5匹のホワイトラビットは光の粒子に包まれて消えてしまいました。アイテムバックの中には……うん、しっかり五匹入ってます。



「はい、戦闘終了です。どうですか? すごいものでしょう」

「え、あれ? 経験値が入って来てませんよ、バグですか?」

「いえ、私のバトルコックは対象を加工肉に処理してしまうと経験値が入らない仕組みなんです。そのかわり……」



 見せびらかす様にアイテムバックの中からさっきまで生きていた状態の加工肉をホールで取り出します。



「これって、ホワイトラビットですよね?」

「はい。加工しました」

「加工?」

「戦闘時に塩コショウで下味をつけて、一定時間置いた後に討伐すると加工肉になって、スキル使用者のアイテムバックに入る。それが、私のジョブの特殊効果なんです」

「そんなの聞いたことないですよ!?」

「そうなのですか?」

「ああ、いえ。正確に言うならバトルコックは検証の結果使えないゴミジョブとして掲示板で絶対に選ぶなって広く言い触られてます。だから詳しい内容は知らないんですよ」

「ふむ、つまりミミさんは人から聞いた噂を間に受けて実はよく知らない事を自慢するように言ったわけですね?」

「その言い方は棘がありますけど、そうですね」

「しかしこうして私が目の前で実践して見せましたがどうでしょうか? ミミさんにとって未だになんの魅力もないゴミジョブだと思いますか?」

「いえ……ただどうやって攻撃しているか分かりません。一体どうやって攻撃しているか教えてもらってもいいですか?」

「それは自分のビルドは言わないけど、私のだけ一方的に手の内を晒せと、そういう事でしょうか?」

「あっ……すいません。今日初めて会ったばかりの人に失礼ですよね。今の言葉は聞かなかったことにしてください」



 気落ちしたようにしゅんとするミミさん。

 別に虐めた訳じゃないのにすごい罪悪感があります。でも別に隠す事じゃないので言ってしまいましょう。どうせ遅かれ早かれ気づく事ですし。



「別に良いですよ」

「良いんですか? 隠しておきたい情報なんじゃ……?」

「少し語弊がありますね。私は別にこの使用法を秘匿しておきたいわけではありません。ただこういう戦い方もできますよというレクチャーをしておきたいと思いまして。

 まず初見の素人には扱いづらい部類ではあります。ですがその壁を乗り越えれば有用であると言えます。その為に必要な物は色々とありますが、一番大事なのは……」

「大事なのは……?」



 食いついてきましたね。オウム返し、もとい脊髄反射で言葉を返してきます。

 ダメですよー。もっと自分で考えてください。でもここで気付けって言っても時間の無駄なのでさっさと進んでしまいましょう。



「想像力。これにつきます」

「想像力……イメージ……ハッ! イマジネーション」

「そう、この作品のタイトルに関する想像力をいろんな尺度から捉えると一見平凡なスキルもこの通り。私は初期スキルの塩コショウ、タコ糸だけを使用して仕留めました。ミミさんはこれをどう使ったか知りたくはありませんか?」

「…………」



 無言は肯定と受け止めて話を続けます。何しろ私を見る目が貪欲に教えてくださいと言っています。目は口ほどに物を言うとはこう言う事ですね。

 この子目力凄い。



「まずはスキルの説明を致しましょう」



 糸を手から出すパターン。

 これは誰でもできるだろうという反応。興味を失ったような視線。

 この程度で説明ですか? みたいに呆れた溜息。

 しかし少し離れた位置に出して制御して見せると大層驚かれました。

 多分ここでしょうね、彼女の想定内。ゲーム的見識の枠外は。ここのゲームはその枠組みを打ち破ったプレイヤーに全く違う見解を与えるゲームです。

 システムの枠に収まっているうちはまだ本質を理解してないといっても過言ではないでしょう。



「まぁまぁミミさん落ち着いてください。これの本質は全く同じだったりします。本来なら魔法……魔力というのは目に見えないものです。ここまではいいですか?」

「?……はい」

「そこへ理論や術式で形にしたのが魔法です。形を強く思い描いた方が威力が増すと言われていますが、そんなのはなんの証拠もない根性論。なんて言われていますが、本当にそうでしょうか?

 私はその理論を信用しているクチです。まずは本質から話しましょうか。

 ミミさんはバトルコックのスキルを見た時、物理的なものだと思いましたか? それとも 魔法的なものだと思いましたか?」

「……分かりません。普通に考えるなら物理的な効果を思い浮かべます」

「はい、そこが最初の落とし穴です。私も最初こそリアルにあるものですから物理的なものだと思っていました」

「……違うんですか?」

「はい。これら二つは私のMPを消費して構築された魔法です。MPを消費するスキルは総じて魔法の概念で構築されています。それをただの補助スキルとして扱うか、その他の用途を模索するかどうかでこれからの戦闘面でも大きく変わってくるというのが私の見解です」

「……!」

「そして魔法は必ずしも自分の手の平から出す必要はありません。それは攻撃魔法を見れば分かりますよね?」

「はい。火の玉であったり、風の刃であったり、土の槍であったりと形は様々……あっ!」

「気づきましたね? 本来魔法とは術式で属性の概念を構築した時にその形を大きく変えます。そのあと物理演算に準じて威力が増減していきます。攻撃魔法はそこへ指向性を付与したものが一般的。

 炎なら中心に熱を巻き起こすわけですから、本来ならMOBに直接発火するくらい訳ないのに対して、ゲーム的効果で自分の認識した場所に停滞させてから敵に当てるものだと頭の中で思い込んで・・・・・しまっている」

「……え、だって。ゲームとはそういうものじゃ……」

「逆に聞きますが、酒場での料理について、あれはスキルで作っているものでしょうか?」

「酒場? というものはよく分かりません」



 あちゃ、この子達18歳未満か。



「それじゃあ串焼き屋さん」

「はい、それなら。え、あれって調理スキルじゃないんですか?」

「残念ながら。実を言うとこのゲームって料理に関しては時代遅れなんですよ。

 おかしいと思いませんでしたか? 町の中にレストランはおろか喫茶店すらないのは」

「それは……ここがそう言うゲームの設定だと……え、違うのですか? え、え!?」



 ここで一つ咳払いして話を切ります。

 ローズさん達が帰ってきましたね。

 続きは後にしましょうか。

 私も話をしながら30体目のウサギ肉を補充し、ローズさんへアイテム譲渡で10体渡します。もう移動するようですね。

 ミミさんを立たせてローズさんも元へと合流しました。



「ではミミさん、これからその概念の実践を見せます。心の準備だけしておいてくださいね」



 そう言って私はまだ混乱気味の彼女へウィンクをおくった。

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