第52話 善悪の分岐路<2>
迷子の二人を探しながら人混みを抜けると、背後から肩に手を置かれました。
精霊のお二人が私の肩へ物理的に手を置くことは不可能ですので別の人ですね。
振り向けば見たことのある様な人が恨みがましい視線こちらを睨んでいました。
誰であろう、無銭飲食をした3人組ですね。どうやら悔い改めて自首……という訳でもなさそうです。
「おや、これはこれはみなさんお揃いでどうされました?」
「どうしたもこうしたもあるか! さっきはよくもやってくれたな!?」
無銭飲食犯が顔を真っ赤にしながら叫びます。テンションがお高いですね。こめかみに青筋がお浮きになられてますけど、大丈夫ですか?
「あんたのおかげで街に帰れなくなっちまったじゃねーか!」
「どうしてくれる!?」
それに追従するように取り巻きの男達もまくしたててきました。
そう言われましても……
ただ話を聞く、という形で誘われて逃げ場を塞ぐように圧力をかけながら無理矢理奴隷契約を実行されようものなら普通誰だって抵抗しますよね? よね?
この人たちの中ではそれを抵抗したことがまるで罪であるかのような語り口。
どの様な人生経験をお積みになればこの様な性根が養われるのでしょうか?
非常に興味を示すところですね。
「俺たちはお前の悲鳴をご所望なんだ、わかるだろ?」
その精神構造をどうやって分かれと?
「さっき素直になっておけば痛い目見ずに済んだのに、よっ!」
「お前がいけないんだからな?」
無銭飲食犯の男たちが言い訳する様に恫喝しながら、その隙にお仲間が懐から何かを取り出して大地に投げつけました。
するとボワンと煙が私達を包み込む様に覆い、
<プレイヤー:ワルード率いる『シネシネ団』からプレイヤー:ミュウ率いる『精霊といっしょ』に対して決闘が申し込まれました>
<バトル規定は3on3……終了条件は相手チーム全員のキル、及び行動不能>
<バトル開始まで残り30…ザザッ…5……4……3……2……1…>
<バトルが開始されます>
また一方的に何かをされてしまった様子。確かに私は今パーティを組んでおり、それを含めればちょうど三人。だからか同意とみなされて勝手に進行されてしまいました。
ですが本来あるべきはずの同意確認が見当たらないのも気になるところですが、それよりもカウントが一気に加速したのも気になります。これはちょっと痛い目に合わせて吐かせる必要がある様ですね。
あちらさんはやる気な様なのでこちらとしては都合がいいです。
それと目に見えない空間に閉じ込められてしまった様です。
あとは、何かの賭け事の対象にされてしまっていますね。ちょっと不快です。
木製の立て札にどちらに軍配があがるかのオッズなるものがが示されていました。
はぁ、私のオッズはどうやら50と書かれていますね。どういう意味でしょうか? 高い方が有利なのか不利なのかはわかりません。
文字は読めども意味は伝わってこない。何をしたいのかさっぱりですが、どうやら応援されている様なので手を振っておきました。
バトル開始直後、私は男達の攻撃に苦戦しました。
どうやら先ほどの煙幕に何か仕込まれていた様子。
なんとか回避は出来るものの、手足が痺れて、行動を阻害されてしまうのです。
単純でスキルでもなんでもない見え見えな攻撃でも脅威となりうる、そんな状態に陥った訳ですね。
バトルフィールドを取り巻く人垣からはこんなやりとりが聞こえてきます。それは他人事でありながらもどこか心配する様な声色。
「うわ、あいつらエグいな。バッドステータスの重ねがけしてやがる。あのお嬢ちゃん、どこであいつらの恨みを買ったんだ?」
「大方無理矢理奴隷契約を実行しようとして抵抗されたんだろ」
「そんな夢のようなもんがあるのか?」
「裏ルートで入手可能だが、そのルートは最低でもカルマ値が20以上ないと参加できない。つまりプレイヤーキラー御用達ってこった」
「それを知ってるってことはあんた……」
「冥土の土産というやつだ。この事は内緒だぞ?」
「グフッ!?」
私の周りでそんな
迷子になったら探してもらう環境を作ればいい。それにはこの状況はうってつけだった訳です。
しかしこれ以上のバッドステータスを積み重ねるのはキツイですね。
私のステータスには麻痺、衰弱、疲労、鈍足などが休む間もなくかけ続けられており、それこそ傍目から見て窮地。
なんですけどねー……
なんですかその屁っ放り腰は。もっと腰を落としてしっかり地に足をつけてから攻撃してくださいよ。
あーあー武器に振り回されてるじゃないですか?
それじゃあ素人目に見ても簡単に対処されてしまいますよ……こういう風に。
あまりに見ていられなかったので糸で応戦。これはMPさえ無事なら実質身動き1つできなくても使用可能ですからね。
急に攻撃がかすりもしなくなった事に、賞金首の皆さんは苛立ちを募らせます。
なんですかもー、苛立ってるのはこっちですよ! もっと白熱しないと私の名前が注目を浴びないじゃないですかー。やだー。
泥試合とも呼べる戦闘開始からおよそ20分後。無銭飲食犯3人組は、私が「飽きた」という理由で糸で拘束、手荒に
そのままだと荷物になるといった個人的理由で胴元に引き渡し、冒険者組合に持っていくとポイントがもらえる事を口添え。
帰ってきた反応は無言のサムズアップ。どうやら彼らに賭けてて大負けしていたみたいですね。
ギャンブルは程々にしませんと。
「いやー、嬢ちゃん強いな」
「ほんとだよ、どんなビルドすればあんな動きができんの? スキル構成教えてよ」
「ね、ね。次は俺とやろうよ」
「君可愛いね、俺とこの後お茶しない?」
『あー、みゅーちゃんこんなところで道草してるー。いけないんだー』
『だめだよみゅーちゃん迷子になっちゃー』
『だめだよー』
戦闘終了後に様々な方からお声をかけられます。その中に迷子の二人を発見。
ですが彼女たちの基準では迷子になったのは私である様でした。
うぅ、お母さん悲しい。
まるで振り回される母親の気持ちになりながら、
「ごめんなさい、連れがいるのでまた後日お話を伺いますね」
なんて丁寧に対応。
マリさん達と合流します。
ノワールは私が迷子になったことにぷんぷんとしている様でしたが、妹分のマリさんに頼られるのも悪くないと言った感じでぴこぴこと頭にくっついてる花を上下させていました。
あ、これ満更でもないって感じですね。
うわ、わかりやすっ。
これでポーカーフェイスをうたってた過去の私ったら、どれだけ思い込みが激しいのでしょうか。思わずハグしたくなる愛らしさですがグッと我慢します。
これはたしかに……マリさんから大根役者と言われるのもやむなしですね。
今まで完璧だと思ってた過去の自分の現実を突きつけられた私は正気度を3ポイント減らし、二人と一緒に仲良く森林フィールドエリア1へと足を踏み込み……
ビクンビクンしながら卒倒しました。
もうやだ、ここの森嫌い。
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