第30話 みんなでキャンプ<3>

 餌が悪い。そう切り出したザインさんにマリさんは串焼きを食べ終わると首の下に提げたバッグをゴソゴソ漁って一つの素材を取り出した。



「それは?」



 ルイゼさんがマリさんの手を覗き込んで声を上げる。



「これはつい昨日入手したばかりの素材でね。良かったら使ってもらって構わないよ」

「へぇ、そいつも情報収集のついでにってやつか」

「そういう事」



 マリさん達は何やら通じ合ってる風に三人で仲良く会話を始めてしまいます。

 うぅ……もっと会話に入りやすい話題をふってよぉ。素材の話で盛り上がられると困ってしまいます。だって入手ができない関係上、自ずと興味沸かないんですもん。


 ザインさんは餌を変えてから直ぐに食いつきが良くなったと語ります。一投目から直ぐに引きがあり、小ぶりでしたがヒットし始めます。

 やはりエリア3のMOB素材が餌で正解だったようですね。

 しかし釣りで入手した素材は釣った本人にしか手に入れることができないらしいです。ここら辺は採取や採掘と同じですね。

 爆釣……まさに入れ食い状態が続くと笑いが止まらなくなるのでしょう。

 ザインさんもルイゼさんもマリさんも驚きの成果ににっこり。

 そしていつになく強い手応えにザインさんに緊張が走ります。



「これは……とうとうヌシのお出ましか?」

「ヌシなんているんだ?」

「釣りスポットの定番でね。ゲームならではの最強格が存在しているのがもっぱらなんだ」

『わー、見てみたいです』

「おう、いっちょ釣り上げてみるわ。嬢ちゃん達は少し離れてくれよ? ルイゼ、タモの用意だけしてくれ!」

「あいよ!」



 ザインさんが言う前からすでに準備万端な辺り息ぴったりですね。流石夫婦といったところでしょうか。見習いたいものです。

 十数分の格闘の末、浮き上がってきたのは全長2メートル近くもあるお魚でした。魚に人のような手足が生えてて……あれ? 何か見覚えあるような? これって……



「ギ……ギギギャ!」

「サハギンだ! みんな離れろ!」

「うわっこれが噂のヌシか!」

「バカ言ってないで鳥の嬢ちゃんは下がってな。ザイン!」

「おうよ! 一旦釣り上げる!」



 ザインさんは叫びそのまま釣り上げて臨戦態勢に入ります。

 網を持って待っていたルイゼさんもこれにはびっくり。釣りポイントにまさかのMOBですもんね。とはいえ戦闘が始まってしまえば油断はしません。

 ルイゼさんはそのまま網を持ち直してサハギンに被せて拘束します。うまい! 

 しかしサハギンは鋭利な爪で網を切り裂き自由の身に。なかなかやりますね。

 ザインさんはルイゼさんが稼いでくれた間に爪を研いで一閃。

 熊獣人らしく得意武器での猛攻が始まります。早速ヘイトを稼いだわたしを背負ったマリさんはその場で羽ばたき、木の枝に足を掛けます。そして登ってこれないことを確認するとそのまま威嚇します。



「やーい、ここまで来てみろ~」



 子供か! わたしと直ぐ下で戦闘を継続している二人はそう思った事でしょう。



「ナイスヘイト。ルイゼ、立て直すぞ」

「でもあんた、武器が……」

「そういやそうだった。嬢ちゃん達はゲンさんを呼んできてくれ! 時は稼ぐ!」

「頼んだよ!」



 そう言うとサハギンに向かって爪を振り下ろしました。ひゅーカッコいいです。ワイルドなのもステキですね。

 しかし一つ解せないことがあります。

 もしかしてわたし達弱いと思われてますか? つい先ほど実力を見せたばかりだといいますのに……いいでしょう。ここで一つ再確認と行きますか。



『マリさん、あれのお肉は要る?』

「食べる場所無さそうだよね。要らないかなー」

「おい、そんな悠長な事言ってる場合じゃ!」

「そうだよ!」

『慌てなくても平気ですよ。はい、一名様ごあんなーい』



 ゴッ ヒュン! 



「ギギ!?」



 わたしの掛け声と共にサハギンは本来の【ノック】の威力を更に増し増しで乗せて勢いよく上空へ弾かれてお星様になりました。

 はい、戦闘終了ですね。皆さまお疲れ様です。



「な、ななな……一体何が起こったんだ?」



 ザインさんは理解が追いつかないとばかりに狼狽えます。そしてマリさんが空を指し、わたしがこう付け加えました。



『先ほどのMOBにはわたしの固有スキルで空の旅を満喫してもらってます。先ほどここへ運んだ時の空輸の正しい使い方……その超強力版だと思っていただければいいですね』

「はぁ……」

「あのスキルってあんなヤバイ能力だったんだな」

『弾く際に重さによる制限を一切受け付けない特性がありますので。多分ズーのサイズでも問題なく持ち上がりますよ? 高度制限でそこまで高く上がりませんが、重力による自由落下と落下ダメージで瀕死確定ですね。

 現状森林フィールドのMOBで脅威になり得そうなものはボス以外いないので安心して釣りに集中して下さいね』



 ドライアドスマイルを添えて、当たり前のように言ってあげます。ささ、ザインさん達は釣り作業に戻ってくださいな。なんでしたらお手伝いしましょうか? 

 え、間に合ってる? そんなぁ。



「武器を持ってこなくていいと聞いたときは、気でも触れたのかと思ったが、なるほど、こういう事か。確かにこの能力があれば武器は邪魔だな。その分作業効率も上がる……か」

「しかしあんた、網がボロボロになっちまったよ。大物を釣っても掬いあげることもできなくなっちまったよ、どうすんだい」

「そいつは困ったな。おっと、さっきのやつがくたばったみたいだなドロップアイテムと基礎経験値が入った。LVアップだ」

「おー、私のにも入ってきた。こっちもレベルアップしたよー。ところでミュウさん、さっきのサハギンてLVいくつだった?」

『んー、25くらい? よく見てなかった』

「そんな高いのか?」

「森林は15~30までいるから平均くらいかな?」

「あんた、もしかしてあたし達結構すごいパーティに入っちまったのかい?」

「かもな」



 ルイゼさんがザインさんに呼びかけて、そう返されて萎縮気味に笑う。そんな気にしなくていいのに~。



『網がなければ手伝いますよ』

「そのスキルは水中でも使用可能なのかい?」



 ルイゼさんがすぐさま反応します。

 まあ普通そうですよね。だって仕事取っちゃいますし。



『ええと、そうですね。使用は可能です。ところで精霊にとって固有スキルはどのようなものだとお思いですか?』



 わたしの質問に三者三様に首を傾げます。マリさんまで……。少し寂しくなりながら答えが出るのを待ちます。

 一番最初に答えたのはマリさんですね。知ってるくせに。



「確か精霊の扱うスキルは自然属性魔法とは一般的に大きく異なる、だっけ?」

『うん、呼吸するのと同じように扱えるね』

「すごいんだな」

『でしょ? 精霊って実はすごいんですよ!』

「でもあのデメリットの数がなかなか厳しくて直ぐやめるって聞くよ? ミュウちゃんは平気なんだ?」



 お、少し興味を持ってくれましたね。少々語弊もありますけど、それは悪いところしか見てないだけなんです。前回獲得し損ねた精霊の輪を広げて行きませんと。わたしは心の中でグッとガッツポーズをして畳み掛けました。



『それは誤解です。まず武器が扱えないから、道具が扱えないからと言いますが、扱えないではなく扱う必要がないとは捉えられませんか?

 先ほどの戦闘にしてもそうですがこのゲームの本質は固有スキルの応用です。

 更に言えば種族特性でジャンケンして相性で勝ってればステータスが低かろうが勝利できる方程式が出来上がっているのです』

「そうなのかい? あんた、知ってた?」

「いや、初めて聞く。鳥の嬢ちゃんは……知ってそうだな」

「もち。ミュウさんとは長い付き合いだしね」



 わたしは更に言葉を加えていきます。いつになく饒舌になっていますが構いません。わたしと言うキャラクターを知ってもらうまたとないチャンスですからね、頑張りますよ。



『例えばですがズー然り、サハギン然り、それらは全て彼らの法則の上で成り立っている存在です。相手の得意フィールドで戦えば数段手強くなるでしょう』

「そうだな。水中戦だと手も足も出なかっただろう」

『それは地上に住まうもの共通の弱点が水中呼吸が出来ないことに起因しますのでそうでしょう。ですがサハギンもまた同じ、彼らはエラ呼吸しかできませんので釣り上げられた時点で結構弱体化していました』

「なるほどね、LVの低いあたしらでも対応できたのはそう言うことかい」

「そうなりゃもちろん空の上とか論外だわな」

『そこです。倒すまで時間がある程度かかるのは窒息するまでにかかったスリップダメージが原因ですね。死因が窒息ですのでラストアタックは当然拾えませんが、かすり傷を与えた時点で戦闘行動とみなされますので戦闘終了リザルトで基礎経験値が入ります。パーティを組んでいる方には僅かばかりですが振り分けられました。おおよそ1/3程度ですかね?』

「それだと鳥の嬢ちゃんがLVアップするのが納得いかないんだが」

「そこが精霊装備の妙でね、精霊は装備されている間、種族経験値が装備しているものに流れてしまうのさ。その分あたしはスキル熟練度が死ぬと言うデメリットも負っているよ。旨味がデカすぎてデメリットにすら思わないけどね」



 そういってマリさんが悪い顔で笑います。それはお母様が送ってくれた孝さんの趣味だという時代劇でよく見た越◯屋とお代官様の一連のやりとりを見ているような感じでした。そちも悪よのう、なんてね。



「なるほどね、マリ、あんたなかなか策士じゃないか。気に入ったよ」

「へっへっへ、姉さんにそう言って貰えるなんて思ってもいなかったでゲス」

『マリさんキャラ変わってるー』

「もうミュウさんたらノリ悪いー」

「何やってんだか。ほら、引き上げるぞ。ゲン達に成果を見せびらかす作業がまだ残ってる」

「おっと、一大イベントじゃないか」

「あたしも煽ってやりますぜ姉さん!」

「ああ、頼んだよ」



 なんて、わいのわいの言いながらわたし達は料理班の元へお土産話を持って帰りました。

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