第31話 みんなでキャンプ<4>
わたし達は特にあれから事件に巻き込まれることもなく無事に合流することができました。
料理班に素材を手渡し、彼らの腕を改めて披露してもらうことに。
同じエリア内ですからね。厄介なのはエリアデバフくらいです。
少し溜まりつつあるのでもう一回景気良くノックアップで上空へ払っておきました。
これでひとまず安心ですね。
そんな行動にも慣れてきたのか見事な手際だね、とルイゼさんにお褒めの言葉を頂きました。なぜかわたしの代わりにマリさんが照れてましたが……そこ、わたしのポジションですよ? すぐに出張ってくるのやめてよね。
引っ込み思案なわたしの代わりに代弁してあげた? 余計なお世話ですよーだ。
それより聞いてくださいよ、リッセさんたらわたし達のいない間にシグルドさんと距離を詰めていたみたいですよ。生真面目そうだったのになかなかやりますね。
あとでコツを聞きませんと。いやー、突発的なイベントでしたが楽しくなってきました。
わたし、こういうイベントって体験したことなかったんですよね。幼少の頃は体が弱くて外出するとすぐ調子が悪くなる子でしたから。
しかしゲンさんもシグルドさんもリアルでは妻子持ちらしく、ゲームは所詮息抜きで本気で打ち込むのは厳しいと断りを入れてました。好意を持ってくれたのは嬉しいとも言ってましたね。アフターケアを忘れないのは流石です。
きっと出来た旦那様なのでしょうね。
ゲンさんのお子さんもゲームに参加しているらしいですが、残念ながら戦闘が楽しくて仕方がないみたいで一緒に遊ぶことはないみたいですね。
シグルドさんのところはたまに奥さんとゆっくり小旅行をしにゲーム内散策をするようですよ。
今作は安全性がまだ確保し切れてないのでまだ呼び込めない状況だとか。
家族の話を持ち出して楽しそうに笑うお二人にリッセさんは落ち着いた様子で意気消沈とされていました。吹っ切れた……訳でもないようですが、競争相手が強すぎた事で諦めがついたようですね。
ここは独り身同士、あとでお酒付き合いますよ?
え、必要ない? そんなぁ。
冗談はさておき
ゲンさん曰く小魚は小さすぎて精密さを求められるので今回の調理では使えないと言うことでした。細工物にしたりと用途は色々とありそうですが、現環境……石包丁から素材を変えなきゃ無理っぽいですね。残念です。
ひとまずもったいないと言うことで小さすぎる小魚はマリさんとザインさんのおやつになりました。
マリさんはここで鳥獣人の本領発揮とばかりにゴクゴク行きます。丸呑みです。
ちょっと、さっきから食べ過ぎじゃないですかねぇ?
それを見て一同は楽しそうに笑います。
掴みはバッチリだったようですね、マリさんのこういうところが油断できません。隙あらば注目を独り占めしていきますからね。そのせいでわたしの影が薄くなるんですよねー。
ありのままを彼女へ伝えると、矢面に立ってあげてるのよと返ってきました。はいはい、いつもお気遣いありがとうございます。
料理班が調理中、見物組は先ほどの釣りの話題を広げていきました。
ザインさんの釣りは最初こそ趣味の範囲だったらしいですよ。けど、そのうち横の繋がりで漁業体験から本格的に仕事になってルイゼさんはさぞかし苦労したのだとか。生活がガラッと変わったのですから大変だったのでしょうね。
マリさんはうちの旦那様は釣りが趣味じゃなくて良かったと打ち明けました。
するとルイゼさんどころか全員がマリさんをギョッと見つめました。どうやら年下……未成年だと思っていたようですね。まあ、あの落ち着きのなさをみたら仕方がないと思います。わたしも彼女と同じ歳ですと打ち明けましたら指をさして笑われました。解せぬ。
種族が幼いからって中身も幼くなるわけじゃないんですからねー!
そう言い切ってやると、
「その言動がすでに……いや、自覚がないんならいいんだが」
なんて、ザインさんに失笑されてしまいます。へ、平気だもん、わたし大人だから我慢できるもん!
それからは過去に釣り上げた魚自慢です。趣味の頃は渓流釣りに赴いたり、ヤマが外れてまるでかからずに帰りにスーパーで買って見栄を張ったりと思い出話を語ってくれました。
話は少し逸れて他の
竿を投げれば確実に食いつくのはゲームとしては良いのですが、1vs1の駆け引きを楽しみたい勢であるザインさんには物足りなかったようです。そういう意味では今作は当たりだそうで。MOBまで釣れるとは思わなかったが、とひと笑いしたところで料理が完成したようです。
マリさんが落ち着きのない様子で鼻をクンカクンカしていました。
ゲンさん達としては不完全燃焼といったところでしょうが、その美味しそうな見た目に他の人達から思わず喉が鳴る様子が見て取れます。マリさんが「頂きます」と音頭取りをした後皆さんそれに倣って各々のスタイルで食事を初はじめていきました。
感想は種族や旅人、住民それぞれ違います。
「お、こりゃいけるな。エールが欲しくなる味わいだ。白身魚の淡白だが儚い感じが鮎と似てる。マヨネーズと七味が欲しいところだが、塩焼きも捨てがたい」
「これ次の新作メニューにするか? もうすこし塩辛くすれば住民にも受けが良さそうだ」
「そうか? 俺としちゃ生の方が美味かったが」
「そりゃあんたが獣人だからだよ。マリ、あんたもそうだろ?」
「でへへ、姉さんには分かっちゃうか」
「あんた顔に出過ぎだもん。バレバレだから」
「にゃはははは~」
「私はもう少し硬い味わいの方が好みです。このように柔らかいのは食べ慣れないというか、少し食べたりません」
「リッセにはそうかもな。住民にはワイルドな味の方が好まれる……か。いや、勉強になるな。どうもオレらは “普段” をメインにしがちになる」
料理人のお二人には未来性があるという意味で高評価でしたが獣人と住民には不評のようでした。精霊としてもありですね。薄味ですがお互いの良さを引き立てようとしている工夫が素敵です。そう伝えますと「気遣いありがとよ」と返されてしまいました。精霊に味覚が無いのは周知の事実なのでそう捉えられても仕方がありませんが、少し悔しいです。
「……そうだ、最近油が入ったと言うのは本当か?」
シグルドさんが思い出したようにリッセさんに振り返って話を振ります。油というのは食用油の事でしょうか?
料理のレパートリーに一役買いますものね、それはもう興味津々とばかりに食い気味に近寄ります。
リッセさんも満更では無い様子で説明を始めました。これはまたぶり返してしまいましたか? お顔が真っ赤になってましたよ、あらあら。
「へー、それって菜の花油?」
「いや、どちらかというと動物由来……ラードだ」
熱いトークを始めてしまった二人を他所にマリさんの質問にゲンさんが答えます。
それにシグルドさんが付け足すように意見を述べます。若干説明し足りなそうにリッセさんが呆けていました。そのあとジロリとシグルドさんを奪った相手にそれはもう気合の入ったメンチを切りました。ちょっとマリさん、ヘイト稼ぎすぎですよ~? 見ててハラハラしてしまいます。リッセさん、ファイト!
「安定して取れるんなら
「あたし唐揚げ好きー。お酒にも合うよね! いいね、いいね~。どんどん理想の環境になってきて心踊るよ。あたしにできる事ならなんでも言って! 協力するからさ!」
「おまえさんの仕事はたくさんあるぞー、覚悟しろよな?」
「ひょえ~、お手柔らかに~」
ゲンさんのトゲがたっぷり含まれた言葉にマリさんが悲鳴をあげます。
調子のいいことを言ったので早速天誅が下ったようですね。いい気味です。
でも実際に仕事をするのはわたしなんですよねー。彼女のバッグの上限数が圧倒的に少ないおかげで乱獲にまで至ってませんが、そのせいでフラストレーションが溜まってしまう癖をなんとかしませんと。
お魚の出来に不満は出つつも、わたし達はやり切ったように帰路につきます。途中途中で釣りスポットや採取スポットでお土産を入手しながらMOBを粉砕しながらフィールド入り口前のキャンプ地でパーティを解散します。
リッセさんはヒューマンですが戦闘能力を持ち得ていますので単独でも強い部類だそうです。戦果を聞きましたらエリア2でも無傷で切り抜けられるとのことでこのキャンプ地で解散となりました。
住民と別れたことでプレイヤー同士の反省会と行きますか。まず最初にマリさんが進行役として意見を伺います。
「みんなお疲れちゃーん。今日はどうだった? あたしとしては好感触! 機会があれば住民を巻き込んでどんどん発展させていきたいなと思ってるけど!」
元気溌剌とばかりにみんなの前に躍り出るとそう言って反応を待ちます。
「いやー、話を持ちかけられた時は正気を疑ったが、ここまでされちゃ認めざるを得ない。マリ、あんたなかなかに曲者だな。表面上で知った気になると手痛いしっぺ返しを食わされちまう。狙いはなんだ?」
ゲンさんが真剣な顔つきでそう問いかけます。しかしマリさんはいつものように飄々とした雰囲気で返しました。
「なんのことかわからないな~? あたしはあたしがそうなってほしい方向へ全力を尽くしてるだけだよ?」
きっとその答えが全てなのでしょう。
彼女は昔からワガママでした。それはきっと今も変わらないのでしょうね。結婚して丸くなっただなんてとんでもない。
より性悪に進化してるじゃないの。ふふ、さすがわたしのパートナーです。
先週はきっと不完全燃焼だったわたしをワザと見逃してくれたのでしょう。彼女がいると全力が出せないと踏んで……ならこの後期待してもよろしいのですよね? まだお昼から少し日が傾いた程度ですし。
ザインさんとルイゼさんを街へ空輸した後わたし達は山岳フィールドへ向かいました。狙いは鉱物です。
マリさんは食欲旺盛ですからね。前フリをされたまま潔く諦めるなんて彼女の辞書にはありません、いや、辞書があるかどうかすらわかりませんが。
その日以降、冒険者組合の酒場で出される料理がやけに豪華になったとか、料理人の使っている調理器具が明らかにストーン素材じゃないのだとか噂されますけどそれはまた別の話。
マリさんはまた一つ冒険者ランクを上げて、今回はパーティとして戦闘に赴いたのでわたしは種族レベルを10へ、マリさんはジョブレベルを15まで上げていました。いやはやあんな隠し球を持っていたなんて。
あれ? マリさんわたし居なくても結構戦えるんじゃないですか?
そんなこんなで楽しいひと時は終わり、わたしは慌ただしい日常へ帰還しました。
マリさんは来週も楽しみにしててね、なんてまた良からぬことを考えてるような表情でログアウトしていきました。
結局恋愛についてのイロハは聞けず終いでしたけど、だけどなんだかわかったような気がしました。
今日ログインしてわかったことは人生とはハプニング……思いもよらないことの連続で出来ている。それを取捨選択して今があるのだと、諭された気がしてしまいます。
彼女はああ見えて学のある子なので、侮れないのですよね。
もしもわたしとあの子の立場が逆だったら……わたしよりもっときっとうまくやるでしょう。
それを確信しているからこそ彼女には負けられないのだと心に刻んで眠りにつきました。
おやすみなさい。
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