第14話 ボスに挑もう!<下>
あれから数時間にも及ぶ泥仕合いとも呼べるやり取りを経て、ついにわたしたちは『レンゼルフィア』の討伐を果たしました。一人の欠員も出すこともせずの討伐は奇跡とも言えるでしょう。
『暴虐』のレンゼルフィアは倒れる寸前に空に向かって遠吠えをしていました。
そのあとやりきったかのように地に倒れ伏し、光の粒子を天に立ち上らせたあと、ワールドアナウンスが流れました。
ピンポーン
《マリ率いる『パーティ:寄せ集めの矜持』によって草原ボス『暴虐』のレンゼルフィアが討伐されました!》
《草原フィールドのボスモンスターが討伐された事により、本日からゲーム内時間で30日間、草原フィールドのデバフ効果とモンスターの能力が30%弱体化、特定スキルの封印が施されます》
《ボスモンスターが初めて討伐された事によって『クランシステム』が解放されました。詳しくは冒険者組合にてお問い合わせください》
《ボスモンスター討伐メンバーには種族貢献度が各100ポイント進呈されます》
《ウルフ種の進化ツリーに「ユニーク:暴風狼」が追加されました》
《ウルフ種のジョブリストに『エクストラ:サムライ』が解放されました》
《イマジンの酒場に【英雄】NPC:マサムネが配置されました》
《引き続きImagination BraveBurstの世界をお楽しみください》
マリ:おつかれちゃーん。なんか一気に情報来たねー
ミュウ:お疲れ様ー。みんな輝いてたよー
カイン:つっかれたー、でも……今日のエールは最高の味がするだろうな
ラディ:ホントね、でも今日は騒ぎたくない気分。このままゆっくり寝たいわー
アーサー:激しく同意。もう動けねー。最後無理してスタミナ切れたし
リージュ:みなさんお疲れ様でした。ほらアーサー、あなたが私達のリーダーなんだからしっかりしてよね
リチャード:みんなだらしないっすよー?
一人だけ元気の有り余ってるリチャードさんはスタミナ切れで疲れ切ったメンバー達に白い目で見られ、凹み気味でした。
ここで同じように元気の有り余ってるマリさんがみんなの元へ降り立ちます。
そしておもむろにわたしを装備から外すとスタミナ切れの激しいアーサーさんにくっつけました。
あ、わたしの出番ですか?
はい、じゃあ装備しますんでOKください。それっ。
みるみるHP、MP、スタミナを回復させるアーサーさん。回復しきった後は「オレはもう大丈夫だからそこで伸びてるカインさんにも頼む……」と何やら鎮痛な顔で懇願してきました。
ここ、ゲームですよ? 感傷にひたってる相手に言うのも野暮なので言いませんけど。
まあ頼まれなくても全員にやりますとも。なんといってもわたしの活躍の場ですからね。
全員のHP、MP、スタミナを全快させると、なんとも言えない顔でこっちをみてきます。なんですかーその態度は~。
プンプンと怒ってやると、あっけにとられたように呆け……そしてマリさんが吹き出したのを皮切りにみんなが笑い出しました。
皆さん笑いすぎですよ。
さてリザルトを見る前に主観で今日のMVPを決めます。自分はどんな仕事をしたかのアピールタイムですね。
しかしマリさんの取った選択は一斉に名指しするスタイルでした。
わたし的にはリチャードさんが濃厚ですね。なんといっても相手のHP回復を阻止できたのは大きいです。
そう思っていたのですが、彼らは口を揃えてこう言いました。
「そりゃもちろん、ミュウだろ」「ミュウだね」「リーダーも大概だったけど、ミュウさんが居なかったら、とっくに全滅してたと思う」「悔しいですけど今回は完敗です」「まさか俺っちにも活躍できる場面が来るとは思わなかったっす。それもこれもミュウちゃんのおかげっすよ!」
一斉にわたしに向かって声をかけてくれました。えっ、えっ? わたしはどう返したら良いんですか?
「ほらミュウさん、お返事しなきゃ」
『うん、そうだけど。でもわたしみんな程活躍はしてないよ。ダメージだって全然出せてないし』
「何言ってんですか。ミュウさんがいるだけで安心感が段違いでしたよ。何度も全滅を覚悟したけど、こうして無事なのはミュウさんがいてくれたおかげだし」
そう言ってアーサーさんは笑います。
「もっと自信持ちなさいよ、今日のMVPは間違いなくあんたよ」
ラディさんはわたしを担ぎ上げると抱きしめながらそう言って来ました。
なんだか照れくさいですね。
「私、負けませんよ?」
なぜかリージュさんにライバル宣言をされてしまいました。わたしは一体彼女の何に火をつけてしまったんでしょうか?
「お疲れ、そして今日はありがとうな」
片付かない顔でカインさんは喜びと哀愁の混ざった顔をして語りかけて来ました。まるで今生の別れみたいな雰囲気です。
「こーら、あんたはなんて顔で挨拶してんのよ!」
わたしを抱き上げてるラディさんはわざわざ抱き直して片手を空けるとカインさんの頬をおもむろに抓りました。
「いだい、いひゃい! ふぉむぉえいひなりなにをふるんだ!」
更に口の端に親指を引っ掛けて釣り上げるラディさんに、カインさんはやめてくれと懇願します。
「うっさい、バーカ!」
ラディさんはカインさんを怒鳴りつけると、バカはほっといてあっちに行きましょ、なんてマリさんやリージュさんのいる場所に向かいました。
彼女は何をそんなに怒っているんでしょうか? わたしにはよくわかりません。
「へいへーいラブな波動を感じるぜーい?」
『茶化すのはやめてあげなよ、マリさん』
「おっと、ここにも負け犬が一人」
『まだ勝負してないから負けてませんー』
「そう言うのを総じて負け犬って言うのよ? それより彼にお別れ言った?」
『言えなかった。そこに
「ま、ねー。でもこれでこのゲームの仕組みは浮き彫りにされたね?」
『仕組み? 英雄のNPC化?』
「ノンノン、フィールドボスの強さの秘密よん。英雄の系譜……であるのならどこに誰が潜んでいるのか気にならない?」
『わたしのは案外すぐそこに居そうだよね』
「あー……ね。これから大変よー?」
『かな?』
「なんの話ー?」
興味ありそうなリージュさんの声に、マリさんは口を濁し、わたしは言葉を閉ざします。
すぐになんでもないよーと切り返すマリさんでしたが、リージュさんは怪しい……とばかりに視線を突き刺しました。
ラディさんはわたしが気に入ったのかさっきからずっと上機嫌です。
わたしはなんだか年上のお姉さんができたような気持ちで嬉しくなります。
だけどまだ、元英雄がこのゲームに参加していることは話すべきじゃないとも思います。それはプレイヤーにも、住民にも……
マリさんも同じ気持ちらしく、リザルトに従って素材整理を始めました。
総合与ダメージMVPは間違いなくアーサーさんです。リザードの筋力はヒューマンとは比べ物になりませんからね。
『暴虐』の名を冠した小手はアーサーさんに渡りました。
そしてサポートMVPはまさかのわたしでした。ですが精霊は武器も防具もアクセサリーも素材も要りません。だからみんなで分けてくださいと言ったのですけれど、何故か全員結託してわたしに使ってほしいと『暴虐』の名を冠したネックレスを渡してくれました。
その後は順番に素材をジャンケンで奪い合い、街に安全に帰ると冒険者組合前で歓迎されました。
住民のみんなも、プレイヤーのみんなも、そこには笑顔が洪水のように溢れていました。
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