第13話 ボスに挑もう!<中>

 アーサーさんの攻撃の溜め時間をメンバー一丸でなんとかして稼いでます。

 それよりもリチャードさん、毒攻撃の事忘れてませんか? 

 少しスタミナを回復させた『レンゼルフィア』はすっくとその場で立ち上がるとアーサーさんに視線を向けました。

 カインさんやラディさんの攻撃には目もくれず、のしのしと足を進め、まだ溜めの終わってないアーサーさんに向けて嘲笑うように舌舐めずり後、「なぎ払い」を仕掛けました。

 甘いですよ。はい【ノック】。


 攻撃を無情にも弾かれた『レンゼルフィア』はまた君かと言わんばかりにこちらをジッと見つめます。

 アーサーさんは溜め姿勢から必殺の【地属性範囲物理攻撃グラビトンスタンプ】を発動させます。

 しかし『レンゼルフィア』は攻撃範囲上からジャンプでそれを避け、アーサーさんの顔が悔しげな色に塗りつぶされてしまいます。

 まあそんなことはさせませんけどね。

 マリさん、その位置維持しててね。



 ミュウ:残念、それは下策でしたー。リチャードさん、毒攻撃準備、パーティメンバーはジャンプして対衝撃姿勢用意。

 いっくよー【ノック:下方向/大】



 ガヅン! 


 回避行動として飛び跳ねた『レンゼルフィア』は突然真上から殴られる様な衝撃と共に地面に衝突しました。

 上を確認するも、そこではバードが上空を旋回するばかりで自らの体をどうこうできる様なものはどこにもありません。

 頭に疑問符を浮かべながら『レンゼルフィア』は姿勢を整えよう……としたところで違和感を覚えたことでしょう。

 先程から立ち上がろうとしている前足に力を入れているのにも関わらず、その場から動けないのですから。

 へへん。わたしの裁縫スキルで縫い付けは完了済みです。

 残念ですがこちらのスタミナが回復するまでの時間を稼がせて頂きます。そこでおとなしくしていてくださいね? 


 そして直後、自らが毒状態に陥っていることに漸く気付いたようです。

 鈍感さんですね。リチャードさんには毒攻撃後に距離を取るように伝えてあります。

 彼が倒されてしまうとこちらはジリ貧に陥ってしまいますから。状態異常って案外大事ですよ? 威力を期待してはいけません。あれは相手の得意技を封印するのに活用するものですから。


『レンゼルフィア』は動かない自分の体を鬱陶しく思いながら、自分を毒状態にした相手を視線を滑らせて探します。

 そして挙動不審気味のリチャードさんに狙いをつけたようです。

 と、ここでタイミングよく縫い付けの効果が切れてしまいます。恨みがましそうにむっくりと起き出す。

 そして自分にここまでダメージを与えた挑戦者を舐めるように見回すと、どの順番で屠ってやろうかと舌なめずりをしました。思考がわかりやすいですね。


 そして彼の必勝パターンだったのでしょう。『レンゼルフィア』は「王者の咆哮」からの「グラビトン」を仕掛けてきました。

 しかしどうしたことでしょう。

 誰も鈍足状態に陥らず、攻撃は空を切り始めました。

 どうにもおかしい。

『レンゼルフィア』は自らの身に起こった状態に頭を悩ませています。


 そうこうしているうちに毒でHPを回復できないまま、HPが6000を切りました。もう最大HPの半分を切っていたのです。

『レンゼルフィア』は焦ってますね。




 マリ:いやー、敵さんは混乱してるようだね、今のうちにみんなは出来るだけ回復しといてー。準備できたら行動開始、畳み掛けるよー


 アーサー:さっきから向こうの攻撃が一切こっちに掠らなくなったんだがあれは何だ? スゲー楽なんだけど? 


 ミュウ:あれはわたしの固有スキルの【ノック】だねー。相手にダメージは与えられないけど問答無用で相手の攻撃を弾くの。わたしが上空にいるときは期待してていいよ


 ラディ:それで……あちらさんの攻撃がさっきから初動で潰され続けてるのは。すごい助かるけどMPは持つのかい? 固有スキルとは言え消費はするんだろ? 


 ミュウ:知らないの? 精霊は常時MP回復状態だしスタミナなんて無いんだよ? 


 リージュ:それずるいですよねー。こっちはまっずいルナポーションで我慢するしかないのに


 アーサー:リージュだったら精霊になれるんじゃないか? 要領いいし


 リージュ:流石に自分からなろうとは思わないですけど……




 えー、なりましょうよー。リージュさんは頑なにドライアドになろうとはしません。わたしはガックリとうなだれながらも様子を見守ります。




 カイン:今日はミュウに驚かされてばかりだな。よっし、スタミナが回復した! いっちょあのイヌッコロを仕留めるぞ! 続け、野郎ども! 


 アーサー:オウ! リッチはまた毒攻撃準備頼むな


 リチャード:ガッテンっす! 大任を任されて大変っすけどやりがいがあるっす



 カインさんの呼びかけにアーサーさんは張り切り、リチャードさんも仕事を任されてイキイキし出しました。やはり任されるというのは責任も大きい分、やる気に繋がるようですね。覚えておきましょう。



 ラディ:ちょっとー、こっちに野郎じゃないのも居るんだけどー? って事でこちらも仕掛けましょっか、リージュちゃん? 


 リージュ:この歳でちゃん付けはやめてくれませんか? 呼び捨てで構いませんよ、ラディ


 ラディ:あんたらエルフはあたしから見たらみんなお嬢さんに見えるのよ。それじゃあリージュ。男どもに女でもやる時はやるって見せつけてやろうじゃないか。遅れないでよ


 リージュ:はい! 



 ラディさんは不満の声を漏らしますが、どうやらリージュさんが話しかけるきっかけ作りにその話題を利用したみたいですね。

 リージュさんは子供扱いされたことに若干ムッとした様子ですがすぐに意気投合し、元気に駆け出して行きました。

 若いっていいですね……わたしも若いのに何言ってるんでしょうね。

 マリさんも同じことを思ったのか、語り出します。



 マリ:青春してるねー


 ミュウ:だね ……昔を思い出しちゃった? 


 マリ:どうだろ? でも楽しいよ。こうやって大空を駆けるのもゲームならではだもんね。あたしはずっとインドア派だったしさー


 ミュウ:マリさんはずっと外に出たかったんだ? 


 マリ:どうかな? おっとミュウさん、アーサーさんががピンチだよ、射線合わせるね





 アーサー:オラァ! 隙ありだ! こいつもくらっとけぇ! 【グラビトンスタンプ】ァッ! 



『レンゼルフィア』のワザと作り出した隙にまんまと引っかかったアーサーさん。無理な体勢から必殺攻撃を繰り出します。案の定、その攻撃は不発に終わってしまいました。

 そしてバランスを崩して隙だらけになってしまいます。

 普通ならこんな無防備な姿勢では一方的にムシャムシャされてもおかしくありません。

 そこでわたしはアーサーさんの体を『レンゼルフィア』の「噛み砕き」攻撃の範囲外に押し出すことにしました。



 カイン:あのバカ、無理な体勢で打ち込みやがって。リージュ、フォロー頼む! 


 リージュ:もう! いつもの慎重さはどこいったのよ! バカアーサー【ラージヒール】



 現場でもカインさんが機転を利かし、リージュさんと連携してアーサーさんを救出してくれるようですね。ナイスカバーです。

 あとはわたしにおまかせあれ。ほいっと。【ノック】で安全圏まで飛ばしておきます。やれやれですね。



 アーサー:悪い! こんなに一方的な戦いになるとは思わなくて、少し調子に乗った


 ラディ:悠長に喋くってるんじゃないよ! 仁王立ちの構え……第2波、くるよ! 


 カイン:ミュウ、頼む! 


 ミュウ:お任せあれ【ノック】! 


 アーサー:おっし怯んだ、リッチ! 


 リチャード:俺っちの美技に酔いな【ポイズン】! 


 マリ:リッチーないすー。輝いてるよー


 カイン:おーし、オレ達も仕事すっか。アーサー、遅れんなよ! 


 アーサー:待ってください、まだスタミナが! 


 ラディ:時間稼ぎはあたしとあのバカに任せときな。あんたはその間にしっかりと準備しときゃいい。なーに、あのバカは殺しても死なないからね。それに空の上には頼もしい守護神様がついててくれる


 アーサー:ラディさん……


 ラディ:あんましみったれたツラすんじゃないよ、せっかくのイケメンが台無しだよ? 



 あらあら、言われてますよ。

 でもラディさんのあれは前に立たなければならない役目に囚われすぎるなという励ましですね。

 時間は稼ぐからその間に体勢を立て直せと。

 カッコいいですね。一度でいいからわたしも言ってみたいです。



 アーサー:…………リージュ


 リージュ:なに? 


 アーサー:オレ達もあんな風になれるかな? 


 リージュ:なれるよ、いつかね。でもまずはこいつを倒さないと。あともう一息、頑張るよ


 リチャード:俺っちの事も忘れないで欲しいっす


 アーサー:忘れてないさ。お前も今日は大活躍だったぞ? だからこそ、倒そう……今日、ここで。今まで溜め込んできた恨み辛みを精算をしてやろう! 


 リージュ:アコ達も連れてきたかったね? 


 アーサー:後でいっぱい自慢してやればいいさ。よし、俺の準備はOKだ。行くぞ、リージュ、リッチ! 


 リージュ:はい! 


 リチャード:おうっす!

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