第11話 寄せ集めパーティ結成!
バサバサと羽ばたく彼女の背中越しに景色を眺めていると、時折こちらに強烈な視線を感じます。
その場所はフィールドボスのいるエリア。そこでは戦闘中で、傍目から見てもプレイヤーが遊ばれているのがわかりました。
草原フィールドのボスはおっきな狼さんです。『暴虐』、なんて大それた二つ名をつけられていますが所詮は猿山のボス気取り、相手にする必要もないでしょう。
しかし何でしょうか。この熱視線は。
何だかすごく居心地が悪くて居た堪れない気持ちになってしまいます。
それを心配してくれたのか、マリさんが下の景色をみやり、ははーんとしたり顔で声をかけてきました。
「ミュウさん、何だか狼さんから熱々のラブコール貰ってるみたいだけどぉ、どうするの?」
『ラブッ……ええぇぇぇ、あれってそういう意味なの!?!』
「敵意もなくジッと見つめてくるなんてそれ以外ないじゃない。それともなにー? ミュウさんはそんな純情ボーイからの視線を感じても何にも感じない鈍感ガールなわけー?」
『ボーイって……メスだったらどうするのよ……確かにビシビシと感じてるけどぉ。だからと言ってどうお返事したらいいのかわかんないし……』
「あーはいはい。ミュウさん奥手だもんね~、むふふ」
『マリさんなんて嫌い』
「ぷくくっ……拗ねない拗ねない。でもあれよねー。彼も相当好きモノよね。よりにもよって絶対に手の届かない高嶺の花に目をつけちゃったかー。身分差? 年の差?」
『拗ねてないもん。それに好きモノってなによー。わたしは普通だよ?
ゲームの時なんてリアルより取っつきやすいぐらいだし。あとなんでも恋愛フィルターを通して見るのやめてよねー』
「それ本気で言ってるの?」
『本気も本気、大真面目だけど?』
「あっはは。やっぱりミュウさんは昔から変わんないねー。精霊って今も昔も扱い難しいから誰もやりたがらないし、それでもやってるミュウさんに対してどこか取っつきにくいってみんな思ってるよ? ……口には出さないけど」
『えぇぇ……そうなの?』
「そうそう、だってミュウさんてば基本受け身だからあたしを介さないと自分から話しかけすらしないじゃん。たまに話しかけてもなあなあで返されるでしょ?」
『うん……』
「だから精霊のイメージが良くならないんだよー」
『えぅ……じゃあどうすればいいのよぉ』
「これはいっちょPRするしかないわね」
『どういう風に?』
「ここは知将マリさんにお任せあれ。一旦街に戻るよー」
『わかったー』
そんなこんなでフィールドボスからの熱視線をくぐり抜けて街に戻ったわたし達は、未だ熱気を放つ冒険者組合に戻るとパーティの呼びかけをしました。
マリさんは自分から今話題の! とか、チャージシープの簡単処理法! とか、あの肉をもう一度! などと身振り手振りで呼び立てて、腕に覚えのあるプレイヤーやNPC住人からの興味を独り占めしてしまいました。
すでに出回ってる情報を自分からバラす度胸に串焼き屋さんのゲンさんも冒険者組合職員もバツの悪そうな顔をしてます。
彼らとしてもマリさんの性格を読み切れなかったのでしょうね。
そして仕入れたその情報で一儲けする算段だったのでしょう。
しかし相手が悪かったですね。
彼女はお調子者に見えて口が達者です。
だってお肉程度で滑らせる口ですもん。それは広まっても痛くない情報です。話をきっちり分けるタイプの彼女の掌の上で踊らされてしまったようですね。彼らに同情を禁じ得ません。
そしてわたしがそんなことを考えているうちに、彼女は手練手管でバランスのいい人物を見繕い、パーティに入れるメンバーを決めてしまいました。
集まってくれたのは住民代表である、
「屈強」カイン【F】ヒューマン:男
「俊足」ラディ【F】ラビット:女のコンビ。
プレイヤーからは、
「諦めの悪い」アーサー【F】リザード:男
「見識高い」リージュ【F】エルフ:女
「先読み」リチャード【F】ラビット:男の三人組。
各種ビルドの傾向は二つ名が教えてくれます。
カインさんはタンカー兼アタッカー
ラディさんは回避盾兼釣り役
アーサーさんは純アタッカーかな?
リージュさんは手広くやってそう
リチャードさんは索敵+搦め手かな?
見ただけでわかるのはこれくらいだね。ちなみにわたしたちの場合はこう。
「仕掛人」マリ【F】バード:女
「はぐれ精霊」ミュウ/ドライアド。
精霊は冒険者になる必要がないのでランクはありません。
そして二つ名とは戦闘スタイルを勝手にこのゲームの高性能なAIが判断してつけられるもので、一目でどんな戦闘スタイルであるかを教えてくれるありがたいものだそうです。
今作から追加されたものなんだそうですって。……前作はまあ、そこらへん自称でしたからね。
わたしはそこまで活躍してませんのでそのままです。
それに比べてマリさんのなんて……プププ、みんなどうやって声かけていいか躊躇してるの丸わかりだよ?
ねぇねぇ、マリさんならここからどうやって切り返すの?
「いやー、いいねぇ。いいバランスだよー。あたしの《見立て》も衰えてないねー」
……と思ったらみんなからの視線も無視して笑ってました。あ、そこは気にしないんだ。清楚ってなんだっけ?
わたしのイメージと違うような……それとも国によって違うのかな?
「集まってくれてありがとね。あたしはマリ。そして後ろにくっついてるのが……」
ん? 視線がこっちに集まってます。
え? え? 何、なんなの?
「ほらミュウさん、自己紹介。ごめんねー、この子人見知りで」
ああ、そういう事。
せめて事前に伝えてよー。
ぼーっとしてたじゃない。
『えっと、ミュウです。こっちの子とコンビ組んでます。みなさんよろしくね』
こてん、と首を傾げてドライアドスマイル。みなさんからの受けも良いようでエリア内に喜びの気配が強まります。
「おお、これが噂の精霊かー」
「あたし精霊なんて見るの初めてだよ、本当にいたんだね」
カインさんとラディさんが順番に言葉を並べます。住民にとって見慣れないものらしいですね。
それに比べてもう一方の反応は……
「へぇ、これが。スタミナが回復するってのは興味あるけど代わりにスキル熟練度が死ぬって聞くが使用感はどんな感じなんだ?」
「私はMP自動回復が羨ましいです。マナポーションは不味くて飲めたものじゃないのですごく、すごく興味があります!」
「あとで俺っちの背中にも乗ってよ!」
……と、アーサーさん、リージュさん、リチャードさん達は先日解放されたばかりの精霊装備について興味津々でした。
ここはもっと住民の皆さんのように興味を持ってくれる所では?
わたしはゲームだから性能に期待するのは仕方ない……と思いつつも自分勝手なプレイヤーさん達に少し憤慨しました。
「はいはい、雑談はそこまでよ皆の衆。これからパーティを組んで自分のできることをPRしてもらいます。
ドロップ素材は早い者勝ちで、レア素材は戦闘終了後のリザルト順で分けます。
こちらからの提示は概ねこんな感じです。各自二つ名に恥じない働きを期待していますよぉ!」
マリさんが音頭を取りパーティがざわめきます。本来ならばその手の話はパーティを集める前に話し合うことですが、彼女はそこを面倒くさがったみたいですね。やれやれです。
「仕事を見せるのは別に構わないがパーティは6人までだ。一人余るぜ?」
アーサーさんの言い分も最もです。それについてはマリさんが説明してくれました。
「あー、装備中の精霊は頭数に入らないからヘーキヘーキ」
「そうなのか? ならこっちは構わないが」
「へぇ、そういう風になるんだな。ならパーティにも今後誘いやすいな」
マリさんの説明に各グループの代表者であるカインさんとアーサーさんは納得したように了承しました。
見事な手際でしたね。
こうしてわたし達の『パーティ:寄せ集めの矜持』が結成されました。
パーティ名を考えたのはもちろんうちの知将ことマリさんです。メンバーに組み込まれたみなさんは何か言いたげでしたがわたし達はすでに空の上、以降パーティチャットでやり取りを行いました。
早速草原で腕を披露することになります。世の中には言い出しっぺの法則というのがあります。
そしてパーティを組んでいるプレイヤーにはドロップ時のアイテムはランダムで各プレイヤーのバックに入る仕組みです。
そこでわたしのサポートを受けて安定化したマリさんの危なげない強襲攻撃にパーティのみんなから拍手喝采を頂きました。
マリさんはラストアタックもきっちりいただき、高品質のお肉もゲット。
そして殺気立つエリア内。
マリさんに集中する
しかし相手はすでに空の上。手を出せないまま視線を真上に固定させてしまいます。
という事で残りのメンバーさんも各々の仕事をこなします。
熟練、とまでは行かないまでも、それなりに場数を踏んできたメンバーさんは、自分から隙を作った相手に容赦はしません。目の前に脅威が迫っているのに目を反らせない。ヘイトとはモンスターの野生的直感を鈍らせる効果があります。
そんな隙だらけの相手は棒立ちに等しく、 ゴヅン! という音とともにその場で立ち尽くした、全長がヒューマンに迫る勢いのブラックラビットはHPを全損させて光の粒子を散らしました。
アタッカーのアーサーさんはスキルを使いすらもせずにオーバーキルさせたようです。お見事。
次いで同じアタッカーのカインさんが盾と見紛うほどの幅広さを持つ大剣を構えます。マリさんの見立てではバスタードソードらしいですね。斬るよりも叩き潰す事に特化した武器だそうです。
アーサーさんとは違い、それを面で押し潰したり、自分を中心にして遠心力で振り回すたり、遠投の勢いでそのまま放り投げたりと変わった闘法をお持ちでした。マリさんは口笛を吹き、わたしもおもしろいなーとワクワクする思いでした。
ラディさんは小弓を使い、威力よりも手数で行動阻止、足止めをメインにたまに状態異常を付与する矢を放っての完全サポート型。隙の多いアーサーさんと組んでいるうちにあの形に落ち着いたんじゃないかとマリさんは語ります。
そしてエルフのリージュさんは攻撃魔法よりも補助を充実させていました。
スタミナ切れの早いリザードのアーサーさんのバックアップがメインのようですね。リチャードさんはアーサーさんの溜め攻撃の時間を作る間、回避盾として働き、調合からいろんな薬品を浅く広く作り出せるようでした。
火力が2のサポートが3、そして上空ヘイトとわたし。確かにマリさんのいう通り、バランスのいいパーティみたいです。
上空からのヘイト取りの安定性にメンバーはここまで楽になるのかと拍子抜けしてたのが可笑しかったですね。これでステータスよりも種族特性が大事だと気付いてくれれば良いのですが……
マリ:よーしエリア2もあらかた片付いたし次行こう、次!
カイン:空中ヘイト取りヤベーな。ヘイト管理には自信あったが、出る幕ねーわ
ラディ:こんなにも変わる物なんだね。これならあたしも楽できそう
アーサー:ヘイト一つでこんなに楽になるんだな。もっと早く気付くべきだった。リージュ、ウチらもコレ取り入れようか。戦線維持がすごい楽だ
リチャード:俺っちもしかしてお荷物? さっきから活躍できてないし
リージュ:私も良いとこ取りばかりして恐縮です。こんなに楽できたのなんて初めてで、MPも自己回復だけで済んでます。精霊のミュウさんもそうですけど、リーダーのここぞと言う時にヘイトを奪ってくれるタイミング把握能力も凄い助かってます
ミュウ:ありがとー。でもみんながお互いに連携を取ってくれたからここまでうまくいったんだよ。わたし達はそのお手伝いをしただけー
マリ:そうそう、ミュウさんが良いこと言った。あたし達はあくまでヘイトを取っただけよ。倒したのは皆なんだからもっと自信を持ってね!
そのあと当たり前のように難関と呼ばれたエリア3を踏破したわたし達は、ボスも行っとく?
ぐらいの軽い流れになるのは必然でした。
なんと言ってもパーティメンバーは全くの無傷で戦闘を終了してきたのです。
マリさんは初めからこれを狙っていたのでしょう。その流れを待っていましたとばかりに乗っかりました。
わたしはマリさんの背中に隠れながらちょこちょこ動いていただけで暴れたりなかったのでちょうど良かったです。
彼からのラブコールのお返事もまだしていませんしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます