駆け出せ!スローライフ
第3話 キャラメイク
日々の生活を終えまして、私はとうとうこの日を迎えることができました。
ああ、なんと充実した日々だった事でしょう。楽しみにしている予定が1つ増えただけで今までのように多少の事で気落ちすることもなく、このようにウキウキとして気持ちで過ごせたのなんていつぶりでしょうか?
そうそう、あの後は特に問題もなく業務をこなし、お父様にもお叱りを受けることはありませんでした。
そのことだけが気がかりだったんですよね。
茉莉さんとはあれからも何度か連絡を取り合ってはログインする時間調整を行なっています。
なにせこちらでの一時間が向こうでは5時間も経ってしまうとのこと。
ほんの少し遅れただけでもだいぶ待たせてしまいます。
さて、ゲームスタートです。
ゲームタイトルがどーんと出てきてムービーが始まります。短めのムービーが謎を残したまま終わると辺りは闇に覆われて先ほどの余韻を燻らせたままチュートリアルが始まります。
《ようこそImagination βrave Burstの世界へ》
《初めにあなたのプレイヤーネームを教えてください》
《一度決定するとプレイ後変更できませんので注意してください》
初めにプレイヤーネームの選択です。
確かNPC化するにあたってもうあの名前は使えないのでしたね。
思い出の詰まった名前でしたが仕方ありません。
さて私はどんな名前にすれば良いのでしょう?
ここに茉莉さんが居たらどんなふうに相談に乗ってくれるでしょうか?
彼女のことだからそんな事も自分で決められないのかと呆れてしまうでしょうね。ああ、なんだか先週頂いたお電話の内容を思い出してしまいました。
凄く憤りを感じます。
こんな感情なんてとっくの昔に萎(しぼ)んでしまったと思っていたのに、案外残っているものですね。
当時は “黒桐” の “黒” から取って “ノワール” としました。
なら今回は名前で行きましょうか。
『祐美』……この名前とも随分と長いお付き合いです。祐、美、と。
ですが決定ボタンを選択しようとしたところで私は思い出しました。
迂闊に本名のまま登録してはいけないとは茉莉さんの言葉です。
特にリアルを特定されてはまずい立場の私のことを心配してくれての配慮でしょう。
あぶないあぶない。失敗するところでした。確かプレイヤーネームの変更は後からできないんでしたね。うっかりさんでした。
私は決定ボタンを押す前に思考で書き出した文字を削除します。
ではイメージで決めましょう。
ひらがなでゆみ。これだとそのままですね。伸ばしてユーミ?
ひっくり返して見ましょう、みゆ?
伸ばしてみゅー?
みゅう……ミュウ!
なぜか凄く可愛らしい名前が出てきました。私の中に眠る才能もまだまだ捨てたものではありませんね。
これで決定です。
《プレイヤーネームはミュウでよろしいですか?》
はい。それでお願いします。
《次に種族の選択を行なってください》
《これは後でいくらでも変更が可能です。まずは動かしやすいヒューマンタイプで初めてみるのもいいかもしれません》
仕入れた情報ではここで選んだ種族が後で尾を引く……でしたか。しかし私には検証する程の時間は残されていませんし、困りました。
やはり前作同様あの種族で決まりですね。なんだかんだと使いなれた種族が一番ですもの。
茉莉さんは呆れてしまうかしら?
それとも私らしいと言ってくれるかしら? その反応はゲームを始めてから拝見しましょうか。
私が選ぶ種族カテゴリは、安定したヒューマンでもなく多種多様な獣人でもなく、特殊な環境下に特化した異形でもなく、世界を維持する為にだけにいる精霊です。
神獣……という凄く強い種族も居ますけど、あれはまさにリアルの私そのものなんですよね。高いステータスの割に自由なことが全くできない。システム設定に縛りつけられているところなんて本当そっくりです。
ゲームに来てまでリアルと同じことをする必要なんてありませんし理由もないです。なんといってもメンタルケアをしに来ているわけですから。
掲示板ではあまり良いようには書かれていませんでしたが、私から言わせれば臭いものに蓋をしただけ。
五体満足だからこそ満足に動けないあの種族を不満に思ってしまうだけ。たったそれだけのことなのです。
しかし人形時代の私からしたらそこには希望が満ち溢れて居ました。
無理に人に合わせないでいいよ、自分のペースで歩いていいよ。そう言ってくれてるように思えたのです。
ズラリと並ぶ精霊一覧。7つの属性とその象徴である精霊達。属性によってやれることが違って来ます。
月/ルナ
火/サラマンダー
水/セイレーン
樹/ドライアド
地/ノーム
闇/ダークネス
陽/サン
ルナなら空に出ている月の満ち欠けでステータスにプラス補正からマイナス補正がかかります。日中よりも夜の方が姿をくっきりと見る事ができますね。
影の薄さなら一番かもしれません。
サラマンダーなら火の気配が強いところでしか本来のステータスを発揮できませんし存在する事ができませんでした。
セイレーンは水の気配の強いところ。
サラマンダーと対極に位置します。
ドライアドなら植物の気配、自ら歩けない代わりに植物の特性を持ち、サンが照りついても平気、足元に大地があれば平気と割と自由度が利くんですよね。
ノームは大地の気配が近い、地上での活躍が期待できます。そのかわり空の上に行くと急に不安定になり、足元が地上から離れることをひどく嫌います。
ダークネスは闇の気配、というよりはサンに照らされた気配でなければどこにでも潜伏できます。夜を渡り歩くものなんて言われてますしね。
最後にサン。これはダークネスと違って陽が照りつけている時間に力を発揮します最大限にバフがかかるのはお昼頃、なんとステータスが2倍になります。それ以降は1.5倍くらいで、日が沈むと全てのステータスが1/3になってしまいます。とても扱いが難しいんですね。
私はその中から樹の精霊であるドライアドを選びます。
多くの環境で存在できる為に足を失ってしまった哀れな精霊。それが今の自分にはぴったり、多分当時の私もそう思っていたことでしょう。
目の前にはぷっくりとした丸みを帯びた女の子の形をした樹の精霊が現れました。
髪の毛に見立てた長細い葉っぱが特徴的で、目の位置には琥珀が嵌まり、キラキラと光を反射して輝いています。
胸からお腹にかけて寸胴でつるんとしており、まるで木工細工のようなあしらいで蔦や木の実を体に巻きつけて着飾っています。
太ももから下は樹の根が四方八方に広がり、足を延ばす事も曲げる事もできませんが安定性だけはあります。
腕は動かせるけど指は広げることがはきません。
所詮人の形に擬態しているだけで、会話によるコミュニケーションは取れないんですよね。
ですが精霊には《交信》があるので大丈夫。これは相手の脳内に直接言語を送ることができる優れものです。
chを絞れば個人とエリアに対応できますし、ドライアドの体は空洞になってますので周りからの音もちゃんと反響して聞こえます。耳で聞くのでは無いので近くのものに限りますが。
ただし目がないので視力はありません。
精霊には精霊眼という特殊な能力が視力の代わりに備えてあります。
自分の体を中心に魔力を円形に展開して、その範囲内にあるものは全てを透過させて読み取ることができるんです。
種族LVが低いうちは5メートル前後しか見えませんけど。まるで見えないわけではないんですね。
さて、種族を設定したら髪色と瞳色の変更をします。種族設定で唯一変えられるところがここですね。このゲームではプレイヤーのリアルデータは要らないんですよ。珍しいですよね。私もそう思います。
瞳は黄色味の強めの蜂蜜色にしましょう。
ライトグリーンの肌に金色の瞳が可愛らしいです。
髪色は青緑。青寄りの緑ですね、濃い緑でもいいのですけど、こればかりは趣味としか言いようがありません。昔から派手な色が苦手なので、落ち着きのある地味目な色が個人的にはとても好きです。
《種族は精霊/ドライアドで決定してよろしいですか?》
《精霊種族は変調システムにより、思考能力が5歳児並みに低くなる事がありますので予めご注意ください》
そういえばそうでした。
それでも構いません
お願いします。
《瞳色は蜂蜜色、髪色は青緑で決定してよろしいですか?》
お願いします。
《次にジョブを選択してください》
◇ルーンソーサラー
◇ルーンドルイド
◇ルーントラッパー
◇ルーンクラッシャー
◆エクストラ/糸使い
ルーンとは魔力のこもった文字列のこと。これらを操ることで様々な属性を魔法技術として操る事ができる……でしたか。
上から純魔法使い、純ヒーラー、純サポーター、文字通り破壊破壊特化型、そして最後にこれはなんでしょう?
糸使い……なんと懐かしい響きでしょう。かつての私も好んで糸を使用していました。
ですが残念なことに今作からワードスキルは撤廃されてしまってどうしようと思っていたところでこの天の采配です。
運命を感じてしまいますね。
私は生憎とこれ以外知りませんし、他のジョブにも魅力を感じませんでした。
これに決定しましょう。
《糸使いで決定してよろしいでしょうか?》
お願いします。
《情報を整理しています》
《こちらの情報でキャラクターメイキングを決定してよろしいですか?》
YESで。
《決定するとゲームが始まります。また種族設定はゲーム中何度でも変更が可能になります》
《種族リセットの際、生まれ変わる過程で全ての装備とアイテムを失いますので予めご注意ください》
____________________________
ネーム:「はぐれ精霊」ミュウ
《種族リセット回数:0》
《種族貢献度:0》
メイン種族:精霊/ドライアド
サブ種族:未開放
髪色:青緑/瞳色:蜂蜜琥珀
種族LV:1
魔力サークル展開:半径5メートル
HP:10
MP:510(自動回復)
体力:0
知力:100
筋力:0
精神:0
器用:0
敏捷:0
幸運:0
スタミナ:なし
満腹度:なし
★種族特性
《MP回復中:陽》
《MP回復中:月》
《MP完全回復:龍脈》
《精霊眼:透過効果》
《魔力解析:ステータス看破》
《魔力サークル:認識範囲》
《歩行不可:永続》
《火傷、燃焼を除く状態異常無効》
《装備:未実装》
《精霊装備ドライアド:背中》
《道具:未実装》
《食事不要》
《スタミナ不要》
《陽属性ダメージ吸収》
《月属性ダメージ吸収》
《火属性ダメージ10倍》
《水属性ダメージ吸収》
《地属性ダメージ無効》
■種族固有スキル
□ノック(押す/弾く)
設定位置:目視
反発方向変更:下→上(任意設定
反発威力強弱:中(任意設定
■エクストラジョブ:糸使い
ジョブLV:1
□魔力糸精製/放出量MP依存
□属性付与/糸に色を与える
□裁縫(レシピ登録可能)
____________________________
この美しいステータス配列を見てください。オンリーワンな種族故の特化ステータスが美しいですよね。
さぁ、私の新たな冒険が始まります。
ゆっくりと肉体に魔力を染み渡らせていきます……ふぅ。この感覚も懐かしいです。
忘れてしまったと思っても、案外体が覚えているものですね。
私は魔力サークルを展開して二つのスキルを頭の片隅に据えました。
このゲームは思考選択式ですかね。
いつでも使用可能にしておく必要があります。どこで活躍するかわかりませんし。
全ての工程を選択して私はゲームの世界に旅立ちます。
茉莉さんを待たせてしまったでしょうか?
それだけが心配でなりません。
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