第6話 オラの分度器



【保険調査員3号の調査報告書より抜粋2】


 

 上名月ノジェル逮捕後の官憲調書。


 上名月ノジェルは自称「聖なる母」を名乗り、下毛野したっけのの命の母として、違法な占いに手を染め、その金銭目的詐欺をする常習だった。

 常習と言っても上州(上野)ではなく、下毛野したっけのというキャバクラが一軒もないサバンナ地帯(灌木が疎らに生える荒野)の崖の横穴で営む風営法違反で、酒を提供する場所。

 上名月ノジェルが、税理士Cに殺意を抱く切っ掛けとなったのは、美人揃いのキャバ嬢の中、ノジェルが出勤する日を正確に把握していた事を、自分に対するストーカー行為と思い込み、税理士Cが自分を監視しているとして、その税理士Cに対する精神波攻撃を掛けたという。


 税理士Cが、ノジェルの出勤日を的確に把握出来ていた事は、ノジェルの行為を恐れたキャバ嬢とお客が、高価な酒(アルコール度数が高い)を注文セズニ、アルコールがゼロであるアルコールフリーの酒を注文し、ノジェルの出勤日が一番売り上げが悪いという事を、経理を任せられた税理士が、その売り上げの帳簿を税理処理する時に、


「来てますね……」


 と的確に把握していた事を、税理士が自分の行動を監視していたと思い込み、その税理士Cに対する殺意を催す切っ掛けになったと調書にある。



「来てますね……」


 ハンドパワーでもないのに、


「来てますね……」


 と予言出来た税理士Cが、占いをしていた上名月ノジェルのお株を奪ったとして、その営業妨害で税理士Cを告発した訴訟問題。


 税理士Cいわく。



「きっと来る!」


 きっと来る日を当てられない自分は、占い師は失格なので、


「うらまないで下さい!」


「うらないで下さい!」


 卜占稼業をしていた一族の末裔で、亀の甲羅を焼いて、その焼いた甲羅の割れ目で判断していた彼(オカマ)が女性の筋目を見て、


「きっと飛び出る!」


 スリットから飛び出る女性の下の唇を予言と称して、地域の女性が若い頃、悪戯目的で誘拐していた事件で、拉致られた女性がキャバ嬢として働かされていた事件を、ケイゾクで捜査していた捜査員の話によると、


「ついてます」


 女装したカマママという早口言葉を練習する事で、舌の動きを鍛えようとするキャバ嬢が実はカマ嬢で、



「カマママがオカマのオマンマ(お米)をマンマとせしめてニンマリ」


 上名月ノジェルがオカマである事を証明しようとしたキャバ嬢の一人は、ピンクのドンペリを呑んだ後、締めた店の仮眠室で寝ていた所、スカートをめくられ、ショーツが下げられた状態で、太腿がガビガビになっていた状態で起きた後、店内にいた人間に自分が強姦されたのではないかと疑い、店外にアフターする上客と連動し、上名月ノジェルがオカマであって、女性ではない事を証明せんが為、その証明方法を考えた。


 上名月ノジェルが居住するとされる地域で、聖なる夜(キヨシ コノ ヨル)に襲われた女性が子供を妊娠していた事件が続発していた事を調査。


 その強姦事件が問題になると、自分が男性ではなく、女性であって、自分が生んだ子供であると主張し、その生まれた子供の親権と養育を認めながら、自分が女性で、自分を無理やり強姦した男性を、そのキャバクラの客に仕立て上げる為に、そのキャバクラを開店させたと自白。


「ママさん。アフターピル持ってます? 私きらしちゃったんで、一錠貰えますか?」


 チチママ、チチカマ、カマママであった彼は、そのアフターピルの存在を知らなかった。

 キャバ嬢でありながら、お客に無理矢理中出しされた時に、避妊の為に後から飲むアフターピルを飲まなかったから、妊娠し、生まれた訳であって、そもそも中出しされた後で、アフターピルを飲んでいない事実を想定しなければならない。

 上名月ノジェルがアフターピルを持っているのか、その医師と薬剤師から処方される薬の存在を知らなかったのかで、彼が彼女ではなく、女が女ではなく、キャバ嬢ではなく、カマ嬢で、男性も女性もカマってくれない事で、女装し、女に近づき、男にかまって貰おうとする魂胆汚い存在だった事。




「出てますよ……」




 新聞記事。


「風営法違反で、自称ニューハーフの男性46歳逮捕」


 神無月は十月で、その十月初旬の土曜日の朝刊。




 自称ニューハーフ逮捕後の調書を読んだ保険調査員3号は、保険ギルドから派遣された神殿騎士を同行させ、事件現場で再現調査をするべく、神殿騎士と合流。




【調査項目】


① 上名月ノジェルの女装した姿と男性の姿の時のギャップが、相手の精神を破壊たらしめる程の衝撃力を齎すものであるのか。実際の超音波の衝撃力に換算した物理的な数値の計測とその計測方法。


② もしその衝撃力が、上名月ノジェルの容姿と関係なく、気象天候の気圧変化による、風量と風速の数値が影響を与えていたと仮定した時の予想出来うる計測値を計測する事。



 その調査項目2点に対する計測方法についての会議の議事目録を以下に抜粋。



「カマママがお辞儀をしたかどうかだよ!」


「議長! カマママがお辞儀を45度の角度でしたと想定した時、カマママの背中を昇った風はきっと、お客として現れた人間の頭上を越える筈だ!


「フェーン現象が発生したという事は考える事が出来ますか! 物理学者Dさん!」


「フェーン現象は山の反対側から山腹を昇った空気が雨を降らし、その乾燥した風が、反対側の山腹へ吹き下ろす時の高温乾燥した風の事だよ?! 上名月ノジェルというカマカマの背中を昇った風が何処で吹き下ろされると言うのだよ!」


閾値しきいちの入力値から生み出される出力値の最大を計測するには、何次元方程式になる?」


「不確定要素として、その次元変数を想定するには、入力しなければならない数値の単位をピックアップしなければなりませんよ!!」


「保険金を支払わない為には、気象による問題如何より」





「上名月ノジェルというカマママが、ノエルのクリスマスではなく、ハロウインだったとした方が……」


 11月1日の万聖節の前夜祭=10月31日夜。


 神無月が10月。


 10月31日はハロウィンであって、ノエルという12月のクリスマスではない!


「気象天候が、12月を想定するより、10月のハロウインを想定した方が……」


「来てますよ……」


 カマママの話をして笑っていると、来てますよ。


 家の人間を脅かす為に、ドアの前にいるオバケ。


 家の中からオバケが出てきて、仮装した人間の方が驚くという。


「ポールの逆転現象が起きていたと想定した方が!」


「店の中から出てきたチチカマ(カマチチ)とお客の間に、山があったと想定出来るファクターを次元変数zとした時に、微分出来うる最大の変数方程式が、紐理論なのか、10次元膜理論なのかで、訴訟の争点が分岐するよ!」


「次元変数z……」


「ピタゴラスでも分からない計算」


「三角関数のサイン波が、三角形の斜辺を上名月ノジェルの背中に換算した時、ノジェルがお辞儀する時の角度を求めよ!」





「誰か分度器買ってきて……」




 保険調査員4号である「フォー・ムラムスメ」は、後からその分度器を届ける羽目になったのだった。




第6話  了

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