第3話 進め!

 青空にスタートの号砲が鳴り、ボートは青い湖面を蹴って進み出す。白い波がいくつもの幾何学模様をのこしながら、9双のボートはトップを目指す。


他の船は最新技術でできた軽量素材でできている。最新的流動デザインで喫水面も浅く、水の抵抗がすくないピーキーな仕様になっていた。もちろんその分加速も段違いだ。


私たちは必死にくらいつくも、スタート時点から最後尾で8双のボートを追うことになる。



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「こんにちは、第35回を迎えたスワンボート競技大会の熱い火蓋が切っておとされました、実況は、古田地一郎がおとどけします。


 さて。一斉にスタートを切ったボートが一列になって進んんでおります。

各ボートの鮮やかな色が映え、湖面のキャンバスにはカラフルな色が新クレヨンのように輝いております、さて現在の先頭は常連優勝校の鴨池高校だ!


前回大会の覇者、いやクイーンが先頭に立ち、秋の風を切って進んでおります。さぁ、第一の難関鋭角コーナーに飛び込んだ!」


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鴨池高校のボートはコーナー時、内と外の水抵抗が変わる装備がされている、さらに軽量であるために遠心力も低く、スムーズにコーナーを旋回していく。


鴨池を先頭に次々とコーナーにボートが突入していくのだが、他の船は重心が内側に切り替わらずに大回を余儀なくされてしまう。二輪車で言う所の内側に倒せない状態なのだ。


そして最終尾で私たちのスワン号もコーナーに飛び込もうとしている、重く古いボートだが、とっておきの秘策があった、それは。



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「おっと!最後尾の白鳥高校の船から選手が一人でてきました。おお!なんということだ!スワンボートの首を掴んでコーナーの内側に倒れております。

まるでバイクのハングオンのように船体がコーナーの内側に傾いております!」



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そうこれが私たちが編み出した高速ターンのネックハングオン。

漕ぎ手は一人になってしまうも、スワンボートを強引にバンク(傾斜)させることで、旋回性のを高めるものだったのだ。これは旧式の頑丈なスワンボートでしかできない荒技で、他校のボートなら首が折れるか、倒れてしまうかで失格になるだろう。しかし裕子がバランスをとってハングオンしているおかげでボートは安定して曲がってくれたのだ。



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「おっと!なんという荒技でしょうか!白鳥高校のボートは体を斜めにしながら最小半径で池のコーナーを曲がっていきます。順位は6つあげて3位に食い込みましたっ!旧型の船体でしかできない曲芸操作です。」



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本当のことを言うと、このターンに全てをかけていた、曲芸乗りで最小半径でターンするも、序盤にできた差をひっくり返すことはできなかったのだ。


でも……3位フィニッシュでも悪くない!わしたちは必死にバトルモードになってスワンボートのペダルを漕いでいる。



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「おっと!次から次へと技のオンパレードだ、まるで技のデパート白鳥高校!なんと力強いことでしょうか、男子から受け継ぐ立ち漕ぎです!安定性を犠牲にして立ち漕ぎをはじめました!この立ち漕ぎでなんとか3位をキープしておりますが、前の2双との差は開くばかりです!」



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私たちは山登りで鍛えたバトルモード、そう立ち漕ぎでなんとか3位をキープしている。他の船は軽量のために、立ち漕ぎをするとバランスを壊して操縦が難しくなるのだ。白鳥高校OBから受け継いだ、伝説の立ち漕ぎとしているとあの歌が私たちの耳にどどいてきたのだ。



「♪漕げよ!わこうど〜!力の限り。白鳥のごとき美しさで水中を駆け。見た目は凛としているが、水かき必死に櫂でいる。あ〜あ、あ〜あ〜あ、しらとりのごとく美しいく、櫂でいけぇ。♪」



「先輩たち!ありがとう!」



 対岸にはOBが学ランを着て一列になって白鳥高校スワンボート部の歌を歌っていてくれていたのだ。二人の悲鳴をあげている大臀筋やハムストリングが、魂の歌を聴いて嬉しそうにペダルを漕ぐ苦痛を楽しみだしたのだ。



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「少し向かい風がでてきましたが、綺麗に9双並んでおります。実況席からは。

2-2--2-----2-2-2-22-2と綺麗に2が並んでいいるように見えます!


おっと!急に風が強くなりました。湖面が波で白だってきました。」



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 突然、前から湖面を荒らす風が吹いてきたのだ。

各船その風に煽られて、そしてうねりだした湖面の波に足元を奪われて操舵が効かなくバタバタと船体を揺らしている、だが…。



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「おっと!なんていうことでしょうか!この風にも波にも一切翻弄されない船があります。白鳥高校のスワン号です。荒れた湖面でも確実に前にすすんでおります。向かい風も何のその、旧式の船が2番手に躍り出ました。」



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 この風が私たちの味方をしてくれたのだ。軽量の船は風で押し戻され、なおかつ荒れた湖面ためにパドルが浮いてしまい推進力を出せないでいる。でも私たちの船はどっしりと湖面に浮き、重たい重量の慣性が船を進め、パドルはしっかりと水をつかみ力強く進んでいるのだった。


一位の鴨池高校のスワンボートも卓越した操舵技術で進んでいる。ゴールまであと少し、お互いギリギリの位置で戦いをしていた。



「バキバキ、バキ!」



その時湖面に鈍い音が聞こえた。

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