第4話 キャッチ未来

 トップの戦いをしていた時に前からバキバキと鈍い音が聞こえてくる。徹底的に軽量化された鴨池高校の船が、何度も何度も波に乗り湖面に叩きつけられてボディが悲鳴をあげて裂けてしまったのだ。



「きゃぁ!ばしゃん!きゃぁ!」



 鴨池高校の生徒が湖面に叩き落されてしまった。

救命胴衣はつけているものの、必死に泳ぐ彼女たちに私たちは手を差し伸べる。



「鴨池の子!手を出して!ほら!つかみな!」



 強風が吹き荒れ、もう大会どころではなかった。私たちは鴨池高校の選手をスワンに引き入れゴールに向かうが、本部テントでは黒い旗が振られていた。


 そうブラッグフラッグ、試合中止の合図。フラッグが出たら競技をやめて一番近い岸に接岸しないといけないのだが、それは皮肉にもゴールテープの張ったゴールだ。


 私たちのスワン号は祝砲が鳴らないゴールテープを切る、数十年戦ってきたこの子の最後の瞬間だった。不思議と涙はなかった、その時、あの歌が聴こえてくる。



「♪漕げよ!わこうど〜!力の限り〜」



「えっ!おじいちゃん!」



 黒い学ランOBの先輩が私たちをあの歌で向かえ入れてくれた、黒いOBの後ろに一瞬だけ、笑顔のおじいちゃんが見えた気がしたのだ。



 私と裕子はこの秋をもってボート部最後の部員となり、あとを引き継ぐことのないスワン号は分解の最後を迎える。

 最後にこの子にもう一花咲かせてあげたかったのだが、さすがに老朽化したこの体をもう修理することはできなかったのだ。


あの時、私は一瞬だけ見えたおじいちゃんの顔が忘れられない、今でも。





========== そして5年後 ===========



「エリカこの水着キツくない?それになんでボート漕ぐのにこんなビーチバレーみたいなのを着ないといけないのよ!」


「しかたないでしょ、スワンボート協議会のルールだからさ。」


「プリマ、アルビ!前列弱いよ!遊びじゃないんだから!」




エメラルドグリーンの海の上を4人乗りのS1級スワンボートのレースをしている最中。カリブの太陽が照り返し顔の肌がジリジリとやけそうだ。


 そう、あのあと、私たちは南米のナショナルチームにスカウトされて4人乗りの競技用スワンボートを漕いでいる。


まだまだ日本ではマイナーなスポーツだが、明日向かって大海原を漕ぎ始めたところだ。


                           「おしまい」

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