第4話 ヤンキーアネゴと真顔少女とナース?

「アネゴ…ここは…?」

「羅刹総合病院だ。いくぞ」


 あの子との出会いから2時間、時間は深夜4時になっていた。今思えば、なんでこんな目にあっているのかもわからなくなっていた。ただ、今この状況を受けいれるしかなかった。私たちはただ、ストレスを発散させたかっただけだったはずなのに…何故かこんな目に。真顔少女を抱えて病院に入り、受付で彼女の名前を呼んだ。


「ミサ主任いますか?」受付のナースに聞いた。


「電話の方ですね。いますよー。呼びますね」


「アネゴ?ミサさんって、まさか…」

「ああ、あのお方だ。」

「ええー!やっ!やばいじゃないっすか!」

「でも今は、あいつに頼るしか方法がない」


 ミサさん…ヤンキー界きっての切れ者で、昔は伝説のヤンキーだった人だ。今はなぜかナースをしているらしい。理由はさだかではないが、私たちにとっての、今この時の、切り札でもあった。しばらく、その伝説の人を待っていると上の階から一人のナースが降りてきた。


「アネゴ!あれが伝説の…」マキは唾を飲み込んだ。


 だがそのナースは丁寧に。


「話は聞いております。こちらへどうぞ。」とナースは笑顔でそう言い、診察室に案内された。


「そこに寝かせてください」アネゴが抱えていた寝ている真顔少女を長いイスに寝かせた。


 診察室には点滴がすでに用意されていて、そのナースは手早く手当てをし、眠っている真顔少女に点滴をし始めた。


 ボソボソ…「アネゴ。あれが伝説のミサさんなんすか?普通っていうより、もろ普通のナースじゃないっすか!?」

 ボソボソ…「おい!黙れ!」


 沈黙していたナースがいきなりタバコに火をつけ、タバコを吸い始めた。すると…


「ふぅー。で、あんたらどこでこんなボロボロの女の子を拉致してきたんだい?詳しい話を聞かせてもらおうかー?とりあえず……メメにマキ、正座、しよっか?」


 さっきとうって変わって、天使のようなナースが堕天使したかなように豹変した。私たちは床に正座した。


 ボソボソ…「アネゴアネゴ!なんでアネゴの名前を知っているんすか!?知り合いだったんすか!?」

 ボソボソ…「あぁ…じ…実はな…。俺の…姉貴…なんだよ。」アネゴはボソボソと話した。


「えー!!!」マキは驚いた。アネゴは実は妹で、そのアネゴには姉貴がいて、その人が伝説のヤンキーの人でナースをやっているなんて。マキはアネゴの詳しい情報を知って驚いた。


「言ったはずだよね?私に関わるなと…どうして守れないのかね〜。んで、この子は何だい?あんたの子ではなさそうだけど?本当に拉致ってきたのかい?」


「はい…」アネゴはミサさんにここまでに起きた出来事を話した。


「なるほどね〜。そりゃー災難だったね。同情するよ。でも…手際が悪いね?何故、先に警察に相談しなかったんだい?病院に来る前にすることでしょ?なにかまだ隠しているね?何か壊したとかかい?」


「あ、あたりっす…。」マキが答えた。そして驚いた。こんなにも的確に聞いて、当ててくることに。

 アネゴは正座したまんま、だんまりしていていた。アネゴの代わりにマキが細かな事情を話した。


「ほぉ〜?車の修理代はあるのに、ガードレールの修理代はないと…?そしてこの子の親に金をせびろうとしたと…?ふぅ〜ん。」


 ピリピリとした空気が流れた。


「ふぅ〜、なぁメメ?私はあんたに、そんなせこいことを教えた覚えはないよ?いつからそんなチンピラみていなことを教えたよ?あぁ?」


 ミサさんのドスの効いた声が心臓に響く。


「ごめん…なさい…」


 アネゴは謝った。その姿はまさに姉妹の上下関係をあらわしていた。いつものアネゴとはまるで別人だった。


「メメ、私は別に謝って欲しいんじゃないの。もっと優しくできないのかについて話しているんだよ。こんなちびっ子にマジになる大人がどこにいるだよ」


「待ってください!そんなにせめないでください!たしかにアネゴのしたことは優しさなんてなかったかもしれません!でも、この子を助けようと病院に連れて来たことは少しばかりの優しさがあったはずっす!」


 叱られるアネゴをマキはかばった。


「マキちゃん、わかっているから安心しな。でも悪いことをしたら叱らないといけないの。姉だから。家族だから。」


「チッ!」アネゴは舌打ちをし、いきなり立ち上がった。

「あ!アネゴ!」マキが声をかけるが、無視してアネゴは診察室から出て行った。


「マキちゃんいいから、大丈夫。いつものことだから。」ミサさんそう言った。

「ですが…」マキは心配した。するとミサさんが渋々と事情を話し始めた。


「マキちゃん、あなたには感謝しているわ。あの子の側にいてくれて…。あの子は昔からあーでね。困ったもんだよ…。人って叱られたら思考が止まって、何が悪いのかわからなくなるんだけど、あの子は叱られたら「自分は悪くない」って思考になっちまうんだよ。そのせいで親とも知り合いとも仲が悪くてね。いつのまにか一人にさせてしまった。で、優しくしていた私の背中を追っかけるようになっていって、今じゃ立派なヤンキーなっちゃってね。私の唯一の後悔でもあるんだよ。」


「そうだったんすか…。アネゴも色々と苦労してたんすね。」


 伝説のミサさんって、怖いイメージだったけど、妹思いのいい姉さんに思えた。


「まぁそれはそれとして、この子…どうするんだい?」

「しばらくうちで見ようと思いやす」


「そう、私もこれ以上、問題を持ってこられるのはごめんだからね。点滴が終わり次第、出て行ってくれ。点滴の代金は貸しにしとくから」

「ありがとうございます!」


「マキちゃん、あなたって本当に優しいのね。メメとこの子を…よろしく」そう言うとミサさんは診察室から出て行った。


 点滴は1時間程度で終わり、寝ている真顔少女を抱え、静かに病院を出た。外はもう明るくなってきていた。アネゴはすでに車の中で待っていた。


「点滴は終わったのか?」

「はい。なんとか無事に…。顔色も良くなりやしたし、これで大丈夫だそうっす」

「そうか、じゃぁ家に帰ろう。俺も眠くなってきて、考える気力もなくなったわ…」

「了解っす!」


 真顔少女を後ろの座席に仰向きに寝かせて、車に乗り込み、アネゴ達は病院を後にしたのであった。

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