未来屋工房とタイムマシン
「そうそう、イメージはそんな感じかも」
「・・・なるほど」
なんて言いながら、ピンと来ている訳では無かった。自分から映画に例えてみたものの、あまりにも現実味が無さすぎて、ちょっとイメージするには難しかった。逆に言えば、そんな映画みたいなイメージで良いのだろうか、とも思ってしまう。
「その映画みたいな、そんな大層なやり方ではないけどね」
映画の中では、デロリアンという車を改造したタイムマシンで、行きたい年数と日付を設定してタイムスリップを行っていた―最も、何百キロというスピードを出さないとタイムスリップは出来ない。
「どういう風にするんですか?」
まず先に確かめなければならないのは、本当にタイムスリップが出来るのかどうかだ。本当はタイムスリップなど出来ず、俺を利用しようとしているだけなのかもしれない。だとしても、なぜ俺なのかは謎だが。
「実際に見てみる?」
須藤さんは見た方が早いと、ついてくるように促してさっさと部屋を出ていってしまった。
部屋を出てすぐの右の部屋に入る。その部屋の中は、先程の部屋と違い縦に長くなっていた。薄暗い上、足元には荷物もとっちらかっていて、歩くのも容易ではない。しかし須藤さんは、なんでもないようにスタスタと奥へと進んでいく。
なんとか少ない足場を見つけながら追いかけると、そこには『タイムマシン』らしきものがあった。
一見普通のマッサージチェアらしきものが部屋に鎮座している。その椅子には無数のコードが繋がっていて、部屋の隅に置かれたパソコンへと繋がれていた。
「この椅子に座って、このヘッドギアをする」
椅子の頭の部分に被せてあった"ヘルメット"を取ってみせる。ヘッドギアと言っても頭に被せるだけのタイプで、一見自転車用のヘルメットみたいだがいかつく頑丈そうだ。これにも何本もコードが繋げられている。
「このパソコンで情報を入力すると、そのコードから情報が伝わるって仕組み」
パソコンの画面には、何やら文字が羅列されている。プログラムのようだが、ろくに勉強してこなかったから、何が何だかさっぱりだった。
「まぁ、あれは今回は使わないけどね」
俺達は元の部屋に戻ってきていた。
「使わないんですか?」
須藤さんが言うには、今の機械ではタイムスリップする期間が制限されてしまうらしい。"今回の場合"、期間の終わりが決まっていないものには向いていないそうだ。
「だから、君の場合はこれ」
と言って俺の前に置かれたのは、赤紫色をしたタブレットの入った小さな袋だった。
「えっ・・・」
「副作用はないから安心して」
「安心してって言われても・・・」
見るからに怪しさ満点だ。不安でしかない。他の色はなかったのだろうか。
って…
「俺が行くんですか?」
ようやく気づいたか、とでも言うように、ニヤけた様な笑みで俺を見ている。
「他に誰が行くの?」
「いや、須藤さんが行けばいいじゃないですか」
気がついたら話がトントン拍子に進んでしまっている。上手いこと相手の口車に乗せられそうになっていることに、俺は”気づいた”
「というかそもそも、本当にタイムスリップが出来るんですか?あの機械で」
いくら『タイムマシン』を見せられても、そんな簡単に信じられるものでは無い。実際にタイムスリップしているところを見たわけではないのだから。
「確かに、実際にタイムスリップしてみたわけじゃないからねそういう気持ちも理解できるよ」
そういう須藤さんの表情はどこか寂しそうに見える。そんな表情を見てしまうと、どこか申し訳ない気持ちになってしまう。だから少し別の方向に話を変えてみる。
「仮に、あの『タイムマシン』ならタイムスリップは出来るとしても、これはただのタブレットですよね」
赤紫色した得体の知れないタブレット。やはりこれを飲んだだけでタイムスリップ出来るとは、到底信じられなかった。
「わかった。じゃあ1週間考えてみる?」
少しの間のあと、須藤さんはそう提案してくる。
「1週間考えてもらって、どうしても無理だと思えば返しに来てもらって構わないし、1週間経ってもここに戻ってこなければ、こっちもタイムスリップをしてくれたんだと思って準備をしているから」
「準備?」
「まぁ、色々あるんだよ」
結局、タイムスリップできる証拠は見せてもらえなかったが、なぜだかなんとなく須藤さんのことは信用してもいい気がしていた。だから、1週間考えてみることにした。もしかするとそれも向こうの作戦なのだろうか。
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