同窓会と忘れられた君

 俺は一瞬、彼が何を言っているのか理解ができなかった。

「は?何言ってんだよ・・・」

 俺と星井、そして奈良崎は2年、3年の時同じクラスだった。だがそう言ったところで、そんなこと忘れている、いや、そんな記憶は最初からなかったような表情をしている。

「今井こそ何言ってんの?あ、もしかして高校と勘違いしてる?」

 まさか、俺は苦笑いで否定する。間の抜けた性格であることは自覚しているが、2、3年くらいなら流石にそんな勘違いはしないはずだ。


 丁度よく、他の友人達数人が俺達のテーブルにやってきたので、星井が奈良崎について聞いたが答えは同じだった。友人達はそのまま別のテーブルに移動していってしまった。

 取り残された俺は、何が何だか分からないまま、去っていく友人達の背中を見つめていた。

星井や他の人達の表情を見ても嘘をついているようにも見えなかった。ということは、本当に皆忘れてしまったということか?しかし彼らの反応は、"記憶にない"というような様子だった。忘れているのではなく、最初からそんなことはなかったのだと―。


 当時、奈良崎が嫌われていたりいじめられていたという話を聞いた覚えはない。彼女のことをそこまでよく知っている訳でも覚えている訳でも無いが、奈良崎は明るく人柄も良く友人も沢山いたはず印象だった。だから、そんな反応をされる理由が分からなかった。


 みんなの記憶には残っていないのに、俺の記憶の中には存在している?なんだか小説や映画みたいな話しだ。俺の頭では理解が追いつかない。

 仲の良かった女子に聞くことも考えた。だが、もし星井たちと同じ反応だったら…と思ったら、これ以上誰にも聞くことができなかった。

 気がつけば同窓会も終わりの時間を迎えていた。


 同窓会後、二次会に向かう面々とは別れ帰宅する。

 それとは別のメンバーからカラオケに誘われてもいたが、それもパスした。俺にはそれよりも早く確認しなければならないことがあった。


 ―午後10時

 帰宅して、少し両親と同窓会の話を軽くしてから自分の部屋に向かう。

 部屋に入り奥の棚を開くと、すぐに目的のものは見つかった。


 中学校の卒業アルバム。しばらくしまったままだった。軽く埃を払ってからケースから取り出してページを開く。開いたのは自分のクラスだ。

 3年2組のページ。左端にある自分の写真をまず確認すると、そのまま目線を横にすべらせる。

 ちょうど真ん中あたり、そこには、あるはずの奈良崎の写真はなかった。下に大きくある集合写真にも彼女の姿はない。

 他のクラスも見てみたが、やはり名前も写真もない。


 俺がおかしいのか…?無意識に呟いていた。本当に別の人間と勘違いしているというのだろうか。いや、そんな勘違いをする訳は…それに夢で見た女性は…?


 "あれは、間違いなく奈良崎だった"

 今はそれを胸を張って言える自信が無くなってしまっていた。ただの勘違いだった、と言葉にされたら納得して受け入れてしまうだろう。


 念の為、高校の時の卒業アルバムも確かめたが、奈良崎の名前は載っていなかった。

 気がついたら、時間は11時を回っていた。

 居間に戻ると、両親はもう寝てしまっていて部屋にはおらず、電気も消えていた。


 とりあえず目的のものを見つける間だけ電気をつけよう。スマートフォンの懐中電灯のアプリを起動させる。

 そこは、普段座っている場所の後ろの棚だった。その棚から1つのケースを引っ張り出した。そこには、今までもらったほとんどの年賀状やハガキがしまわれていた。


「どうかしたの?」

 すでに寝ていた母が、物音に気づいたのか起きてきた。母はいつも、居間の隣の部屋で寝ていた。

「ちょっとね」

 ごめん、起こしちゃった?と聞くと、大丈夫と言う。

「早く寝なさいよ?」

 納得してはいなそうであったが、それ以上は突っ込まず、寝室に戻っていった。


 あとで適当な言い訳を考えておこう。


 ケースを持って自室に戻り、中から年賀状の束を取り出す。その中からあるものを探す。

―奈良崎からの年賀状。中学2年の時にもらった、彼女の存在や関わりを示す貴重なものだ。かなりの量だった為、少し時間がかかったが、それは見つかった。


 間違いなくそこには

『奈良崎 千早』と書いてあった。


 ひとまずほっとして、一息をつく。

 不意に時計を見ると0時をまわっていた。

 それに気づいたからか、急に睡魔が襲ってくる。

 色んなことがあって気が張っていた様だが、少し落ち着いてきたからかどっと疲れが出てきたらしい。


 ベッドに入ろうとして、自分が着替えていなかったことに気づいた。ここまで何かに集中したのは久しぶりだったかもしれない。

 パジャマのジャージに着替えると、とりあえず何も考えないことにしてベッドに倒れる様に横になった。


 次に目が開いた時には、枕元の窓のカーテンの隙間から薄明かりが差し込んでいた。

 手元にあったスマホで時間を確認すると翌朝になっていた。

 ―午前7時

 寝直そうかと思った矢先、今日からまた学校がはじまることを思い出し、だるい身体を無理矢理起こした。


 昨日はともかく、その前の日まではバイトはあるにしてもこの時間は夢の中にいることがほとんどだった。

 元々が朝が弱いタイプだし、身体の感覚を休み前に戻すのは中々の重労働だった。

 それに輪をかけて昨日の出来事もあった。睡眠時間の問題よりも、精神的な問題の方が大きいかもしれない。

 昨日一日だけで様々なことがありすぎて、7時間程度の睡眠だけじゃ、色々な疲れは取り切れないらしい。


 とまぁ、そんな言い訳をいつまでもしているわけにいかず、ゆっくり立ち上がって学校に行く準備を始めた。

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