再会と同窓会
夕方、部屋に干しておいたスーツにまた着替える。中学校の同窓会に向かう為だ。
成人式は適当にやり過ごした。誰が話していたのか、何を話していたのかほとんど覚えていない。何かの映像が流れていたり、インディーズで活躍しているというバンドのライブがあったのくらいは覚えているが…。
終わったあとも見知った者に会わないまま、というより会わないように、逃げるようににさっさと帰ってきた。
会いたくないわけではないが、会ってしまったらどうしよう、という矛盾する、相反する感情が胸を渦巻いていた。
実際、今になって成人式に行くのをやめようかとも思ってしまっている。
行ったら行ったで楽しめるような気もするし、仮に楽しめなくても奈良崎を見られればそれで良いのではないか。と自問自答を続けていたが、答えは何も見えてこなかった。
「時間は大丈夫?」
扉の向こうから母の声が聞こえてくる。時計を見ると、そろそろ家を出る予定の時間だった。
「大丈夫」
と答えつつ少し慌てて身支度を整えると、最低限の荷物だけ持って玄関に向かう。
「帰りの時間は?」
靴を履いていると、母が後ろから声を掛けてくる。
「わかんない。終わったら連絡する」
少しお節介だけれど、そんな母親がありがたいとも思っていた。
成人式と同様に、ポケットに財布と携帯をしまってコートを羽織り家を出た。
午後5時―
夕暮れも過ぎ去り辺りはほとんど暗くなっていた。一段と寒くなっており、朝以上に凍えた。
自然と歩く速度も早まり、普段なら徒歩で30分くらいかかる会場に20分もかからず着いていた。
会場は、元々ホテルで使われていた場所を同窓会やパーティや会議などに貸し出しているという建物の2階だった。
入口前の看板を見ると、その日の同窓会の案内がいくつも書かれていた。どうやら自分たちの中学校の同窓会だけでなく、他の中学校の同窓会が別の階で行われるようだった。とりあえず中に入っていく。
同窓会場の前では当時の同級生が受付を担当していて、受付を済ませながら簡単に再会の挨拶も一緒に済ませた。普通に会話しているだけのはずなのに、どうしてぎこちなく思えるのだろう。
「おつかれ」
会場内に入ると、既に先に来ていた星井が声をかけてくる。
「早いじゃん」
「そっちこそ」
早いと言っても予定開始時間まで30分を切っていたが、思いの外来ている人の数はまだまばらだった。
お互いに他に話す相手もおらず、2人で適当に空いている椅子に座り他愛のない会話をしていた。
星井はどうかはわからないが、俺は当時から友人が少なかった。だからというわけではないが中学時代は彼と一緒にいることが多く、その為か今でも彼に対して安心感があった。
次第にに人の数も増えてくる。それに合わせて俺達は、それぞれがそれぞれで別の友人達と再会を喜んだ。
とは言っても、全部で3クラスしかないうえに半分は小学校時代からの同級生でほとんどの人間を知っていた。だからそこまで仲良くなくても喜びを分かちあえる。
大体の人が、当然だが容姿は変わっていた。俺はかなり太ったから特にからかわれた。自覚はしていたし、覚悟はしていたが少し傷ついた。
会場内には丸いテーブルがにいくつも置かれていた。それをを囲う様にイスがそれぞれ置かれている。どこに座るかは決まっておらず、皆仲の良かった友人達と自然にまとまって座っていた。
俺は星井や、当時割と話すことの多かった男子の友人達で座った。
よく学年全体で人数が少ないと言われることが多かったが、こうして見ると結構な人数な気がする。
幹事や学年主任の先生の簡単な挨拶が済むと、幹事の合図で乾杯をした。
はじめは各テーブルで、俺達はお互いの近況報告をしていた。だんだんと盛り上がってくると、別のテーブルに移動し始める者も増え始めた。
俺は移動することもなく、はじめのテーブルで食事をしながら適当に会話を楽しむ。
料理はビュッフェスタイルで中央端に並べられ、メインからデザートまで10種類ほどが並べられていた。
特に話したい相手いなかったから、そこで会って話す雰囲気なったら、くらいの考えで居た。
俺は会場内を眺めてみる。
男はスーツ姿だから、それは着こなせているか以外だと髪型や髪色くらいしか違いはないが、女性はそれぞれが多種多様のドレスを見にまとい、色からデザインからして違う。
卒業してから何年も経っていることもあるが、メイクをしているから余計にか大人っぽく思える。遠巻きに見ていて一瞬見惚れてしまいそうな者もいて、少し焦った。
そんな様子で眺めていた俺は、
「なぁ、奈良崎って今日いないのかな」
と、隣の席の星井に聞いてみる。ひと通り見回したが、それらしい姿は見当たらない。雰囲気が変わっていても、全く気づかないこともないはずだ。
しかし、中学時代に彼女が仲の良かった女子のグループにもその姿はなかった。予定が合わなかったのだろうか。成人式にもいなかったのか?
「奈良崎…?」
しかし星井の答えを、俺のそんな考えを一掃してしまう。
「誰だっけそれ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます