第5話 30cmマグナム



 ダンの生まれは、炭鉱で働く者達が集まってできた、山奥にある人口100人にも満たない小さな村のタンコー村。

 両親を早くに亡くし、近所の親戚などから少なからず援助を受け、子供ながらに炭鉱での手伝いで生計をたてる、苦労人の少年時代を過ごしていた。


 そんな貧しく、苦労をして育った子供の頃のダンは、他の子供と違った身体的特徴を有していた。

 それが巨大なイチモツ。太さ、長さ、共に規格外。生まれたての赤子の時ですら、並の大人よりデカいのだ。


 まるで三本目の足と見間違う程の見事なまでの大きさ。それが幼少期にはコンプレックスではあったが、思春期にもなれば話は別。

 そう、ダンは第二次性徴により、自らのイチモツの素晴らしさを理解し始めたのだ!


 そしてダンはある夢を抱くようになる。この愛棒30cmマグナムによる無双…すなわち、おとこなら誰もが夢見るハーレムの実現。

 それは思春期特有の青臭い、エロい妄想なのかも知れない。しかし、その妄想を現実のものへと、変える事ができるかも知れない…そう、思わせる程の説得力がダンの愛棒30cmマグナムには備わっていた。


 田舎の小さな村にて、女湯を覗くことに情熱を注ぐだけが青春ではない。男として生まれたのであれば…いや、30cmマグナムの所有者として生まれたのであれば、ハーレムを追い求めるべきではないだろうか⁉︎


 村一番の物知りである、酔っ払いのゴンベーさんから、毎日のように都会での話を聞く思春期のダン。ハーレムへの期待は膨らむばかりであった。


 …そして18歳。ダンは満を持して田舎から王都へと、上京を果たすのであった!







『…と、まあ苦労人である少年ダンは、夢を追い求めて王都にやってきたって訳だ』


「へー。ハーレムってのが何だかよく分からないけど、ダンがそれだけ夢中になるってことは、本当に凄いことなんだね!」


『ふっ!当たり前だ!!漢であれば誰もが夢見る…それがハーレム!迷宮族の繁殖方法しか知らないジョン、お前にはまだ理解はできないかも知れないがな!まあ、それでも傷が完全に癒えて、治癒に使われているタンパク質が本来の役割を果たす時が来れば…その30cmマグナムの偉大さを知ることになるだろう!楽しみに待て!そして俺の体を借りているにすぎないことを忘れるなよ!その素晴らしい肉体は、いずれ俺に返してもらわないと、いけないからな!』


「うん。それは分かってる。お互いに元の体に戻れるかどうかはまだ分からないけど、ひょっとしたらダンの固有スキルが僕と同じマスターチェンジの可能性もあるからね」


『でも、その可能性は低いんだろ?マスターチェンジって固有スキル自体が、かなりのレアらしいし…』


「そうだね。魔王レドリゲル様から継承した知識の中でも、僕以外に所有してるのは確認できなかったし…。そこでね、ダンに提案があるんだ」


『ほう?提案とな?』


「うん。今、僕はダンの話を聞いてて…僕も王都に行ってみたくなったんだ!ずっと同じ景色を千年間も見てきて、少しでもいいから別の景色を見たいって思ってきたけど、まだまだ世界には色んなものがあるみたいでしょ?だから…王都や他の場所を訪れて、その先々で元の体に入れ替わる情報をゲットできるなら…」


『却下』


「えっ⁉︎一考もせずに却下⁉︎」


『当たり前だ。どんなに考えたってダメに決まってるだろう!』


「いや、ちゃんと傷を完治させてからだよ⁉︎それでもダメなの⁉︎」


『ダメのダメのダメ子ちゃんだ。何度も言うが、その体は俺様の物だ。今は仕方なく、お前が使用しているだけで、本来であればその30cmマグナムを持つ世界一の肉体は、俺様の物。それを勝手に危険に晒すような真似など、許可するわけがないだろう?』


「危険なところになんか行かないよ!王都や町に行って情報を得るだけだから…」


『ド阿呆。なんで王都や町に危険が無いって言えるんだ?そもそも、お前は人間としての知識が乏しいだろう?ダンジョンとしての知識なら、それなりにあるだろうがな。そんなジョンが…人としての知識が乏しいジョンが、たった一人で王都になんて行ってみろ。悪い奴らに騙されて借金を背負ったり、下手したら殺されたりするんだぞ?』


「え?そんなに危険なの…?」


『そうだよ。おれが人間で、お前と二人で王都に行けるなら考えなくも無いが、お前一人で行くしかないだろ?俺も王都に来たばかりで信頼できる友達もいないし、お前を任せられる奴なんかいないんだ。そんな状況下で…人としての経験も無いお前が…たった一人で王都に?無謀にも程があるだろう!』


「で、でも…」


『知的好奇心があるのは大いに結構だ!俺もエロいことに関しては、人並み以上に好奇心があるからな!だが、お前の体は俺の物!危険に晒されるなら、止めるにきまってるだろう!それでもお前は王都に行きたいのか⁉︎』


 ずっとずっと同じ景色を見てきたジョンにとって、世界の広さを知りたいと思うのは、ごく自然なこと。

 しかし、今のジョンの体はダンの物であるのも事実。そしてジョンには知り得ないような危険が、旅先にあることも、また事実。


 思い悩むジョン。しかし、ダンの正論を覆せる程の知識がジョンには無い。それでも、やはり、知的好奇心が疼くのだ。千年間、我慢し続けた思い。悩むなと言うのは無理な話である。


 そんなジョンの顔を見て、仕方無しにとダンが助け舟を出した。


『…まあ、俺がここでじっとしてても、餌となる人間がやってくる訳じゃ無いからな〜。いずれは誰か人間の協力者に、ここへと餌を誘導する依頼をしなければならないし〜』


 そこでジョンの顔がパッと明るくなった。


「そ、そうだよ!ダンの食事だって考えなくっちゃいけないんだ!だったら、やっぱり、僕が王都に行かないと!」


『ああ、そうだな。なら仕方ないな〜…ってか、自分の顔でそんなに悲しそうな顔をされたら、断り難いよなぁ、しかし』


 やれやれといった感じのダンではあったが、ダンにとってジョンは命の恩人である。そして今は自分の慣れ親しんだ顔をしている。悲しい顔をされては、流石に甘い事を言ってしまうのは、仕方のないことだろう。


『いいか、ジョン。お前がこれから、傷を完治して王都へと向かうのであれば…それまでの間に、徹底して人間の世界についての常識をお前に叩き込む。田舎者の俺の知識がどれだけあてになるかは、分からないがな!』


「うん!」


『それと…常識を語るその前に、だ。お前に教えなければならない事がある』


「え?なんだろ?」


『俺がここにやってきた時、敵兵に追われて、死にかけてたよな?』


「あ、うん。そうだったよね。返り討ちにして捕食したけど…」


『俺がなんで追われてたのか、そして死にかけてたのか。お前が本当に王都に行くなら知っておかなければならない。俺が罠に嵌められた、その理由をな…』


「……」


『さっきの話の続きだ。俺が田舎から王都へとやってきて…そして、冒険者ギルドに登録を済ませてからのことを…』


 そしてダンはポツリポツリと語り出した。自身が死にかけ、そして逃走した経緯について…。


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