第7話『天使は迷子』

 ショッピングモールのゲームセンターの一角。クレーンゲームで遊ぶカップルの横で、俺はさりげなく身を潜めた。


 恋詠と買い物に来ていただけの俺が何故こんな状況に陥っているのか。

 端的に言うと、中学時代のクラスメイトと再会したからだ。再会と言っても、最後に会ったのは数週間前だが。


「おーい、那月〜。どこにいるんだ〜」


 早くこの場から離れて恋詠の元に戻らないといけない。

 とりあえず連絡だけしておこう。


 スマホを取り出し、メッセージアプリを起動する。


「あれ……どこだ……」


 恋詠の連絡先が見当たらない。

 そういえば恋詠の連絡先交換してなかったな……。


 もう早く戻るしか方法はない。

 後ろを横切る白銀を確認しつつ、タイミングを見計らって逆の方向へと歩き出す。

 少し遠回りだが、ゲームセンターでずっとかくれんぼしているよりはましだ。



 ゲームセンターを出た辺りで迷子センターのコールが施設内に響き渡った。


『迷子のお知らせです。赤宮恋詠ちゃんを迷子センターでお預かりしています。お心当たりのある方は一階、迷子センターまでお越しください』


 …………まじか。

 心の中の第一声はまずそれだった。

 とはいえ、今回の件は十割俺が悪いだろう。白銀との関係性が原因で、こうして恋詠に迷惑を掛けてしまっているんだ。

 とりあえず迷子センターに行って、恋詠にしっかり謝ろう。


 それにしても今更だが、赤宮恋詠と改めて他人に呼ばれるとなんだかむず痒いな。

 まぁそんなことはどうでもいいとして、早く迷子センターへと向かう。


 俺は止めていた足を再び動かした。



「ほほーん」


 迷子センターへと向かうためには人気のない廊下を通らないと行けないのだが、そこに待ち受けていたのは白銀だった。


 白い壁に背中を付け、「ここを通りたくば、俺を倒していけ」とでも言わん限りのドヤ顔をこちらに向けてくる。

 すごくうぜぇ……。


「なんか嫌な予感はしたが……」

「なんというか、これは――」


 誤解だ、と言おうとすると、白銀は全て悟ったような表情で首を横に振った。


「お前たち、もう結婚しちまったのか……」

「は? というか、俺はともかく恋詠はまだ十五だぞ……結婚なんて」

「気付いていたさ。お前ら、中学ん時、本当は付き合っていたんだろうっ。それなのにお前は親友である俺に気を遣って……」

「キャラ崩壊すごいな。てかお前と友達になった記憶ないんだが」


 紳士のような口調で、白銀はさらに続ける。

 そろそろムカついてきたので早く恋詠を迎えに行きたいところだが、生憎出入口にこいつがいるのでどちらにしろ帰れない。


 そういえば俺たち、ショッピングモールに来てからカーテンしか買ってないんだが。いや、厳密にはカーテンもまだ買ってない。


「はぁ、もういいか? 俺たち買い物しないと行けないんだが」

「そうだな、デートの邪魔をよくない。那月、頑張れよ」


 誤解は解きたいところだが、兄妹になったと説明すれば逆に付いてくる可能性がある。


「あー、そういうことにしてくれ」


 適当に頷きながら、俺は白銀の横を抜けようとする。

 思っていたより穏便に済みそうな感じだ。


「なんて言うとでも思ったか、那月ぃ」


 もちろん、そんな簡単に済むわけがなかった。相手はあの頭のおかしな恋詠信者の一人だ。

 こいつらのせいで恋詠に告白するやつはほとんどいなかった。


「はぁ、説明してやるから離せ」

「命乞いか?」

「俺の父さんが再婚して、恋詠は妹になった。赤宮恋詠って名前になったのはそれのせいだ」

「なぁー! てめぇ、あの天使を妹に……裏切り者がぁ!」

「やめろ! 抱きつくな!」


 迷子センターの一歩手前で抱き着く二人。第三者から見れば地獄絵図でしかない。

 俺が好きなのか恋詠が好きなのかはっきりしてほしい。もちろん俺の希望は後者だ。



「えっと、那月くん……?」



 声がした方を見ると、恋詠が扉の向こうからちょびっと顔を出しこちらを覗いている。

 やばい、最悪だ。

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