第5話『天使とコンビニへ』
午後六時。
カーテンをつけていないおかげで、日が沈んだのが一目で分かる。
それにしても我ながらよく頑張った。
三時間で自分の分の仕事を終え、それから恋詠の手伝いを行った。ギリギリこの時間までに終わったが、荷解きを一日で終わらせたせいか予想通り疲労感がすごい。
「俺はコンビニ行ってくるけど、何か要望があれば」
「私もついていきますよ」
「大丈夫か? 疲れてるんだったら別に無理しなくても」
「大丈夫です」と言って、恋詠はゆっくりと立ち上がった。
このアパートから一番近いコンビニは二つあり、どちらも徒歩三分くらい。学校側と駅側、それぞれに異なる会社のコンビニがある。
「ルーソンかエイトイレブン、どっちがいい?」
「ルーソン限定のプリンがあるので、ルーソンに行きましょう」
無表情からでも伝わってくるプリンへの熱。
さてはプリンが好きなのだろうか。仲良くなるためには恋詠の好きなものを覚えておかないとな。
程なくして、俺と恋詠は夕飯を買いに二人でルーソンへと向かった。
(気まずい……)
コンビニへの道中。静寂の中、何か会話になる話題を探す。
何度も言うが万年ぼっちの俺にコミュ力なんて存在しない。中学時代で会話が三分持ったことなんてあるか怪しいレベルだ。
まぁ会話する相手がいなかっただけだが、考えると悲しくなってくるのでとりあえずこの話は置いておくとしよう。
「那月くん大丈夫ですか?」
俺が黒歴史を思い出している最中、静寂を止めてくれたのは恋詠の方だった。
「何か思い悩んでいるように見ましたが」
「あ、ああ。大丈夫だよ」
「すごく疲れているようです。チェスはできそうにありませんね」
隣を歩く恋詠の声が、少ししょんぼりしているように聞こえる。
いや、多分しているのだろう。
「いや、チェスは元々約束していたしな。ご飯を食べたあとにでもやろう」
「別に無理しなくても……」
「言っただろ。ボードゲームは好きだから。疲れていようが、眠たかろうが、好きな物は別腹なんだよ」
俺の言葉に、恋詠の瞳は心なしか輝きを取り戻した。
チェスなんていつでもできる。だが、せっかくチェスをやるために恋詠が荷解きを頑張ってくれたんだ。今日やることに意味があると俺は思う。
「……ありがとうございます」
隣で恋詠はそう小さく呟いたが、俺の耳には届かなかった。
コンビニに着くと、それぞれ弁当を選んだ。
俺はエビフライ弁当、恋詠はきつねうどんらしい。
「どうしたんだ、恋詠?」
「見てください……」
「う、売り切れ……なんというか、悪かった……」
デザート売り場の前で無言で立ち尽くす恋詠。
どうやらプリンが売り切れていたらしい。確かにルーソン限定のプリンは老若男女問わず人気だ。だが、さすがに売り切れているとは予想外だった。
人気なら逆にたくさん入荷しているんじゃないのか。豊富な弁当を見る限り、品出しは済んだように見える。
俺がもう少し早く来ていれば売り切れていることはなかったかもしれない。ここは素直に謝っておく。
「いえ、那月くんは悪くないです。……てんびん座は今日二位だったんですが」
「と、とりあえず他のプリンを買おう。せっかくだし二つ買ってもいいぞ」
「本当ですかっ。では、那月くんのお言葉に甘えて……」
俺の双子座が最下位だったせいではないだろうか、と内心思いつつも静かに飲み込む。
ルーソン限定プリンはなかったものの、プリン二つに気分を良くしてくれているみたいで安心した。
そのあとは特に何事もなく、俺と恋詠は帰路についた。
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