第2話『天使と同棲……?』
父さんからその話を聞いたのは卒業式が終わった数日後の夜だった。
話を一気に要約すると、再婚するらしい。
父さんが母さんと離婚したのは俺が小学校に入る前だ。母さんとは離婚してからは一度も会っていないし、正直今どこにいるのかすら不明。
父さんは一人で俺を育ててくれた。家事や料理、手伝えることは手伝ったが、ほとんど父さんがやってくれていた。だからこそ、再婚に反対しなかった。
それで少しでも父さんの負担が減るなら。少しでも幸せになるなら。そう思った。
「奇遇だな、那月。美琴さんの娘さんがお前と同級生だったとは」
「嘘つけ、知ってただろ。まぁ、別に知ってようが反対はしなかったけど……」
「ありがとな、那月。お前が反対したらどうしようかと思っていたところだ」
いつも男子中学生並みの下ネタを吐く父さんから向けられた真剣な眼差しと感謝の言葉に、俺は思わず目を逸らした。
バツが悪くなって頬を掻いたあと、気分を落ち着かせるためにキッチンへ飲み物を取りに行くことにした。
「父さん、麦茶飲むか?」
「あぁ、もらうよ」
先程から父さんが呼んでいる『美琴さん』というのは再婚相手で、これから俺のお義母さんになる人の名前だ。
ちなみに苗字は蓮咲。それで分かる通り、美琴さんの娘というのは恋詠のことだ。
「それにしても恋詠ちゃん、美琴さんに似てすごく美人さんだな」
冷蔵庫からお茶を取り出した辺りで、父さんがそんなことを言い出した。
『那月くん、私と付き合わない?』
俺は卒業式の日に恋詠から告白された。もちろんそのことを父さんは知らない。
端的に言えば、俺は恋詠を告白を断った。だからすごく気まずい。正直付き合っていても気まずいのは変わらないが……。
「父さんから一つ提案なんだが、いいか?」
麦茶を持って椅子に座ると、父さんは真剣な眼差しで改まって言った。
俺は麦茶を注ぎながら、「うん」と頷く。
「那月、恋詠ちゃんと二人で住むってのは嫌か?」
「……イマ、ナンテ、イッタ……?」
驚きのあまり、麦茶を机の上にこぼしてしまった。
「はは、父さん、いつにも増して冗談がきついな……」
「本気だ、那月」
え、この人まじで言ってるの……?
冗談でないことは目が言ってる。とりあえず理由を聞くとしよう。
この展開、今日一日で何度目だろう。
「なんでそうなるわけ?」
「父さん、今年の四月から仕事の関係で美琴さんと一緒に海外へ行くことになったんだ。お前たちを連れていくって選択肢もあったんだが、恋詠ちゃんがどうしても嫌だと言ってな」
「まぁ、正直外国に住むのは俺も嫌だが……」
「だから決めてほしい。一緒に外国へ移住するか、恋詠ちゃんと住むか。できれば二択で決めてくれると助かる」
「いつ日本に帰ってくるんだ?」
「仕事がうまくいけば那月たちの高校卒業までには帰ってこれる。もちろん半年に一回くらいは帰ってくるし、電話やメールは毎日欠かさずするぞ」
蓮咲と二人暮らし、か。同じ屋根の下に暮らすことでも高難易度だというのに。
「……恋詠はなんて言ってるの?」
「二人暮らしでもいい、と」
「じゃあ、俺も別にいいけど……」
「そうか! ありがとう、那月! 愛してるぞぉおおおおお!」
「分かった! わかったから抱き付くな!」
父さんはいつものテンションに戻ったみたいだ。
「引越しの手配などはこっちでやっておくから。あ、そうだ。今度美琴さんが……」
なんやかんや言っても父さんが幸せそうだからいいだろう。
と、それは置いといて。
高校三年間、蓮咲と仲良くやっていけるどうかの方が今の俺にとって後顧の憂いである。高校は違うといえど、一日の半分は同じ場所で過ごすことになる。
……いや、父さんは仕事を頑張ってくれているんだ。俺が文句言ってどうする。父さんに変な心配を掛けないように蓮咲と仲良くするのも俺の役目じゃないか。
卒業式のことは水に流して、仲のいい兄妹になれるように頑張ろうと思う。
俺は密かに決心した。
恋詠とは家族として仲良く接していこう、と。
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