告白してきた元クラスメイトが思ってた以上にポンコツで、逆に可愛すぎて困ってる。
月並瑠花
プロローグ
第1話『天使からの告白』
「
一瞬、俺は自分の頭と耳を疑った。
それは中学校の卒業式。中学三年間を惜しんで嘆く者、友人との別れに涙流す者、これからの新生活に心躍らせる者。
そして密かに募らせていた想いを吐き出す者。いろんな感情が混ざり合う人生で数少ない日に、俺は人生で初めて告白を受けた。
こんな日に罰ゲームか? とも思ったが、俺の正面に立つ少女の青い瞳は至って真剣だった。
桜が舞い落ちる木の下で外国人のように透き通った、まるで宝石のような瞳に見つめられ、自分の鼓動が早くなるのを自覚した。
「イマ、ナンテ、イッタ?」
間抜けにも、俺は思わず片言で返答してしまった。
俺は少女のことを知っている。いや、俺の通っている中学で知らない者は逆にいるのだろうか。
彼女の名前は
生徒会の書記を三年間務め、成績優秀、全国模試では常に上位だという。小柄だが、まるでモデルのような端正な顔立ちで、白い髪に青い双眸。日本人とは程遠い容姿を持ち合わせている。
大人びた雰囲気から垣間見える小動物のような可愛らしい仕草は、学校の男共を一瞬で虜にした。
三年連続、男子の学内人気投票一位も頷ける。
本題はここからだ。
そんな蓮咲が何故か俺に告白してきた。
どういう心境なのだろうか。彼女とは二年生の時に同じクラスになっただけ。特別話したりしたわけでもないし……ふむ、考えても分からないな。
俺が顔を上げた時、ふと蓮咲と目が合った。
蓮咲の白い髪が風で左右に揺れる。
前髪には三日月の形をしたヘアピンを付けている。前からこんなの付けていたか?
こうやってまじまじと見つめることなんて今までなかったから分からない。
「私と付き合ってください、と言いました」
そうか、そういえば片言で訊き返していたな。
キャパオーバーで数秒前の自分の発言を完全に忘れていた。いや、考えてみろ。万年ぼっちの俺が学園のアイドルの告白に耐えられるキャパシティーを持っているはずがないだろう。
とりあえず平静を装いつつ、これだけは聞いておこう――
「なんで……俺なの? 別にクラスでも目立ってたわけでもない、運動が得意なわけでも、勉強が得意なわけでもない、なんで君みたいな人がこんな平凡な俺なんかを」
自虐を込めた質問を蓮咲に吐く。
これが俺の今の心境だ。
蓮咲が首を傾げて、至極当然のように俺の質問に返答した。
「――そういう運命、といいますか……」
「いや、あんまし答えになってないような……」
「
「えっと……」
名前を覚えていてくれたことに関しては素直に嬉しいが、友達のいない俺の血液型や生年月日なんてどこから流失したのだろうか。
それと、蓮咲の言っていることがさっぱり分からない。
「つまり俺のことが好きなわけではない、ってこと?」
「うーん、今はそうなるんですかね?」
なんで疑問形なんだよ。
はぁ、そういうことか。そういえば噂で聞いたことがある。蓮咲は占いが大好きらしい。
教室で本を読んでいる時に耳に入ってきただけで、直接聞いたわけではないが、この告白の遠因はその占いが関係している気がする。
「ほんとに占いが好きなんだな」
「えっ、なんでそれを知っているんですか……?」
「嘘か本当かは別として、有名人に噂は付き物だからな。なんとなくそういうことを聞いたことがあっただけ」
「う、隠してたつもりなんですが……」
蓮咲ってこんな表情をするのか。
俺は気まずそうな表情を浮かべる蓮咲を見て、そう思った。
それと同時に納得した。この告白は多分勘違いだ。蓮咲の運命の人が俺なわけがない。
「ごめん」
「それは、ダメってことですか?」
「まぁ、そうなるかな。余計なお世話かもしれんが、自分の恋人くらい神頼みじゃなくて自分の意思で決めた方がいいぞ」
蓮咲が驚いた表情を浮かべて数秒。
深呼吸を挟んだ後、蓮咲は俺に背を向けて小さく呟いた。
「……そうですか、分かりました……」
離れる蓮咲の小さな背中を見て、これでよかったと自分に言い聞かせる。多分あいつは人を好きになったことがないのだろう。
気付けば、俺の鼓動は平常運転に戻っていた。
俺のたった数分の甘酸っぱいラブコメはこうして幕を閉じ、た……?
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