閑話 黒宮兄妹の仁義なき戦い
これは、残った夏休みを黒宮本家で過ごしていた日のことだ。
「日向お姉ちゃん、今日は何をしますか?」
「そうだねー……一通り遊んじゃったから迷っちゃうな」
本家に来て早々、鈴花が毎日のように日向を遊びに誘い、食事の後も勉強を見てもらったりお風呂に入ったり、用意された客室ではなく鈴花の部屋で寝ることが多くなった。
去年は色々と都合が合わず会えなかったこともあり、鈴花のべったり加減はちょっと予想外だった。
それでもやはり年下、しかも将来は義理の妹となる鈴花を無碍に扱うことはできず、彼女が満足するまで付き合うことに決めた。
たくさん遊び尽くして一緒に何をしようか悩んでいると、少し苛立ったような表情をした悠護が二人の前に現れる。
「鈴花、いい加減にしろ。ここに来てからずっと日向を振り回しやがって。こいつの迷惑も少しは考えろ」
「ゆ、悠護、あたしは別に……」
鈴花と遊ぶのはそれなりに体力がいるが、それでも彼女と一緒に過ごして楽しんでいる自分も同じだ。
そのことを伝えようとした直後、
「…………悠護お兄ちゃん、嫉妬は醜いです」
「……あ゛ぁ?」
異母妹からのストレートパンチに、兄が普段は出ない低い声が出た。
二人の間に何故か吹雪が起き、はらはらした様子で見守ることしかできない。
次の瞬間、右腕を鈴花に、左腕を悠護に掴まれたかと思うと、今度は綱引きみたいに引っ張り始めた。
「いいか、こいつは俺の女だ! 少しは俺に時間くれてもよくね!?」
「学校が始まったらまたしばらく会えないんですから、私に譲ってください!」
「そうかもしれねぇけど! あれから数日も経ってんだぞ! いい加減日向不足になりそうだから譲れ!」
「いーやーでーすー! 悠護お兄ちゃんのケチッ!」
「ケチで結構!!」
「いだだだだだだだだだだっ!?」
意外と遠慮なく引っ張りあう兄妹の馬鹿力に、さすがの日向も悲鳴を上げる。
指が食いこむほど腕を掴まれ、心なしか骨が痛み始めた。これはまずいと思いストップをかけようとした時だ。
「三人とも、朱美がお茶にしようと――って、何をやってるんだっ?」
「な……何をやってるのあなた達!?」
呼びに来た徹一の驚いた声を、近くにいた朱美が屋敷中に響く怒声を上げたことによってこの戦いに終止符を打った。
日向の肩は脱臼寸前まで痛めたらしく、しばらく動かさないように主治医が伝える横で、朱美が今まで見たことのない表情で悠護と鈴花に雷を落としていた。
そして徹一から「その……二人がすまなかった」と同情の視線を向けられ、日向はいたたまれない気分を味わう羽目になった。
その後も二人の仁義なき戦いが続くことは、この場にいる誰もが知らなかったことになるが、それはまた別の話。
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