第12章 運命はもう一度愛を誓う
Prologue 救世主だった少女は救いを求める
アイリス・ミールは、家に恋人を連れてくるホステスの母親を持つことを除けば普通の少女だ。
母親は夜遅くまで仕事をするため、独りぼっちのアパートで過ごす時はいつも絵本を読んでいた。
キラキラなドレスを着たお姫様。強くてかっこいい王子様。悪者として二人の仲を引き裂く魔女や怪物。だけど、そのどれもがハッピーエンドで終わっている。
アイリスもそんなお姫様に憧れ、自分もそうなりたいと願うもそう簡単にはいかなかった。
現実は物語のように上手くいかないと知った頃から、彼女は自身を主人公にした物語を書くようになった。
敵キャラの魔女や悪女を倒していくもう一人の自分は輝かしくて、好みの王子様に守られ愛されるシーンを書くと自分まで幸せになる。
たとえ周囲の――特に女子から「痛い」とか「ぶりっ子」とか言っていじめて来ても、恋人を連れ込んだ母からの邪魔者を見る目を向けられようとも、物語があれば辛いことは乗り越えられた。
だからこそ、自身が【起源の魔導士】の生まれ変わりの可能性が高いと宮殿に連れてこられて、どんなワガママも許されたあの暮らしは本当に夢のようだった。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!?」
――それが、どうしてこうなった?
アイリスがいるのは絢爛豪華な宮殿ではなく、建物が壊された市街地。
綺麗なドレスもアクセサリーも没収されて、IMFの職員から渡された軍服タイプの魔装を身に包み、護身用の拳銃型魔導具を持たされている。
いくら宮殿で教育されたからといって、戦闘経験ゼロのアイリスはただの足手まとい。
何故、彼女がここにいるのかと問われれば、ひとえに宮殿の臣下による命令だった。
最初は自身が偽者だと判明し自室に引きこもり、メリッサとヴィルヘルムしか会うことができなかった。でも、突然数人の臣下が部屋に押し入ったかと思うと、ベッドにいたアイリスを引っ張って無理矢理車に乗せられた。
車が向かった先は、IMFの職員がいる簡易基地。
そこで魔装と魔導具を渡されかと思うと、彼らは言った。
『アイリス様、あなたが今まで宮殿で好き勝手に過ごした代価を――今ここで支払ってもらいます』
それを聞いた瞬間、アイリスは理解した。
臣下達は偽者である自分を体よく処分したいのだと。
母は既に恋人と共にどこかへ行き、観衆の目がある場で恭しく宮殿に迎えられたのに、偽者だったからと元の学校に戻ってもあそこに自分の居場所なんてどこにもない。
好き勝手に過ごしたというが、それは周囲がアイリスに快く色々と申し出てくれたおかげだ。誰もが自分に敬ってくれたから、ただ答えただけ。
でもアイリスが偽者である以上、今までの待遇をする理由なんてどこにもない。
DNA鑑定だけでアイリスを【起源の魔導士】の生まれ変わりだと信じて疑わなかった臣下達も、偽者だと判明した時にはこの責任を大なり小なり問われるだろう。
だからこそ、自分達の汚点となる自分をこんな危険地帯に放り捨て、そこで殺されても『偽者であることに責任を感じ、責任を持って抗争の鎮圧に向かうも死亡する』と伝えれば責任は免れる。
なんて汚い手なのだろう。なんて汚い大人達なのだろう。
あれだけ囃し立てていたくせに、立場が悪くなると全ての責任をひ弱な少女に押し付ける。
アイリスが嫌いな現実そのものを具現化したようなものだった。
「お願い……」
何故、こんなことになったのだろう。
アイリスは一度も悪いことをしていない。むしろみんなが望む姿になれるよう受け入れただけだ。
それさえも罪なのだというのなら、現実なんて大嫌いだ。こんな世界で生きたくはない。
それでも――こんなところで、独りぼっちのまま死にたくない。
「助けて、誰かぁ……助けてよぉ……!!」
救世主となるはずだった少女は、爆発音も銃撃音も鳴り止まない戦場で救いを求める。
その声が届くまで、あと――――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます