閑話 魔導具バカな先輩後輩

 ある日の休日、学内をぶらぶらと散歩していた日向はカフェテリアのオープンスペースで話し合う二人の男女を見つけた。

 男の方は、親友のパートナーである樹。

 女の方は、自分達にとって後輩にあたる香音。


(あの二人、こんなところで何してるんだろう? はっ、まさか樹ついに浮気を……!?)


 魔導具関連で親交を持つようになったのは知っているが、二人は異性同士。

 前に同じ話が上がったが、あれは心菜の勘違いだと分かってすぐに鎮静化した。

 だが、昔見た恋愛ドラマで、男が自分と気が合う女性にはすぐにメロメロになり、そのまま付き合っていた恋人を捨てるという当時の日向にはかなりショックなシーンを見たことがある。


 百歩譲って樹が浮気していないと考えても、あの親密な空気は恋人のそれだ。

 また親友が傷つく姿が見たくなくて、すぐさま自身の姿を消す魔法である『隠者エレミタ』を使い、なるべく足音を殺して接近する。

 出羽亀みたいな行為だが、それでもこれだけは見過ごすことはできなかった。


(樹の奴、もし本当に浮気だったら蹴り飛ばしてやる)


 頭の中で樹に向かって両足飛び蹴りをお見舞いする自分の姿を思い浮かべながら、彼らの席に近い木を壁にして聞き耳を立てる。

 距離は申し分ないため、二人の会話はちゃんと耳に入ってきた。


「だからよー、やっぱりこれはやりすぎだって。なんだよ、『落下したら半径数キロを燃やすシャンデリア』って! お前は二次災害を起こしたいのか!?」

「確かに被害は出るかもしれないけど、テロを予想したのを考えるといい手だと思うの。まさか向こうもシャンデリアが落ちただけで火の海になるなんて思わないだろうし」

「だーかーらー! こんな危険性の高い魔導具はIMFの許可はぜってぇ降りねーって言ったんだろ!? それなら俺が考えた『氷結腕輪』の方がいいって! こいつを振るうだけで足元を凍らせるっていう優れものだぜ!」

「そっちだって、使い方次第だと変質者を物理的にも精神的も撃退しちゃうかもしれないじゃん。あんた、自分の作った魔導具で相手の大事な部分が欠損してもいいわけ?」

「………………………やべぇ、想像したら肝が冷えてきた」


 真っ青な顔をして股間を押さえる樹と、呆れてため息を吐く香音。

 近くで聞いていたカップル(特に男子)は顔を青ざめ、こそこそと動きながら席を立った。

 そんな周りを他所に、二人の会話はもはや羞恥もへったくれもない会話を続ける。


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」


 そして、それを間近で聞いていた日向も周りと同じようにひっそりと退却すると、寮が見えた時点で魔法を解いた。

 ちょうど寮の前の自販機にいた悠護は、突然現れた日向を見てビクッと肩を震わせた。


「びっくりした……なんだ、日向か。驚かすなよ」

「…………悠護」

「なんだ?」

「出会って早々なんだけど、ちょっとあたしの頭殴って。できれば角度四五度のフルスイングで」

「本当にどうしたお前ッ!?」


 突然の申し出にぎょっとしながら、悠護は自己嫌悪に陥っている日向を宥めることに専念する羽目になった。

 その日から、日向は魔導具バカ先輩後輩のトークには絶対に聞き耳を立てないと固く誓ったのだった。

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