第8章 【ガラクタ姫】と革命児

Prologue 新しい朝

 四月五日、今日は聖天学園入学式を迎える。

 天気は空の青さが目に染み渡るほどの快晴。

 本校舎付近に植えられた桜は、四月に入った途端に気温が高くなったおかげで見事なほどの満開。

 絶好の入学式日和と言っても過言ではないだろう。 


 一年も住み続け、あと二年お世話になる学生寮の部屋、その洗面所で日向は身だしなみを整えていた。

 腰まで伸ばした琥珀色の髪は寝癖直しウォーターとブラッシングをしているかげで寝癖がなくなり、さらさらとした髪触りをしている。

 シミもほくろもない顔はきちんと洗顔した後、化粧水を染み込ませたコットンを顔に満遍なく塗る。化粧水で肌がしっとりとしたタイミングで美容液、保湿クリームの順で優しい手つきで顔に塗る。


 以前ならここまでしなかったが、日向が肌のスキンケアをあまりしていないとルームメイトかつ親友の心菜に話したら、彼女がオススメだと言って高そうな化粧品をくれたのだ。

 普段ならそこで断るのだが、心菜のあまりにも必死な態度に気圧され、そのまま受け取ってしまった。


 まあ結果的に肌が以前より若返ったような気がするし、中学からの親友の相模京子からも口酸っぱく言われているから、ある意味いい機会だった。

 スキンケアを済ませると、日向は結んでいる赤いリボンが曲がっていることに気づいて、指先でちょいちょいっと軽くいじりながら直す。


(この制服をもう一年になるのかぁ……)


 思わず鏡に映る自分の制服姿を見て、日向はしみじみとした気分になる。

 入学当初は右も左も分からず、勉強について行くのに必死だった。それでもこの制服はこれまで過ごした日々の記憶が染みついていると思うと、少しだけ感慨深くなる。


「日向ー、朝ごはんできてるよー」

「はーい」


 キッチンにいる心菜に呼ばれ、日向は洗面所を出てリビングに向かう。

 明るい色をしたローテーブルには、日本人らしい朝食が並んでいる。

 メニューは炊き立てのご飯に豆腐とワカメのお味噌汁、鮭の塩焼きにだし巻き玉子、ニンジンと大根のぬか漬け。栄養バランスがきちんととれた朝食を見て、日向は目を輝かせる。


「うわあ、今日も美味しそう!」

「ふふっ、ありがとう。さ、冷めないうちにどうぞ」


 淑女どころか世界中にいる賢母良妻でさえ凌ぐだろう料理の腕を披露した心菜は、嬉しそうに顔を綻ばせながら日向の前に座る。

 日向はそのタイミングに合わせて両手を合わせようとすると、ふとここにはいない、けれど同じ学生寮で暮らす彼らのことを思い浮かべる。


 彼らの今日の朝食はなんだろうか。自分達と同じ和食? それとも洋食?

 ああでも、日向と心菜のパートナー達は日本だから和食かもしれないけど、上の階にいる王子はきっと洋食だろう。

 見てもいないのに彼らが食べているだろう朝食を想像し、内心意外と自分意地汚いなと思いながら、口元に笑みを浮かべたまま心菜と一緒に両手を合わせた。


「「いただきます」」


 こうして日向達の二年生として始まる新しい朝は、食事の挨拶と共に始まった。

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