第110話 秘密の女子会【後編】

「え……?」

「だから、気にしなくていいって言ってるのよ。すでにいない人間の贖罪のために自分の将来をふいにする義理はないわ」


 冷めた表情で切り捨てるように言い放つ愛莉亜に、日向だけでなくアリス達も困惑してしまう。

 愛莉亜と希美には接点なんてないただの赤の他人。それでも日向達からしたら、愛莉亜の言葉はあまりにも冷たすぎる。


「そもそも、どうしてあなたが自分の幸せになることを我慢しなくちゃいけないの?」

「が、我慢なんて、あたしは……!」

「してるわよ。知り合いを死なせるきっかけは確かにあなたかもしれないけど、殺したのはあのフォクスという魔女よ。あなたは桃瀬希美を殺していないどころか、むしろ助けようとしたじゃない。どうして自分のしたことには目を逸らして、死なせたことだけにこだわるの? 私にはそっちの方が理解できないわ」


 噛みつく勢いで否定する日向を、愛莉亜は刃物の如き鋭さで言い切る。

 まるで自分が抱く罪悪感はくだらないと言わんばかりに否定する目の前の舞姫を睨みつけるも、彼女は涼しい顔でワインを飲む。

 心菜だけでなくアリス達も息を呑む中、服の裾を握っていた拳をまた強く握りしめたまま顔を俯かせる。


「たとえそれが正しいって思っても……あたしは、その罪を背負わなきゃいけないんだ! 誰かが殺したか殺さなかったかなんてたいした問題じゃない、問題は助けたか助けられなかったかの方が重要なの! ロクに誰も助けられていないあたしが、そう簡単に幸せになっていけないんだッ!!」


 助けたか、助けられなかったか。

 日向にとって重要すべきものはそこなのだ。


 この一年に起きた事件の中で、日向は何度思い返しても自分の力で助けることができたのは、新しいキメラの実験身体とされたメアリ・バードだけ。

『獅子団』の堂島猛は助ける前に彼自身がその手を受け入れるのを拒否し、右藤英明は無意識に発動させた無魔法で魔核を消してしまった。

 そして、桃瀬希美はあと少しというところでその機会を奪われた。


 これらを鑑みても、日向は誰も助けていない。救っていない。

 己の目標である『魔法で悲しい目に遭う人を笑顔にする魔導士』なんて、最早夢物語と同じくらい遠くなっていく。

 目標さえ届かないほど弱い己の力が恥ずかしい。あんな風に豪語していてロクに助けられていない自分が情けない。


 ――こんな中途半端な自分がのうのうと自分の幸せについて考えるなんて、そんなのは許されない。


 そんな気持ちが日向の胸の中を支配する。

 服の裾を握る拳が震えるのを見つめていた愛莉亜は、そっと日向に向かって手を伸ばす。

 白魚のように白く細い指が彼女の頬に触れて――


 ぎゅむっ、と両方の頬を抓んだ。しかも直後にぎぎぎぎっと思いっきり横に伸ばして。


「いだだだだだだだだだっ!?」

「た、高城さん!?」


 遠慮のない力加減に涙目になって叫ぶ日向を見て、心菜が留めに入ろうとする前に愛莉亜が幾分か強い口調で諭す。


「それこそ理解できないわ。誰かを救う時、人は必ず『一』を取るか『全』を取るわ。ヒーローっていうのはね、大切な人を切り捨て大勢の人を救うっていう美談を持っているからこそなれるのよ。

 ……でも、あなたは違う。この世界の恐ろしさをまだ知らないただの子供よ。そんな子にヒーローの役目を背負わせるなんて、正気の沙汰じゃないわ。たとえ偽善でも中途半端でも、あなたは自分の手が届く範囲の者を救って助ければいい」


 頬を抓る手とは反対に、優しい声音が日向の耳朶をくすぐる。

 慈しむように微笑む愛莉亜の顔を見て、頬に感じる痛みが遠ざかっていく。


「その点で言えば、桃瀬希美はあなたの手が届く範囲にいなかった。だから助けられなかった、それだけのことなのよ。あなたが後ろめたく思わなくていいの。それでもまだ気にしているというのなら、次は必ず自分の手が届くところまで手を伸ばせばいい。

 ただ過去を後悔するのではなく、もう二度と同じことを繰り返さないよう努力しなさい。……そうした方が、もう少し気持ちも楽になるわ。」

「でも……でも、あたしは……」


 愛莉亜は正しいことを言っている。それは頭では理解していても、心が拒否しようとする。

 そうしなければ、豊崎日向という少女は赦されないと思ったから。

 だけど、目の前の女はそんな彼女の気持ちなんて知ったことではないと言わんばかりに、言葉を紡ぐ。


「それにね、日向。幸せになる権利は誰にだってあるの、たとえどんなことをしても幸せになるのは個人の自由よ。――だから、幸せを手放すような真似はしては駄目」


 そう言って、愛莉亜は日向の頬から手を離す。

 引っ張られていたせいで頬は赤く染まっているが、日向はどこか魂が抜けた表情のまま固まる。


「日向……?」


 何も喋らず動かない親友の様子の顔を覗き見た心菜は、小さく零れる水滴を見て息を呑む。

 ぽろぽろと零れ落ちる涙が服の上で染みになるのも構わず、日向は感情のダムが決壊したが如く泣き顔を見せていく。


「うぅ……ひっく……ふぇえ……!」

「あらあら、子供みたいに泣いて。しょうがない子ね」


 すすり泣く日向を、愛莉亜がぎゅっと優しく抱きしめる。

 端から見たら泣いている子供を慰める母親のようだが、今はあながち間違いではないだろう。

 ぐりぐりと肩口に額を擦りつけてくる日向を、愛莉亜は頭を優しく撫でる。


「いい、の……?」

「うん?」

「あたし……幸せに、なってもいいの……? こんなダメダメなあたしでも……?」

「……くどいわよ。そう言っているのが分からない?」


 その言葉に、とうとう日向の中で我慢していた感情が涙と共に溢れ出す。

 また強く抱き着いてくる少女を、愛莉亜は黙って抱きしめ返した。


「あたしっ……もっともっと魔法頑張る……っ」

「そう」

「もう……、誰も失わないように強くなりたい……っ」

「あなたがそうしたいならそうしなさい」

「……でも、告白はまだ心の準備ができてないから、もうちょっとだけ待って欲しい……」

「それはあなたの自由よ」


 泣きながら自分がしたいことを伝えると、彼女は頷きながら肯定する。

 これまで日向の周囲にいた女性はおばさんと言ってもいい人ばかりで、こうして兄と同じくらいの女性に甘えたことはない。だからなのか、日向の態度がやや幼児退行しているような気がする。


「うう~~、愛莉亜さんかっこいいですぅ~~。もうあたしのお姉ちゃんになってください~~」

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。後で陽に今後について話し合おうかしら」


 日向の言葉に満更でもなさそうな反応を見せる愛莉亜の横で、アリス達はため息を吐きながらも幸せを諦めようとした少女が心を入れ替える様を見て、安堵する。

 愛莉亜に抱きしめられながら泣き続ける日向の涙が止まったのは、空が僅かに橙色に染まった頃だった。



☆★☆★☆



「えっと……ご迷惑おかけして申しわけありませんでした……」

「いいっていいって~。むしろ気持ちが落ち着いたみたいで安心したよ~」


 目の縁を真っ赤に腫らした日向が謝ると、すっかり酔いが醒めた様子のアリスが笑いながら受け流す。

 テーブルの上にあったお菓子も飲み物もほとんどなく、心菜に至ってはもう片付けさえやっている。


「さて……そろそろお開きにした方がいいかもしれないけど、このまま帰るのはちょっともったいないわね。そ、れ、に……まだ詳しく話を聞かなきゃいけない子がいるみたいだし?」

「あ、それもそうだねー」

「え? え?」


 流し目で心菜に視線を向けた愛莉亜の反応に、当の本人はゴミ袋片手に困惑している。

 するとアリスは愛莉亜の思惑を察したのか、心菜の手からゴミ袋を奪うと、そのままテーブルの中心に座らせた。


「そういえばー、心菜ちゃんのパートナーってあの赤髪の子だよね? 仲いいの?」

「へっ? えっと……多分、そうだと思いますけど……」

「じゃあじゃあ、将来は結婚するの?」

「けっ……結婚って……!?」


 結婚というワードに過剰反応した心菜の顔がトマトみたいに真っ赤になると、アリスがキラキラと目を輝かせながら再び問いかけようとするが、後ろから襟を掴まれぐいっと引っ張られた。


「ぐえっ」

「ちょっと、それ以上はあまりにも不躾じゃないの? そもそもパートナーとどうなろうかは、それこそ個人の自由よ。卒業したら関係を切る子だって少なくないんだから」


 アリスの襟を引っ張った犯人である紗香の言葉に、心菜の肩がぴくりと震えた。

 パートナーというのは、IMFに勤める魔導士は二人一組ツーマンセルで行動することの多く、学生のうちに連携を覚えさせるために作った制度だ。それがいつの間にか異性に愛の告白をするための公式行事のようなものになり、パートナー同士の結婚率が増加した。


 だが、いくら魔導士とはいえ元は人間だ。相性という問題があり、卒業と同時にパートナー関係を断ち切る者は少なくない。

 七色家は数代前の当主の決定で『パートナーになった子を第一婚約者候補にする』という決まりができたが、アリス達が覚えている限りではパートナー以外の相手と結婚したという記録は、徹一のケース以外ではほとんど見たことがない。


 特殊な立場だからこそ周囲から敵愾心を抱かれ、遠巻きにされる七色家の人間にとって、パートナーというのは無意識に彼らの心の支えになった。だからこそ、パートナー以外の相手を選ぶという選択が消えたのだろう、とアリス達は思う。

 だが、心菜は魔導医療のシェアが上位に入る『神藤メディカルコーポレーション』の社長令嬢だが、パートナーとなった相手と結婚するという決まりはない。


 樹との仲を知る日向にとっては、この二人が卒業したら離れ離れになる可能性が高いのだとようやく気づく。

 それは心菜もとっくに理解しているのか、気づけば暗い表情を浮かべている。

 膝の上に乗っていた左手を右手で強く握りしめながら、ゆっくりと口を開いた。


「……私の家には、七色家のような決まりはないです。ですから、卒業したら恐らく……叔母が勧めてくる男性と結婚する可能性が高いと思います……」

「え……そうなの?」


 初めて聞かされた話に、日向は目を見開きながら訊くと、心菜はゆっくりと頷いた。

 聞けば心菜の母の妹である叔母は、中学の頃から心菜に会うたびにこっちが呆れるほど見合い話を持ち掛けてくる人らしい。なんでも叔母は家柄を気にするきらいがあり、心菜が家の恨みのせいで誘拐されてIMFに連絡しようとした時は家の名に傷がつくという理由で猛烈に反対していた。


 それもリリウムの力で事なきを得たが、それ以外にも親しい友人を絞ったり、異性とは必要以上に近づかないなどと度々制限をかけていた。だが両親や祖父母の説得で制限をかけることはなくなったが、今度は見合い話を持ち掛けるようになった。

 相手は家と並んでも相応しい家柄を持つ者ばかりで、年は高くても一〇歳上、低くても五歳下だった。誕生日パーティーでは叔母の差し金で会う相手が全員見合い相手で、中にはすでに自分と結婚するのだと疑わず、子供の名前を考え始めるという気が早い者もいた。


 これに関しては両親も祖父母も心菜の将来を考えると口煩く言えるわけもなく、たとえ本人が辟易しても見合い話を拒むことは許されなかった。


「それにね、学園に来てからも何度か色んな見合い話が来たし、実際その相手とも会ったことがあるの」

「えっ、そうなの!?」

「うん。でも、どの相手も私の卒業を待ってからまた見合いについて話そうってなってるの。まあ当然だよね。いくら家のためとはいえ、年が離れた私とすぐ結婚しようと思う人はいないわ」


 幸いにも、心菜の見合い相手は彼女が卒業するまで気長に待つという寛大な心を持つ人達だった。

 もし相手が問答無用で彼女を襲うというものなら、友人達の力を借りてどうにかしよう、と日向は内心で物騒な決意を決めた。


「でもそれだと、自分のパートナーのことは卒業したらはいさよなら~でいいってことだよね?」

「そ、それは違いますッ!」


 香音の言葉に心菜が大きな声で否定する。

 突然の大声に香音が目を丸くすると、心菜はすぐに我に返った。


「違うんです……むしろ私は、樹くんとそんな浅い関係でいたくないんです……っ」


 小さくも吐露されていく気持ちを、言葉となって吐き出していく。


「最初、樹くんのことはとても頼りがいのある人だって思ってました。でも……一緒に過ごしていくうちに、男の人としての彼の魅力に気づいていって……その…………恐らくですけど……私は、樹くんに恋をしてるんじゃないかって思ってて……」


 顔を赤くしながら告げられる真実は、誰もが無意識に息を呑んだ。

 初めて己の気持ちを明かす少女の邪魔をする無粋な者など、この場にはいない。


「私も日向と同じで、フラれるのが怖くて……。でも……、同じように決心がついたら告白したいって思ってます……」


 徐々に語尾を小さくさせながら呟いた心菜に、日向は彼女の震える手をそっと上に乗せる。

 温かいぬくもりに顔を上げると、心菜の自慢の親友が優しい顔で微笑んでいた。


「……日向?」

「いやさ、さっきまでうじうじしてたあたしが言ったのも変な話だけどさ……これだけは言わせて欲しいな」


 首を傾げる心菜を見つめながら、日向は苦笑しながら言った。


「お互い、頑張ろうね」

「……………、うん」


 たった一言。それだけで心菜は親友が言いたいことが伝わってきた。

 たとえフラれてしまう結果になろうとも、胸に抱いたこの想いが悔いの残らないものししよう、と。そして、自分達の幸せを掴み取るために一緒に頑張ろう、と。

 そんな真っ直ぐな気持ちを受け止めながら、二人は笑い合う。憑き物が落ちた、すっきりとした顔で。



「いや~、結構盛り上がったねぇ~」

「ええ」

「そうね、意外と悪くなかったわ」

「そうだね、誘拐紛いされたこと以外は」

「うぅ……だからごめんってばぁ~」


 帰り道、アリス達は都内の繁華街を歩いていた。

 心菜は帰りが遅いことに心配した叔母が手配したリムジンに乗せられて帰ったため、今はこの四人しかいない。

 あと数分もしたら、彼女達は自分の家に帰る。それまでの間、楽しかったひとときの余韻に浸っていたかった。


「でも……あの二人があそこまで恋愛に逃げ腰だったのは驚いたなぁ」

「それはそうよ。恋をしたことのない子にとって、その先に進むのはとても勇気がいることなの。あなたみたいに電光石火のようなアプローチをする子なんて少ないわよ」

「あら、それは少し気になるわね。次回があったらその話題にしましょうか」


 アリス達がわいわいと話し合う横で、香音は一人黙り込んでいた。

 来年聖天学園に入学する予定である香音だが、『灰雪の聖夜』での成果もあって自分を蔑む輩は少なくなっている。

 それでも多方面で色々と言った輩もおり、たとえ入学してパートナーが宛がわれても、その人物が香音の悪評を知ったら確実に七色家への婿入りはしないだろう。


(私も、あの二人みたいなパートナーに会えるのかな……?)


 幼い頃に聞いた、両親の馴れ初め。甘酸っぱくて、聞いているこっちが恥ずかしくなるような話は、まだ【ガラクタ姫】と言われる前の香音にとって憧れだった。

 今ではその憧れは、悪評によって霧の如く消えようとしている。

 ネオンで照らされた街並みの中、香音はあと数ヶ月後に訪れる未来への不安を抱きながら一人ため息を吐いた。



「まったく……遅くなるなら、今度からもう少し早く言いなさい」

「ごめんなさい、叔母さん。次からは気をつけます」

「よろしい」


 リムジンの中、心菜のスマホのGPS機能で場所を探り当てた叔母は、厳しい顔つきで姪を叱りつけていた。

 元々真面目な性格である心菜がこんなミスをするのは珍しいが、神藤家の一人娘である彼女の身に何かあったら今後の将来に響いてしまう。

 家柄と血筋を尊重する叔母にとって、それだけはなんとしても避けたかった。


 素直に謝罪した心菜にため息を吐きながらも許した叔母が備え付けのテレビに集中する横で、心菜は窓の外を眺めていた。

 冬の寒さに耐えながら歩く通行人、エンジン音を鳴らしながら走る車やバイクを眺めながら、時折視界に入る赤を見てパートナーである少年のことを思い浮かべる。


(……樹くん……)


 心菜にとって、初めてなった男友達であり好きな人。

 この気持ちを初めて話したけれど、本当ならずっと隠していようと思っていた。自分自身でさえ確証できなかったから、誰にも話さず、ずっと心の中に秘めていようと思った。


 だけど、八月の時に言われた言葉が頭の中から離れないほど強く刻まれて、柄にもなく嬉しくなった。

 学園祭で自爆攻撃をした彼が死ぬのではないかという恐怖に襲われて、初めて強く彼を失いたくないと思えた。

 そして今日、自分の幸せは自分で選ぶものだと理解した親友の涙を見て、確信した。


 ――神藤心菜という女は、真村樹という男のことが好きなのだと。


(でも、これはまだ伝えてはいけない)


 もし伝えたら彼にフラれるしれないし、話を聞きつけた叔母が自分の気に入った相手との結婚を強引に進めようとするかもしれない。

 今はまだ勇気が持てないけれど、時がきたら必ず伝えよう。


 ――あなたのことが好きです、と。


 心の中で固い決意を決めた心菜は、再び眩い光に包まれた街を眺めた。



 心菜達が帰った後、日向は軽く夕食を摂った後、自室のベッドの上に寝転んでいた。

 部屋には電気はついておらず、窓の外から見える街の光と月光が部屋を照らしていた。


「今日は色々あったな……」


 突然の女子会、参加者達の爆弾発言、そして親友の恋の話。

 これだけでも頭がキャパオーバーしてしまいそうなほど情報過多なのに、日向の頭の中はあのことしかなかった。


「自分の幸せは自分で選ぶもの、か」


 希美を見殺しにした自分にはそんな資格はないのだと思っていた。

 でも、たとえ周りがこの罪を赦さなくても、幸せになる権利だけは誰にも奪われてはならない。

 また失敗するかもしれない。同じことを繰り返すかもしれない。「幸せになるな」なんて言われるかもしれない。


(でも、あたしはもう迷わない)


 強くなろう。救いたい人を自分の手が届くように。

 極めよう。自分でもまだ把握しきれていない無魔法を。

 伝えよう。いつか、この胸の中に秘めている気持ちを。


 今まで助けられず、救えなかった罪を抱えたまま、前に進む。

 それがどれだけ辛い茨の道なのから重々承知だ。

 けれど、日向の決意はダイヤモンドよりも硬く、強いものになっていた。


 人工的な光と月光で照らされた部屋の中で、日向の琥珀色の瞳は今まで見たことのない輝きを放っていたことを本人は知らないまま、眠りにつくまでずっと薄暗い天井を見つめ続けた。

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