第7章 狂恋の戦乙女

Prologue 桃瀬希美という少女を作る材料

 恋する乙女を作る材料。


 砂糖とスパイスと塩が小匙一杯。

 一途と我儘と嫉妬が大匙二杯。

 告げられない想いに身悶える悲しみが一摘み。

 祝福に満ちた未来と、愛する者と歩ける幸福を仕上げに少々。


 それが、恋する乙女を作る材料のレシピ。



 でも、桃瀬希美という少女を作る材料は違う。


 甘くて重い恋心と過剰なほどの献身と不透明な期待が小匙一〇杯。

 愛する者に近づくゴミへの憎悪と嫌悪と嫉妬が大匙二〇杯。

 告げてもなお成就しない一方的な想いと身も心も燃やすほど焦がれる恋が大壺一杯。

 どんなに恐ろしいことでも恋のためなら成し遂げる狂気的な精神と行動力を仕上げに大瓶一杯。


 それが、桃瀬希美という少女を作る材料のレシピ。



 何度周りから諦めろと、無駄など言われても、彼女は心の中の愛を燃やし続けた。

 どんな手を使っても、この手が血で汚れても、彼女は構わずやり遂げた。

 いつかそう遠くない未来、愛しい人と一緒になれると信じて。



 だけど。

 ああ、ああ、現実とはなんて無情なのだろうか。



 愛しい人の隣にいるのは、世界で一番憎む大っ嫌いな女。

 愛しい人と一緒になる未来を持っているのは、永遠に分かり合えないと思っているゴミ。

 希美の想いを、時間を、努力を、その女は素知らぬ顔で全て踏み躙っていった。


 もちろん、女の方はそんな気は一切ない。

 ただ純粋に、己のパートナーとなった少年のことを思って行動しただけだ。

 たとえそれが愛情なのか友情なのか分からなくても、ただ一緒にいたいという気持ちしかなかった。



 それでも、希美は決して許さない。

 自分がいるべき居場所を、運命を奪った女を。

 何度も何度も頭の中で無残な死体になっても、胸に巣食う憎悪が消えないほど憎くて憎くて堪らない女を。


 己の恋のためならば、希美はどんな手段を取ろうと厭わない。

 たとえそれが、悪魔に魂を売ることになっても――――。

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