閑話 白の剣士は己の想いに気づかない
ある日の休日、怜哉は学園からそう遠くないショッピングモールに来ていた。
平日は学園祭の準備に追われているが、今日みたいに休日あるだけで気分は晴れやかになっていく。
怜哉のクラスは消極的で、出し物なんか聖天学園の創立についての展示発表だ。一年や今年卒業する三年はやる気があるようで結構だ。
「……ん?」
ふと廊下を歩いていると、ある店に目をついた。
金の縁取りがある水晶やサンキャッチャー、動物や昆虫を模ったガラスの置物が置かれているのを見るに、どうやらお守りを売っている店のようだ。
魔導士にとって、こういったお守りでも少なからず影響力がある。中にはお守りを買って自身の運を上げる輩だっているくらいだ。
思わず足を踏み入れ、可愛らしいものから禍々しいものまで揃う店内を見て回る。
するとドリームキャッチャーが飾られている棚の前に来ると、ふと脳裏に琥珀色が似合う少女の姿が浮かぶ。
追憶夢という意図せず他人の記憶を夢としてしまう現象に遭う彼女のことだ、恐らく夢を使った精神攻撃も受けてしまうだろう。
いくら無魔法という最強の魔法があっても、その可能性は捨てきれない。
そう思って手に取った瞬間、我に返った。
(あれ……? なんで僕、豊崎さんのこと考えたの?)
今まで戦うこと以外、なんの興味を抱かなかった。
それなのに、何故か今、あの少女のことが頭に浮かんでしまう。
自分自身のことなのに理由が分からないことに首を傾げていると、若い店員が近寄って来た。
「そちら、当店おすすめの品ですよ。『贈った相手が良い夢を見られるように』と願いを込めて、一から手作業で作り上げたお品ですので効果がありますよ」
店員からの説明を聞いて、怜哉は自身の手に持つドリームキャッチャーを見つめる。
恐らく客に買わせる気を起こさせるための常套句かもしれないが、魔導士にとってはこんなものでも効果があるのも事実。
(それに、これ以上あの子が大変な目に遭うと黒宮くん達がうるさくなる。ならせめて寝ている時くらい静かになってもいいよね)
そうだ、自分が彼女のことを考えたのはそれが理由なのだ。
そう自分自身を納得させながら、手に取ったドリームキャッチャーを店員に渡す。
「これ買うよ。プレゼントだから包装お願い」
「はい、ありがとうござます!」
にこにこと笑顔でレジへ向かう店員の後を追うように、怜哉も足を動かした。
この時、彼が抱いた感情の正体に気づくのは、もう少し先の話。
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