第6章 学園祭と誕生日

Prologue 忘れない記憶、大切な思い出

 今でも覚えている。

 豊崎日向の記憶の中にある、誕生日の光景を。


 色とりどりの輪っかの飾り。

 ハートや星が混じったバルーン。

『HAPPY BIRSTHDAY』と書かれたガーランドフラッグ。


 リビングに入った直後、目の前でクラッカーから出た紙吹雪とテープが舞って、特有の破裂音にはびっくりした。

 テーブルには自分の顔より大きなバースデーケーキがあって、母が手によりをかけたご馳走が置かれていて。

 父が優しい顔で大きなプレゼントを持っていて、兄は首にリボンが巻かれたクマのぬいぐるみを渡してきた。


 父のプレゼントの中身は、真っ赤なランドセル。

 小学校に上がるのはまだ先だけど、準備する時期だったらしく、ちょうどいい機会だからって用意してくれた。

 兄のクマのぬいぐるみは貯金していたお小遣いをはたいて用意してくれたもので、今もそのぬいぐるみは部屋に飾ってある。


 母の料理はどれも美味しかった。

 色鮮やかなサラダ、ミートボールが入ったパスタ、エビピラフ、コーンスープ、ローストビーフ。そして、イチゴがたっぷり入ったショートケーキ。

 たくさんのご馳走に目を輝かせて、いつもより何度もおかわりしたけど、食べ過ぎてお腹が太鼓みたいに丸くなったのを家族全員が笑って見ていた。


 幸せで、楽しかった記憶。

 たとえいくつになっても色褪せない、大事な思い出。


 両親の死後、そんなパーティーはしなくなった。

 兄が電話でお祝いの言葉をくれたがプレゼントはなくも、学校の友達からくれたバースデーカードやプレゼントがあれば充分だった。


 でも……本当は、あの日みたいにパーティーを開いてほしかった。

 でも、わがまま言ってはいけない。贅沢してはいけない。

 必死に我慢した。この口から「誕生日パーティーしたい」と言わないように。


 だけど、そんな我慢は今年でおさらばする。

 だって、今の日向には、自分から言わなくてもパーティーを開いてくれる仲間達がいるのだから――。

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