第70話 忍び寄る者たち

「……ふむ、今のところ異常はないみたいだ。怪我もほぼ完治しているし、入院する必要はないだろう」

「そうか。感謝する」


 聖天学園内病院の診察室。

 この病院の院長であるリア・ナイティゲールは目の前の椅子に座るオレの容態を診終わると、咥えタバコをしたままパソコンに表示されているカルテをキーボードで記入していく。

 病院内なのに堂々とタバコを吸う彼女に特に何も言わず、胸元までたくし上げたシャツの裾を戻している。


「それにしても転入翌日に病院行きとは……王子ってそんなに恨み買う生き物なのか?」

「自国外という意味ではそうだな。だが、この怪我はオレ自らが売ったケンカのせいで負ったもも。それを買った向こうにはとやかく言うつもりはない」


 王子自らケンカを売るという話は聞いたことはないが、担任の陽から事の顛末を聞いているためそれ以上は追求せず、「そうか」と言った。


「ま、なんにせよ。あまりヤンチャなことはするな。過去にやり過ぎて学校を退学した奴や魔法を使うことができなくなった奴がいるからな。たとえ王子でも聖天学園ここでは一生徒として扱うつもりだ、その辺は覚悟しておけ」

「……肝に銘じよう」


 そのまま診断が終わり、オレは診察室を出て病院内の廊下に出る。

 病院には常勤のナースや医師が忙しなく歩き、待合スペースでは生徒だけでなく二〇代から四〇代近くの大人もいる。


 施設内には研究所もあるため、そこに勤務する研究者達が実験中に体調不良になったり、魔法実技で怪我をする生徒は治療を求めてこの病院に集まってくるのだ。

 病院に来ている患者達からチラチラと向けられる視線を無視しながら、オレは顎に指を当てながら思案する。


(やはりあれは少し大人げなかったか……。それにしても、まさかこのオレが一目惚れをした挙句に出会ってすぐプロポーズとは……我ながら驚いている)


 自分でも驚くほどの変化と行動力に、思わず苦笑が零れる。

 だが豊崎日向という少女は、ギルベルト・フォン・アルマンディンという王子を恋に夢中な一人の男に変えてしまうほどの魅力を持っているのだ。

 写真越しではない、実物の彼女を見て話して、その美しさと慈悲深さに心打たれた。


 ――そもそも、オレが彼女を知ったのは四月下旬の頃だ。

 聖天学園から学ぶはずの魔法学を帝王学の一環として導入されているイギリス王室で生まれた彼は、修練院には通わず腕すぐりの王室教師の指導の下、日々勉学に勤しんでいた。


 もちろんオレ自身も一国の王子としての責務のため、聖天学園には入学せずバッキンガム宮殿で両親とクリスティーナ、それから数十人の侍従と共にイギリスをよりよい未来へ導く予定だった。

 そんなある日、国際魔導士連盟本部から世界で唯一無魔法を使える魔導士が日本で見つかったと報告を受けた。


 無魔法はイギリスだけでなく世界各国の魔導士界一の謎として扱われ、その存在の真偽すらも怪しまれたほどの代物。

 その魔法を使える魔導士がいることに驚いたオレは、すぐさま自身の持つ権力の範囲内で件の魔導士を調べることした。


 無魔法を使える魔導士が一体どんな豪傑なのかと期待と不安を抱いていたが、呆気ないほどその情報は簡単に入手できた。

 侍従が持って来た書類には日向の名前や家族構成、これまで通っていた教育機関など一通りの個人情報が載っていた。


 兄の陽が【五星】であること以外、なんの変哲もない情報。

 だがその書類と一緒にクリップで留められていた写真を見て、一瞬で目を奪われた。

 隠し撮りされた写真に写る琥珀色の髪と瞳をした少女。写真越しなのに目を逸らすことが出来ず、そしてある欲求が生まれた。


 ――欲しい。この娘が。このオレの、隣に立つ妃として。


 一目惚れ。

 その言葉通り、オレは一目で写真越しの日向に惚れてしまった。

 自分でも何故彼女に惚れてしまったのか分からなかった。それでも、魂の底から溢れ出る激情を押さえられなかった。


 それからの行動は早かった。

 両親に日向に一目惚れし、将来的に妃にしたいと話した時、父は飲んでいた紅茶を盛大に吹き出し、母は腹を抱えて大爆笑した。


 今まで女性に対して興味を抱いていなかった息子の激変ぶりに驚いた二人だったが、オレの熱意に負けて聖天学園の転入を許可した。

 だがさすがに王室だからといってすぐに転入することは出来ず、結局二学期からの国友目的の転入という形に落ち着いた。


 転入のために学生寮を無事に過ごせるようにと家事全般をクリスティーナに叩きこまれ、王子としての責務のために国務の手伝いをする中で、日向に出会える日をずっと心待ちにしていた。

 まるで遠足が待ちきれない子供のように、胸を高鳴らせながらその日を待った。


 待って、待って、待ち続けて。ようやく目の前に触れる距離までにいる彼女を見て、数ヶ月も募らせた想いをプロポーズという形でぶちまけた。

 だが、そのせいで彼女のパートナーとの関係に悪影響を及ぼしてしまった。


(まさか黒宮の奴も日向を恋慕していたとはな……想定内だがこれはこれで歯ごたえがある)


 黒宮悠護のことは、日向について調べている時に彼女のパートナーとして情報があった。

 日本最強の魔導士集団『七色家』の一つ、黒宮家の次期当主。日向のパートナーとして隣にいる、オレにとって存在を無視できない恋敵。


 彼がこのオレが一目惚れするほどの少女に想いを抱く可能性は五分五分だったが、悠護がオレに対して向けられたあの視線は、彼がどれほど本気で日向を想っているのか分かるほどだった。


 まだ精神は幼い子供のように未熟だが、あれは打たれれば打たれるほど成長するタイプのようだ。

 現にこうして自分の身体に傷をつけるほどの力を持っているのだから、色々な面では油断はできない。


 まさか極東の島国で自身と渡り合える恋敵との出会いに、再び模擬戦で感じた高揚感が身体の中で膨れあがろうとした時だった。

 ちょうどオレが病院の自動ドアを出ると、タイミングを見計らったかのように一人の少女が現れた。


 青みのかかった黒髪を太腿まで伸ばし、こめかみあたりの髪を三つ編みにして後ろに流し、後頭部には赤いリボンがされている美少女。だが吊り上がった桃色の瞳からはドス黒い感情が紛れ込んでいる。

 思わず警戒心を露わにするギルベルトは、ガーネット色の瞳を鋭くさせながら目の前の少女を睨みつける。


「誰だ、貴様は」

「初めまして、ギルベルト王子。私は桃瀬希美、黒宮家の分家の一つ『桃瀬家』の長女です。ゆうちゃん――いえ、黒宮悠護とは幼馴染みの関係にあります」


 白い半袖ブラウスの上に黒いベストを着て、黒いタイツで足を隠す希美はスカートの裾を持ち上げて淑女のようにお辞儀をする。

 数秒ほどその態勢でいるとすぐに佇まいを直し、残暑なのに寒気が感じる薄っすらとした笑みを浮かべながら微笑む。


「ゆうちゃんと豊崎日向のことについて話にきました。少々お時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」


 丁寧な口調のはずなのに拒否を許さない台詞に、オレは不快感から眉を顰めながらも「いいだろう」と了承した。



 希美に連れられて案内されたのは、昨日日向達がいた本校舎屋上だった。

 模擬戦が終わってから、しばらく病院に何時間もいたせいで空は橙色と青のコントラストを描いている。


 今日まで午前授業であるため校舎には生徒が数えるほどしか残っておらず、残りは寮に戻ったり天川などの人が賑わう場所に赴いている。

 ここに来るまで始終無言だっだが、最初に口火を切ったのは桃瀬だった。


「――単刀直入に申し上げます。私と一緒に自分の愛しい人を手に入れませんか?」

「……本当に単刀直入だな。それはつまり、オレは日向を、貴様は黒宮を手に入れるために協力しろということか?」

「ええ、そうです。協力すれば互いに好きな相手を自分だけのモノにできる、こんなに素敵な提案はないと思いますけど?」


 まるでこのオレがこの提案を受けると信じて疑わない顔で、桃瀬は冷たい微笑を浮かべる。

 宮殿で自分の伴侶にと多くの政治家や官僚、大臣までもが我が娘を、孫をと勧めてきた。

 無論、女自らが自身を誘惑しようと、パーティーの最中で二人きりになろうとしたり、アポなしで部屋に押しかけたりといくつあげてもキリがないほど相手にしてきた。


 だが、目の前にいる女は違う。

 己の想い人を手に入れるために、このオレを利用している。たとえ王子であろうとも、目的のためならば手段を問わないその姿は腹が立つところかいっそ清々しく思えた。


 まさか一日で自分と同じ力量を持つ男と、自分を利用して己の恋を成就させようとする女に出会うという予想外の出来事に思わず笑ってしまう。

 不意に笑みを浮かべたオレを見て、提案に乗ってくれると思い嬉しそうに笑う桃瀬だったが、


「――断る」


 正反対の答えに、一瞬で冷たい顔に戻る。


「……理由をお聞きしても?」

「貴様が己の恋のためにオレを利用しようとしたことは賞賛しよう。我がイギリスでもオレにごますりをする奴はいたが、利用しようと目論んだ奴はいなかったからな。ああ、もちろん貴様の出した提案が実に魅力的なものだと思うぞ」

「なら……!」

「――だが、オレが断った理由は桃瀬希美、ひとえに貴様自身が気に入らないからだ」


 提案を断った理由を聞いた直後、桃瀬は理解不能と言わんばかりに顔を顰める。


「どういうこと?」

「貴様はオレが見てきた女の中で誰よりも一途だ。身も心も捧げると決めた相手を想い、見向きもせず、強固な愛を貫く……このオレですら感服するほどだ」


 だが、と言葉を区切りながらオレ言った。今のこやつにとって聞きたくない台詞を。


「――貴様のそれは、恋でも愛でもない。歪み、狂い、黒い嫉妬をドス黒く変色したただの独占欲だ」


 冷たく、だが確固たる確信を抱いた台詞に、桃瀬は憎い相手を見る目でギルベルトを睨んだ。

 身体の奥底から湧き上がる憤怒を抑える桃瀬だが、彼女自身の魔力は感情に連動して周囲にあるものを凍らせていく。

 冷気を出しながら柵を凍らせる氷を見つめながら、オレは話を続ける。


「一体どこでおかしくなったのか知らないが……愛というのは、想い人の周囲にある害あるものを潰し、甘い言葉を囁いて己の手中に収めるための理由にしていいモノではない。それに、オレは横恋慕などしたくない。そんなことをする人間は、たとえ手に入れてもそれだけで満足しない人種だからな」


 人間というのは、一つのきっかけで欲深くなる生き物だ。

 たとえ望むモノを手に入れても、新たに欲しいモノが出来てしまい、手に入れては欲しがるという無限ループに陥る。


 その先に待つ凄惨な結末に堕ちた者を、オレはずっと身近で見続けた。

 だかろこそ、桃瀬を一目見た瞬間気づいたのだ。


 ――この女は、誰よりも凄惨で報われない結末を送るのだと。


「今日のことは訊かなかったことにしよう。それが互いのためだからな」


 さっさと話を切り上げて屋上を去ろうとするオレの背中を見て、ギリッと桃瀬は強く歯を鳴らす。


「……あの女のどこがいいのよ」


 あの女。桃瀬が指した相手に気づいたギルベルトは、屋上のドアの前で立ち止まる。

 首だけ後ろに回すと、桃瀬が憎悪で顔を歪ませて両手を強く握りしめていた。指の先よりも伸びた爪で、己の手の平を傷つけ血を流しながら。


「あんな……誰にでもいい顔をして、私のゆうちゃんを奪った最低の女なのに。どうしてあんな女が好かれるのよ? 理解できないわ」

「オレにはお前の思考回路の方が理解できないがな。まあ、一度でもあいつの美しさと慈悲深さに触れれば分かるだろがな」


 桃瀬にとって死んでもやりたくないことを言い放つと、オレはそのまま屋上を後にする。

 ガチャン、と重い音を立てながら閉じたドアを、桃瀬は唇を皮膚が切れそうなほど噛み、嫌悪感を滲ませた顔で睨みつけたことを無視しながら。



☆★☆★☆



「いやぁー、まさかイギリスの王子様が妹ちゃんにプロポーズとは……これは面白くなってきたね」

「何が面白いや、こっちは全然おもろくないわ」


 聖天学園本校舎地下五階にあるセキュリティルーム。

 セキュリティルームの主で聖天学園のセキュリティシステムを担う年齢不詳の魔導士、周りから『管理者』と呼ばれている男の台詞に、陽は頭を抱えながら来客用の椅子に座っていた。


 シスコンと呼ばれるほど妹を溺愛する陽にとって、今回のことも頭痛の種になっている。そのことを愚痴るためだけにこの部屋に来たところ見ると、かなり重症のようだ。

 管理者的には悠護とギルベルト、そして日向の三角関係の結末は非常に興味深いが、もしそれを言ったらガチで後ろのシスコンに殺されかけないので言わない。


「あ、プロポーズで思い出した。君、最近〝姫〟とは連絡取ってるの?」


 その台詞に、陽はまるで石化したかのように動きを止めた。


 管理者の言った〝姫〟が、陽のパートナーで教師に転職した自分に変わって王星祭レクスで連続優勝を成し遂げ、そして最愛の妹にも話していないのこと以外ない。


 飛行機に乗らなければ会いに行けない距離かつ時差もあって、二人がちょうどいいタイミングで連絡を取り合うのは難しい。

 スケジュールが会わなくて、一日以上会うことさえもできない彼らの関係を知っている管理者は陽の反応を見て全て察した。


「…………豊崎くん、彼女相手に長期間放置とかすごいよね。僕なら怖くてできないよ」

「い、いやいやいや違うで。忘れ取ったわけやない。時間がなくてしなかっただけや」


 明らかに忘れているのに、頑何認めない陽。

 だが彼の顔に『忘れてた』と書いてあることも、大量の冷や汗を流していることはもちろん気づいている。


「ま、僕に実害がないからいいけど。お節介で伝えておくけど、〝姫〟がいる国はローマだよ。時差は七時間だから、今電話しても大丈夫だよ」


 直後、来客用の椅子がガタンッと音を立てた。

 後ろを振り向くとそこには陽の姿がなく、念のためセキュリティルームの監視カメラを見ると陽が空間干渉魔法を使ってどこかへ移動したところがばっちり映っている。

 神速といっても過言ではないスピードを見て、管理者は感嘆の息を漏らした。


「相変わらず妹と彼女のことになると行動が早いなー」



 陽がわざわざ空間干渉魔法を使って移動した場所は、本校舎裏。

 日陰のおかげで幾分か涼しいその場所で、陽はスマホを取り出し恋人の名前を見つけるとすぐさま電話をかける。

 プルルル、プルルル、と単調なコールは五回で切れた。


『……………もしもし』

「ひ、久しぶりやな………」

『そうね。ほんと、


 普段より低いトーンと、『久しぶり』を強調させる恋人の声に、陽は思わず気まずい顔を浮かべる。


「……ホンマに堪忍や。色々と忙しくて電話するヒマなかった」

『言いわけは無用よ。私がどれだけあなたからのラブコールを待ち続けたと思う? 今日くるんじゃないかって子供みたいに期待して、いざコール待ちしてたらいつの間にか夜が明けてた、なんてこと何回あったと思う? 八回よ? あと少しで二桁を超えるところだったわ』

「あぁぁああぁ~~……………ホンマにスマン! 許してや!!」


 まさか恋人がこれほどまでに自分を想っていたのだと再確認されると同時に、凄まじい罪悪感に襲われる。

 そもそも彼女と最後に会ったのは去年のクリスマス以来だ。そこからずっと連絡を待っていたと思うと申しわけなさがこみ上げてくる。


 陽の情けない声を聞いて幾分か溜飲が下がったのか、電話口からクスクスと笑い声が聞こえてきた。


『まあ、こうして連絡してくれたから今回はこれで許してあげる。そうそう今年はクリスマスくらいに帰国できるから、お出迎えと二人きりになれる場所をお願いね?』

「……分かっとる」


 互いに忙しいと分かっていても、長い間愛しい人と触れ合えないのは苦痛に等しい。

 二人きりの時は誰にも邪魔されず、睦言を交わせるを場所に行くのが、陽と恋人と交わした決まりなのだ。


『……ところで、そっちに今イギリスの王子がいるんですって? どんな感じなの?』

「ああ、昨日ワイの妹にプロポーズしたで」


 陽の言葉に恋人はしばし無言になったが、すぐに感心したように息を吐いた。


『へぇ、意外とやるじゃない。それで? あなたの妹は了承したの?』

「してへんわ。まあさすがに戸惑ってけど」

『それが正しい判断よ。……でも、そう。ならちょっとマズいわね……』

「どないしたん?」


 様子がおかしくなった恋人に問いかけると、彼女は返答せず無言になる。

 だがやがて『やっぱり言った方がいいか』と小さく呟いた。


『実は、あなたの電話がかかってくる前に『レベリス』の幹部と一戦交えたの』


『レベリス』。国際魔導士連盟が特一級魔導犯罪組織と認定した、最強最悪の組織。

 その組織の幹部と戦った事実に、陽は厳しい顔をしながら話を促す。


「どういうことや?」

『偶然今使っているアパートに帰る途中に、魔導士崩れの魂を獲っているところに遭遇したの。向こうは私を見るなり攻撃したから、こっちも反撃したわ。ああ怪我はないから安心して』


 怪我がないことに安堵しながらも、恋人の話を聞いて陽はやはりと思った。

 八月から突如として始まった『吸魂鬼きゅうこんき事件』。魔導士を狙ったその犯行は、恐らく彼らが関与していると想定していただけに驚きは小さかった。

 とはいっても、これは陽にとっても無視できない案件だ。


「相手はどんな感じやった」

『大鎌の魔導具を持った一二歳くらいの子供よ。実力は不明だけど、少なくともかなりのやり手ね。しかもその子、私と戦ってた時、『これから僕、日本に行かなくちゃいけないんだから邪魔しないでよ』って言って、すぐに幻で姿をくらましたわ』

「なるほどな……このタイミングで日本に来るってことは……」

『十中八九、あなたの妹か王子様のどっちか、もしくはその両方が狙いかもね』


 あまりにもバッドタイミングすぎる展開にさすがの陽も頭を抱える。

 だが相手が一人しかこないならば、何種類かの対策はできるかもしれない。


「とにかく、管理者のところ戻って対策するわ。教えてくれてありがとな」

『別に構わないわ。私にとっては『レベリス』なんてどうでもいいけど……あなたは違うでしょ?』

「……せやな」

『ならお礼なんて言わないでちょうだい。これは恋人からのお節介と思いなさい。……そろそろ切るわね。また話せる日を楽しみにしてるわ、私の愛しい王子様』

「ああ、またな」


 いつも通りお別れの言葉を交わすと、ブツッと電話が切れる。

 ツー、ツー、と無機質な音を聴きながらスマホの電源を消すと、陽は踵を返し校舎の方へ戻って行く。

 その時の陽の顔は、普段では見せないはずの敵意に満ちていた。

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