第20話 譲れないもの

 大きなものが倒れる音が森から聞こえる。バキバキッと枝が折れるけたたましい音が椿島中に木霊し、危険を察知した鳥達が一斉に翼を広げ飛び出す。

 ホテル本宮から鳴り響く異常な音に島民達が不安げな表情で見守り、島の管理を任されている役場の職員はIMFと聖天学園に急いで連絡を入れている。


 一方、森の中では今もかなりの騒ぎになっている。レクリエーション中に『獅子団』が現れ、そのまま問答無用で改造魔導具で攻撃をした時は上級生以外の生徒は騒然とした。

 だが、上級生達は冷静に対処し、怪我をした生徒を保護したり、魔法で応戦していた。渡辺もまたその場に駆けつけ、事態の収束に追われている。


 その騒ぎが『獅子団』が目的を達成させるために必要なただの陽動だと誰もが知らない中、悠護は白い死神と刃を交えていた。

 怜哉が《白鷹》を振るうたびに樹齢が五〇年も経っているはずの木は軽々と薙ぎ倒され、倒れて他の木々の枝が折れる嫌な音が鼓膜を震わす。


 たとえ目の前に超合金の壁があっても、怜哉の前ではバターみたいにサクサクと切れるだろう。

 それを証拠に《白鷹》の刃がうっすらと輝いており、頭上から落ちてきた葉が刃に触れただけで綺麗に切断される。それを見た悠護は額から汗を流しながら言った。


「お前のその刀、魔導具か……」

「正解。《白鷹》は僕の魔力の量・強さに合わせて作られた専用魔導具オーダーメイド。おかげで僕の魔法に適したコレを見つけるのに二年もかかったよ」

「……お得意の『切断アムプタティオ』か」


 強化魔法は術者の体や武器の威力を強化させる魔法だ。干渉魔法の次に極めればかなり強い魔法の部類に入り、怜哉もその魔法を極めた魔導士だ。

 彼が使う強化魔法は『切断アムプタティオ』。文字通り切断力を強くする魔法で、本来この魔法の威力はどちらかといえば普通だ。


 大体の『切断アムプタティオ』は切れ味の悪い刃物が切れやすい刃物に変わる程度の変化があるだけで、攻撃魔法としてはそこまで大したことがない。

 だが怜哉は誰もがバカだと思うくらいその魔法を極め続け、その結果がこの世全ての物・魔法さえ切断してしまう力に変えてしまったのだから笑えないにもほどがある。


「意外と努力家だよな、お前。普段は幽霊みたいなクセによ」

「そう言った君も頑張るよね。その剣、『切断アムプタティオ』と『硬化インドゥリティオ』――強化魔法を二つも付与させてるよね? さすがに魔力切れで不戦敗なんて結末、僕は嫌だよ」

「安心しろ、そんなのはねーから」


 不満げに言った怜哉に悠護は平然と答える。

 確かに《ノクティス》は《白鷹》と互角にやり合う業物だが、悠護は《ノクティス》に使。いや、する必要がない、と言った方が正解だ。


 理由は分からないが初めて《ノクティス》を作り出した際、この双剣は元から『切断アムプタティオ』と『硬化インドゥリティオ』を付与しているといわんばかりにどんな物でも切れて、どんなに衝撃を与えても壊れず、損傷らしい損傷は精々刃に傷がつく程度。

 それどころか傷ついた箇所は時間が経つと再生されてしまうという、作った本人すらもわけが分からない効果が付与されていた。


 こんな代物を無闇に使ったらどうなるか分からない、そう思った悠護はその日以来一度も《ノクティス》を作らなかった。

 単純に人の命を簡単に奪えてしまうこれを、使うのが怖かっただけかもしれない。だが怜哉の殺意を感じて『日向を守る』という気持ちが強くなった途端、この双剣を振るうことを決めていた。

 あんなに使うことを恐れていたのに、とんでもないない手の平返しだと理解している。


(けど、それ以上に日向を失うことが怖いんだ)


 初めて自分の抱える闇を打ち明け、優しく抱きしめてくれた人なんていなかった。

 真っ直ぐな目で本当の自分を見てくれる人なんていなかった。

 今までそんな風にしてくれる人は、しかいなかった。

 だからこそ、日向を喪いたくない。もし失ってしまったら、悠護は『黒宮悠護』としてはいられない。


(俺が守るんだ。絶対に、絶対に……ッ!)


 ギリッと柄を握る手に力が篭め、地面を蹴り上げる。上段から振り下ろされた《ノクティス》を《白鷹》で受け止め流す。続けて右の剣を振り下げ、左の剣を振り上げると、怜哉は《白鷹》を斜めに持ち変えて捌く。

 怜哉の体が後退すると同時に、悠護はポケットから数本のネジを取り出し宙に投げる。空中に舞うネジはメキメキッと音を立てるとすぐさま投擲剣へと姿を変える。


「行けッ!」


 刃渡り八〇センチの投擲剣は、悠護の命令と共に意思を持って怜哉に向かって襲いかかる。怜哉は投擲される剣を一本ずつ確実に捌く中、その隙をついて低姿勢になった悠護が走ってくる。

 悠護は彼の懐に潜り込んで一撃を繰り出そうとするも、『白石』の人間として常人なら過酷、けれど彼にとっては簡単な任務をこなしてきた怜哉が遅れを取るはずがなかった。


「『粛清の針葉エクスプルガテ・フォリウム』」


 中級自然魔法、殺傷ランクBの魔法名に、悠護はすぐさま頭上を見る。

 頭上から数メートル先に浮かぶ針葉はアイスブルーの魔力を纏い、そのまま悠護の上に降り注がれる。


「『加速アケレラティオ』ッ!」


 瞬時に速度強化の魔法を自身の脚にかけると、その状態のまま後ろへ跳ぶ。

加速アケレラティオ』がかかった状態の脚は通常の数倍の脚力になっているため、跳び一回だけで今いる場所から数百メートルの地点まで離れることができた。

 悠護がいた場所には針葉が地面に突き刺さっており、中には地面に転がる石が二つに割れ、枝は粉々に砕かれているのを見て、もしあのまま自分がいたらどうなっていたのか容易に想像出来てしまい背筋が凍る。


 地面を擦り減らす音を出しながら停止させると、一層強い潮の匂いが鼻に刺す。後ろを振り返るとそこにあるのは断崖絶壁、そして東京では絶対に見ることはない、透き通った広大な青い海。

 自分という存在がちっぽけなものに感じてしまう海にしばし見惚れていると、ザリッと砂を踏む音が聞こえてくる。

 振り返ると鞘に収めた《白鷹》を持つ涼しい顔の怜哉がその場に立っており、今も息切れする悠護にとっては余計に苛立ちが増す。


(あれだけ戦って息一つ乱してねぇ……。やっぱ経験の差か、クソッ)


 内心舌打ちしながらも剣を構え直そうとする悠護に、怜哉の気だるげなアイスブルーの瞳が細められた。


「……ねぇ、さっきから聞こうと思ってたんだけど」

「なんだよ」

「なんで君は、そんなに必死に彼女を守ろうとしての?」


 突然の質問に眉をひそめる悠護。だがそんなことを気にせず怜哉は日差しが強くなった太陽から逃れるようにパーカーのフードを深く被り直す。


「彼女のことは事前に調べておいた。父の豊崎暁人とよさきあきとは魔導犯罪課の職員だけど、通常業務より雑用をこなすことが多かった変人魔導士。母の豊崎晴とよさきはるは家が魔導士差別主義者で卒業と同時に絶縁して、そのままIMF直属の慈善団体で働いていた。

 そして、兄の豊崎陽は王星祭レクスの五連覇を達成した世界でも指折りの実力を持つ魔導士……。これだけ聞けば色々とすごい家族だけど、中でも豊崎日向の経歴はあまりにも異常だ」


 確かに日向は魔導士覚醒率ほぼ〇パーセントのはずの時期に魔導士として目覚め、その上今まで正体不明だった無魔法を使えることができる。

 先ほど怜哉が述べた内容からすれば日向の経歴のほうがおかしいくらい、悠護でも分かっている。


「それに厄介なのはあの無魔法だよ。今まで詳細さえも分からなかったものを扱える人間なんて世界から見れば異物と同然。もしかしたら、彼女を巡って魔導士界どころか世界中で戦争が起こる可能性だってある。父さんはそれを危惧してこの任務を出したんだ。それくらい、君も分かってるでしょ?」


 魔導士界の秩序維持を役割とする黒宮家本家も、きっと怜哉の言葉を聞けば『正しい』と即答するだろう。

 けど、それでも――。


「……確かに、あいつはこの世界にとっちゃいたら困る。それくらい分かってんだよ」

「なら――」

「けどな! それがあいつを殺していい理由にはならねぇ! たとえ世界中の人間があいつを殺そうとするなら、俺が守り抜く! 仮に世界そのものが敵になっても、俺には……いや、俺達には頼りになる心強い仲間がいる! そいつらがいる限り、俺は何度でも立ち向かってやる。それが、俺が見つけた、俺の『できること』だッ!!」


 悠護は彼女を見捨てることなどできない。『守る』と決めたのだ、数年ぶりに涙を流した日に。

 その決意と覚悟は、悠護の魂に深く刻まれている。強い覚悟を宿す真紅の瞳を見て、怜哉はその輝きに目を眩ませながらも内心では賞賛していた。


(まさかあの僕以上にこの世界に諦観していた彼がこんなに変わるなんてね……。すごいね、黒宮君。いや、すごいのはそんな彼を変えた豊崎さんかな……)


 まだ会って一日しか経っていない自分には分からないが、恐らく彼女には人を変える魔法ではない力があるのかもしれない。

 少し、ほんの少し怜哉の心に日向に対する興味が湧く。初めての感覚にむず痒くなるが、例の少女は自身の殺害対象だ。早々に興味心を切り捨てる怜哉は、ゆっくりと口を開く。


「……まあ君がそう思うのは自由だよ。だけど、それはもう無意味だ」


 瞬間、怜哉は《白鷹》の柄を握る。それを見て悠護は《ノクティス》を構える。

 怜哉は鞘から抜いた《白鷹》を横に一閃。振るった影響で一瞬風が生まれ、悠護の髪と服の裾を揺らす。

 一瞬の静寂。何も起きないことに悠護が眉をひそめると、怜哉は《白鷹》をゆっくりと鞘に納めていく。


「君は、ここで僕に負けるんだから」


 チン、と涼しげな音と共に《白鷹》が鞘に納まったと同時に、悠護の足元の地面が一瞬にしてサイコロのように細切れにされて崩れる。

 反応が遅れてすぐさま魔法をかけようとする悠護だったが、時すでに遅し。


 フードの下から覗く怜哉の目を見つめながら、悠護の体は地面だったものと一緒に海へと落ちて行く。

 ドボンッと大きくも小さくもない水音が、怜哉の耳と目に入ってきた。



☆★☆★☆



 一体どれだけ走ったのだろう。もう距離とか時間とかそういうのはどうでもいいと思ってしまうほど走った日向は、ガクガク震える足がふらつき、体ごと木にもたれかかるとぜぇーっぜぇーっと息を切らす。

 町内会マラソンの時よりも本気で走ったせいでスタミナがほとんどない。けれど日向のために戦ってくれている友達がいる。

 そんな想いに突き動かされて震える足に片方ずつ一発殴った後、日向は目の前の建物に入っていく。


 目の前にある凸型の建物は、何処かの学校の校舎に見えなくもなく、壁のほとんどを蔓草で覆っている。

 床に埃や土、ガラスの破片が散らばる中に入ると掲示板の案内には『椿島公民館へようこそ!』の大文字が目立つポスターが中央に貼られていて、その周りには様々な行事やお知らせの紙が錆びた画鋲で止められている。

 前に合宿の下準備として地図を見た時、今の市街地より遠く離れた場所にあることが気になっていた日向に悠護が教えてくれた。


 この公民館は、事件当初避難所の本部としての役割と持っていて、連日生活用品や非常食などプレハブ住宅で暮らす避難民にとって必要なライフラインの提供場所にもなっていた。

 事件後は避難民の半数近くがこの島に残り、そのまま公民館として利用していくも年々増え始める島民が少しでも多くの交流を持つようにと、フェリーが停泊しやすい港を設立した際に今の市街地に近い新しい公民館を造ったということだ。


 そして今まで使っていた公民館は閉館してしまい、今では誰もその場所へ近づかなくなった。だけど、部屋の残った玩具や本、折り畳まれた毛布や布団、そして当時の新聞や雑誌を見て、ここもかつては多くの人が肩を寄せ合って生きていたことを教えてくれる。

 思わず額縁と一緒に壁にかけている当時の写真を見る日向の耳にギシッと床が軋む音が聞こえてきた。


「――廃墟巡りとは、随分と余裕だな」


 日向を追ってきた男―――堂島が床に散らばるものを気にせず編み上げブーツで踏み潰しながらこっちに向かって歩くも、あと二メートルというところで立ち止まった。


「別に余裕じゃないよ。あなたのおかげで足ガタガタだもん」

「そりゃ悪かった。だが最初から俺に捕まるって選択してりゃそうならなかったんじゃないのか?」

「そんな選択肢、あたしが選ぶと思う?」

「いいや、思わねぇ。だからこそこうなってんだからな」


 しばしの静寂。所々ヒビ割れた窓の外から鳥の囀りが聞こえてくる。

 互いの顔を無言で見つめ合う中、静寂を破るように口を開いたのは日向だ。


「――一つ、聞いてもいい?」

「なんだ?」

「仮にあたしを捕まえたとして、あなた達はどうするつもりなの?」


 口から出たのは、ただ純粋な好奇心で訊いた質問。それを聞いた堂島は一瞬だけポカンとするがすぐに口角を吊り上げながら言った。


「そりゃあお前、決まってんだろ。最初はIMFのエリート共の魔法を無効化させて、俺達がそいつらを完膚なきまで叩きのめす。最終的には俺達みたいな奴らを集めて、今まで散々苦しめてきた魔導士全員を奴隷にすんだよ。

 もし逆らう奴がいれば、お前の力でただの人間に成り下がらせる。魔導士にとっちゃ人間に成り下がることが最大の屈辱だ、たとえどんなに泣き喚こうが絶対に聞かねぇ。今までの苦しみを、全部倍にして返してやるんだ……!」


 語るごとに愉悦と憎悪で歪んでいく堂島の顔。だけど、ギラギラと獰猛に光るダークブラウンの瞳の奥には深い悲しみと微かな疑惑が宿っていることに気づいた。

 きっと堂島は日向では想像できないほどの悲しみを抱えながらも、自分が語った未来が確かなものなのか疑っている。未来という不確定要素は、必ず自分が望むものを与えてくれるわけがない。

 それを証拠に、日向は自分が望む未来を与えてくれなかった。だからこそ、ここで目を覚ますべきだと思った。


「――やめた方がいい」

「は?」

「そんなことは、今のうちにやめた方がいい」


 静かに告げる日向の言葉に、堂島は理解できないと言った顔をする。

 まあいきなりそんなこと言われたら誰だってそんな顔するか。


「……テメェ、何ふざけたこと言ってやがる」

「ふざけてない。あなたが言った未来は、実現できるか分からない不確かなもの。そんなものに縋るくらいなら、さっさと自首して罪を償った方が一番楽だよ」

「っ、知ったような口を聞くな!!」


 淡々と言った日向に堂島は怒りで目を血走らながら叫んだ。


「俺達の痛みも苦しみも知らねぇ小娘風情がいっちょ前にいいやがって! そんなこと出来りゃ苦労なんかしねーよ!

 けどな、眠る度に夢で見るんだよっ。魔導士達が俺達を嘲笑う声を、絶縁を言い渡された時のクソな親の顔を、試験に落ちただけで殴られ蹴られた痛みを、いつまでもいつまでもいつまでも夢の中でッ!

 お前にそれが分かるか!? ずっと傷だらけで生きてきた俺達のことを一つでも理解出来んのかッ!?」


 喉が潰れそうな声で叫ぶ堂島がレザージャケットの下の白いTシャツの裾を持ち上げ、服の下に隠してあった腹を見せる。

 腹筋が割れた逞しい腹には打撲や火傷の跡、痣が残るほどの切り傷や縫合跡が多く残されている。


 日向にはない傷の数々を見て、彼の傷が誰よりも深いものなのだと思い知らされる。その痛みを想像して微かに目を半分伏せる。だけど堂島から目を逸らさず、自分の正直な気持ちを伝える。

 今の日向には、それしかできない。だからこそ、今より傷つく前に解決したい。


「……確かに、あたしにはあなた達のことを理解できないかもしれない。けど、たとえその未来が来たとしても、あなた達の体と心につけられた傷は癒えない。むしろ今よりもっと増えると思う」

「なんだと……?」

「考えても見てよ。たとえそうなったとしても、他の魔導士が素直に従うと思う? たとえ人間に成り下がってでも、あなた達の言う通りに従って生きることが死ぬことより嫌だって思う人はいる」

「そ、れは……」

「それに、もしこのせいで前より魔導士崩れ達が差別されたらどうするの? その責任を、あなたは取れるの?」

「……っ」


 徐々に日向の真意が伝わったのか、堂島の愉悦と憎悪に歪んでいた顔が困惑と恐怖が混じった顔に変わる。

 責任というのは自分が思っているより重いものだ。一度のミスだけで自身の大切なものを失い、最悪全てを無くしてしまう。

 彼の望む未来では、そんな責任がどんなものよりも重くのしかかり、選択次第で今以上に仲間を喪い傷つく。


 そうなる前にやめさせた方が彼のためだ。唇を噛みながら両手の拳を震わせながら握る堂島は、フーッフーッと荒く細い息を何度も吐く。

 だがチャリ、彼の胸元で鎖が音を鳴らす。獅子が刻まれているシルバーのドッグタグ。それが堂島の視界に入った瞬間、彼の息は少しずつ落ち着きを取り戻していく。

 そのままトップを右手で握りしめながら、堂島は少しだけ乾いてしまった唇を開いた。


「…………ああ、そうだよ。お前の言う通り、俺が望む未来が来る保証なんてねぇ。だが、ここで諦めちまったら、今まで俺を信じて死んで行った仲間達に………いや、誰よりも俺を信じてくれた一番の親友に顔向けできねぇ」


 トップが変形してしまわないか心配するほどの握力で握りしめる堂島。だがすぐに彼は日向に鋭い双眸を向けていた。

 その瞳に宿るのは強い覚悟、ただそれだけ。それを見ただけで分かってしまった。


 ――彼はどのみち、棘が多い茨道を進むのだと。


「たとえどんな未来になろうとも、可能性がある限り俺はお前を手に入れる。たとえどんなに痛めつけても、色んな奴から極悪非道だと言われようがこれだけは譲らねぇよ」


 目が眩んでしまうほどの輝きに、日向は目を細める。直視することさえ難しいその輝きは胸を締めつけてしまうほどで、それがあまりにも綺麗でとても切なくなる。


(だめだった)


 できることなら、傷つくことなく問題を解決したかった。だがここで戦わなければ、日向はみんなの――悠護のそばにいられなくなる。

 それだけは絶対に阻止したい。ならば、日向にできることはただ一つ。


(堂島と戦う。それだけだ)


 覚悟を決めた瞬間の日向達の行動は早かった。日向がホルスターから《アウローラ》を取り出すと、堂島は大振りの赤い石が埋め込まれたゴツいデザインの金色の指輪を右手の中指に嵌める。

 ただの指輪だと見えるが、あれは彼の専用魔導具だと直感で理解する。

 日向が《アウローラ》を持ちながら、堂島は指輪を嵌めた手を握りしめながら告げる。


「――我は無魔法の使い手、豊崎日向」

「――我は『獅子団』ボス、堂島猛」


 互いに名を告げ、対峙する者の姿を目に焼きつける。


「あたしは、自分の未来のためにあなたを倒す」

「俺は、組織の悲願を叶えるためにお前を手に入れる」


 互いに譲れないものを告げると、堂島は姿勢を低くする。


「俺は……絶対に負けねぇ。今まで死んで行った仲間のために、あの世にいる大事な親友のために、絶対に負けられねぇッ!!」


 咆哮のような叫びと共に、堂島は日向に向かって駆け出す。

 互いに譲れないものを守るための戦いが、今始まった。

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