第3話 心ときめく異世界転移!?
怪しげな風体の占い屋へと足を進める2人の男女。
若者の到来を水晶玉から覗いて嗜虐的な笑みを浮かべるパジャマを着た老婆。
⭐︎
「どうもぉ! お邪魔しまーす!」
中へと元気よく声を掛ける、ちっこい幼馴染のリス。
中に入ると怪しげな水晶玉と用意されたと思われる二つの椅子。
そして、後ろでゴソゴソしている人影。
俺とリスはとりあえず用意された椅子に座ることにした。
「ねぇ! ガズヤぁ! めちゃくちゃ胡散臭いけどなんだか雰囲気だけはあるわね!」
そんな辛辣なリスの言葉に布越しでゴソゴソしている人物も呆気にとられて、漫画みたいに転けてしまった様子。
まぁ、その姿は実際に見えてはいないのだが……
俺には何故だかわかった……
と、そんなところに突如現れた1人の老婆。
突如と表現したのは俺のささやかな優しさだったりするのだが……
まぁね。この人も仕方なく商売でやっているわけで、真実であってもあれだけ辛辣な言葉を掛けられたら、傷ついてしまうだろうし、ここは演出として。
老婆は魔女らしきマントに杖。そして、とんがり帽子を被って現れた。
と、なると
「あははははははは! だっさぁー! なにそれぇぇぇ!」
と、またも空気の読めず、老婆に辛辣な言葉を喚くリス。
この幼馴染のしたことは敬老の日でなくとも全日本から罵声が飛んでくるであろうものだった。
確かにさっき急いで着替えたと思われるくらいに衣装が整っていなくたっても、この人も商売で必死にやっているわけであって、そこまで言うのはよくないだろう……
俺はいちよ、リスに対してゲンコツを一回だけ加えておく。
胡散臭くてダサいのは共感できるので当初予定した3回から胡散臭さとダサさの2回分を引いて一回というわけだ。
いきなり殴られて涙目になるリス。
そして、リスに盛大に笑われたお婆さんは顔を真っ赤にさせていて。
もう、演出をやめてしまったのか、子供みたいに地団駄を踏んで怒ってしまった。
なんだよ、この婆さん。案外元気だな……
と、そんな感じで膠着状態になって、埒があかなくなったので、おれは本題を切り出すことにする。
「あの〜お婆ちゃん。スーパーでこんなものをもらったんですけど、これなんですか?」
俺は幼馴染のリスが持っていた紙を奪い取り、それを魔女のコスプレをしたおばあちゃんに差し出す。
と、突如高笑いをするお婆ちゃん。
このお婆ちゃん大丈夫なのだろうか……
街を徘徊して奇声を上げる認知症だったりするのだろうか……
だとしたら早く家族に報告しないと……
「ハッハッハッハッハ! お主らカップルは運が良いなぁ〜!」
変な事を言い出すお婆ちゃん。
とりあえずおれは
「はは〜」と、苦笑いを一つっと。
俺はいちよ気を遣って行動したというにも関わらず、あのチビリスが、
「何イィ! このお婆ちゃん。さっきから大丈夫ぅぅ!?」
もう、救いようのないリスはおいといて……
だが、そんなリスの言葉にももう慣れてしまったのか、慌てふためくことはなく、お婆ちゃんは仕事の演出に精を出そうとする。
「異世界ファンタジーはお好きですか?」
だが、言われたことは商売の占いなんかな話ではなく、突然のライトノベルの好みのお話?
異世界ファンタジーと言われてもハテナ顔のリスに対して、謎の質問に呆気に取られる俺。
そして、返答しない俺らに対して、またも同じことを言い出す老婆。
「異世界ファンタジーはお好きですか?」
これは答えないと無限ループに思われた俺はとりあえず正直に答えておく。
「はい。お好きですが。なにか!?」
「ほぉぉ! それはよいな! よいぞ! ならお主らたちを異世界へと招き入れようではないかぁ!」
と突然言われたことに対し、俺とリスは。
・・・・・・・・・・
まぁ、こうなるのは当然だろう……
この婆さんが狂っているのであって、俺とリスは一般的で正常な反応であった。
でも、このような演出は俺の好みでもあったりするわけで、とりあえず乗ってみることにする。
「それはありがたいですねえ! ちなみにそれはどんな世界なのですか?」
まぁ、これはライトノベルにしても、大事なことである。
その世界の世界観が作品にもろに影響するわけで、戦乱の時代なのかそれとも日本よりもさらに文明が進んだ世界へと行くのかそれが面白さの鍵だったりするのだ、
だからこういう演出には世界観の構築が必須なわけで。
「あぁ。もちろん、剣と魔法に魔物が闊歩するこの世界の中世くらいの文明のファンタジー世界じゃ!」
「おぉー! なんと王道! 素晴らしき!」
この老婆が演出とはいえどここまで設定を構築してるとは素直に感心できる。
そんな俺と老婆の会話に置いてけぼりにされるリス。
「ねぇ。カズヤぁ。異世界ファンタジーって何?」
まあ、そうだろう……
普通のJKが俺みたいに消費豚になることなく過ごしていたとすれば、異世界ファンタジーを知らないのも当然のことだろう。
「まぁ、簡単に言えばゲームの中みたいな世界でこの世界とは別の世界みたいなもんだ」
「何それ……そんなのあるはずないじなん!」
リスの言うことはごもっともであって、なんの反論の余地もございません。
「いやぁ! そういうな! 本当にお前たちを異世界へと飛ばしてやる! それがこの恋人限定特別招待券じゃ!」
まぁ、あくまでもまだ老婆は演出をやめないみたいで、
俺はこそこそ話でリスに話しかける。
「リス……ここはあれだし恋人のフリをしてとりあえずこの婆さんに乗ってあげることにしないか?」
「いやだよ! なんでわたしとカズヤが恋人なのよ! 単なる幼馴染でしょ?」
「だからなぁ。フリだよ……いいだろ? このまま無下に婆さんをあしらっても可哀想だろ?」
「まぁ、それもそうだけど……わかったわ! じゃあ、後でなんか買ってよね!」
「わかったよ……」
俺は渋々リスの要求を飲むことにした。
「あはは。お婆ちゃん。僕たちは見ての通り恋人なので。どうか異世界へと連れて行ってもらえますか?」
俺とリスは腕を組んで寄り添って恋人のフリをする。
「よし! わかった! じゃあ早速異世界へと送ろう!」
最後まで演技をやめないプロ精神には俺も脱帽するばかり。
だが、この老婆が杖をトントンと地面についた時、俺とリスは口をぱかーと馬鹿みたいに開けていた。
だって、そうだろ? 本当に老婆の言った通り違う世界に来てしまったのだから……
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