月曜日

 月曜日。わたしはいつものように学校へ行き、六時間座って授業を受けた。


 お母さんから「金曜日に荷物を持ってきてもらったお礼、ちゃんと伝えなさいよ」って言われていたけど、永遠は朝っぱらから先生に呼ばれて、それきり戻ってこなかった。

 だから言えなかった。言うつもりもなかったけど。


 放課後になるとわたしは急いで教室を出た。

 今日は月曜日。なっちゃんがわたしの家に来る日だ。



 机の上にノートを広げ、シャーペンをくるんといっかい回す。

 横目でちらりと見るのは、新しく買ったジグソーパズル。この前のよりピースが多くて難易度が高い。

 勉強が終わったあと、なっちゃんとこれをやるのがわたしの楽しみなんだ。


 わたしはスマホを手にとって、茜にメッセージを送る。


『なっちゃん、まだ来ないんだけど』


 既読の文字が現れて、すぐに返事がきた。


『なっちゃんが遅刻? めずらしいね』


 こんなことはいままでなかった。

 中一の冬、なっちゃんが風邪をひいて一度だけアルバイトを休んだことがあったけど、ちゃんと早めに連絡があった。


『もー、なにやってるんだろう』

『連絡してみれば? あ、でもバイク運転中だったら出れないか』

『そーだね』


 スマホを置いて、すっかり暗くなった窓の外を見る。

 なっちゃんのバイクの音は、まだ聞こえない。



「お母さん、なっちゃんまだ来ないんだけど」


 階段を降りて、台所に立つお母さんの背中に言った。


「なっちゃんじゃないでしょ? 夏留先生って呼びなさいって言ってるじゃない」


 お母さんはそう言ってから、壁に掛かった時計に目をやる。


「あら、ほんと。もうこんな時間」

「今日、来ないのかな。サボりかな」

「先生がそんなことするわけないでしょ?」


 なっちゃんはお母さんに信用されている。大学生だし、頭いいし、遅刻したことないし、誰にでも愛想よくにこにこしているひとだから。


「あんたケータイに連絡してみてよ」

「うん……」


 わたしは手の中のスマホをじっと見下ろす。


「事故にでも遭ってなければいいけど」


 お母さんが軽い口調でそう言って、味噌汁の味見をする。


「うーん、ちょっとしょっぱかったか」


 その声を聞きながら、画面に指をすべらせた。


『なっちゃん、遅い。なにやってんの?』


 送信。


「ねぇ蝶子、ちょっとおばあちゃんの様子見てきてよ。起きてたらご飯食べさせちゃうから」

「えー、お母さんが行ってよ」


 わたしは背中を向けて台所を出る。


「ちょっと、蝶子! いつまでおばあちゃんのこと、避けてんの!」


 そんなこと言われたって。いまさらどんな顔しておばあちゃんに会えばいいのか、わかんない。

 階段をのぼりながら、スマホの画面を見つめる。


『なっちゃん、遅い。なにやってんの?』


 わたしの文字に既読はつかない。

 そしてどれだけ待っても、なっちゃんからの返事はこなかった。

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