291ページ目…聖剣の鍛冶師【7】
暫くして…クズハは落ち着いたのかキッチンから出てくる。
未だに少し顔が赤いがコレばっかりは仕方がない。
まぁ、何はともあれ朝食の開始だ!
「「「いただきます!」」」
みんなの声がリビングに響き渡る。
それを皮切りに、アルテイシアさんの食欲が爆発する。
次々と食事が彼女の胃袋へと
とは言え、食べ滓かすがあちこちに飛び散る訳でない。
彼女の食べた後は、綺麗だ…としか言えない。
僕が慎重に食べた所で、ここまで綺麗に食べる事は出来ないであろう。
「ア、アルテイシアさんは本当に美味しそうに食べますね。」
「そうかな~?でも…いつもなら、こんな美味しい料理食べる事なんて無いよ?
私も少しは料理出来るけど、こんなに美味しく作れた事無いもん。」
「あ~…確かに、クズハの作るご飯は美味しいね。
そこらの料理が美味しいって評判の店よりも美味しいと思うし。」
「そう、そうなのよ~!だから、つい食べ過ぎちゃって♪」
そう言って、アルテイシアさんは空になった皿を端に退け、新しい皿に手を出す。
食べ過ぎちゃうって、自覚してるのにまだ食べるのか…。
「あ、ありがとうございます。
で、ですが…アルテイシアさん…あまり食べ過ぎちゃうと太りますよ?」
『ビシッ!!』
そんな音が聞こえた気がする。
僕の目の前で、ブラックホールみたくアルテイシアさんの胃袋に消滅きえていた料理が、その動きを止める。
「ふ、太らないもん…私、その分、働くもん…。」
涙目で反論するも、その説得力は皆無…その証拠に影を縫い付けられたかの様に、アルテイシアさんの手は止まっている。
やはりドワーフと言えど、女性…体形を気にするのだろうか?
周囲にいるドワーフの女性はふくよかだ…アルテイシアさんがその体形になりたくないと思っているのなら、今のプロポーションを維持するのは、並大抵の努力じゃないのでは済まないのでは無いだろうか?
「まぁまぁ…アルテイシアさんは十分痩せていますよ。
もう少しお肉が付いたとしても、十分、可愛いと思いますよ?」
「そ、そうかな?…本当にそう思う?」
「えぇ…それに、先程、アルテイシアさんが言った様に、食べた分の仕事をするんですよね?」
「うん…鍛冶は体力勝負だから…。」
それは僕もそう思う…大きな鎚や小さな鎚を力一杯振るうだけじゃない。
火を使う作業でもある…火傷も日常茶飯事だ。
当然、汗も凄く出るだろう。
そんな過酷な仕事を、いくらドワーフとは言え女性であるアルテイシアさんが一人で全部の工程をしているのだ。
その仕事量は、何も知らない僕の想像を遙かに超えているのだろう。
「だったら、しっかり食べて体力付けないと…ね?」
「うん!」
僕の一言を切っ掛けに、アルテイシアさんの手が動き出す。
ただ…時折、チラチラとアルテイシアが頬を赤く染め、こちらを見るのが気になる。
まぁ、女性に対して太るだの太らないだの話したのだから恥ずかしいのだろう…気が付かないフリでもしておくか…。
それにしても、同じ理由なら他のドワーフの女性陣がふくよかなのは何でなんだろう?と、疑問に思いながら朝食を済ませるのだった…。
◇◆◇◆◇◆◇
「そう言えば…アルテイシアさんに見て貰いたい物があるんですが…。」
「はい?見て貰いたい物…何ですか?」
食事を終え、アルテイシアさんが仕事を再開しようとしたので、僕は
それは、昨日、寝る時に思い出した物だ。
「実は…とあるクズ貴族が持っていた剣なんですけど…。
そのクズ貴族曰く、ドワーフが鍛えた剣…だそうです。
で、その貴族がこの剣を折った損害賠償の為に、ドワーフが作った聖剣を寄越せと言ったんです…。」
「それが、今、私が作っている聖剣…と言う訳ですね?」
「えぇ…ですが、アルテイシアさんが一生懸命鍛えている聖剣を、あんなクズ貴族に渡す…と言うのが、我慢出来なくてですね…。」
「すいません、その折れた剣、見せて貰って良いですか?」
「えぇ、もちろんです…って言うか、僕が見て欲しいと言ったんですけど…。」
僕は苦笑しながら、クズ貴族から預かった『折れたドワーフ製の剣』をアルテイシアさんに渡す。
「こ、これはッ!?」
アルテイシアさんが驚きの声を上げる。
「ど、どうしました?」
「はい…真っ赤な偽物です。」
「そうなんですか?」
そう…僕が見た所、装飾用の剣と言うのは分かったが、誰が作ったか分からないばかりか、ゴテゴテの装飾をあしらっただけのゴミみたいな剣だったのだ。
そんな剣を武器と使えば、相手がそこそこ強くまともな武器を使っていたのなら、何度か斬りあえば折れるのは当たり前である。
とは言え、相手がドワーフが作ったと言うのであれば、きちんと確認する必要がある訳で…。
「ひ、酷いです…こんなナマクラをドワーフ製の剣と言うなんて…信じられない程の侮辱です!
ドワーフが命懸けで打った剣と比べる事自体間違っていますが、こんな剣であれば子供がお遊びで打った剣でも、もっと良い物が出来ますよ?
それを折ったからと言って、ドワーフが作った聖剣をですって?バカを言うのも大概にしろ!です。」
それは、僕も思っていた…だからこそ、アルテイシアさんに見せたのだが…。
「それでですね…この偽物の剣を、アルテイシアさんが新たに鍛えて貰えませんか?
な~に、元々がドワーフ製の剣ではないのだから、本物のドワーフ製の剣になったんだから損害賠償には十分でしょ。
それに…この剣がドワーフ製でないのなら、ますますアルテイシアさんが打った聖剣を、クズ貴族に渡すのが惜しくなりました。
これから、魔族と戦う事も多くなると思うんで、自分で使いたいですし…ね。」
「…だ、だったら!私がこのナマクラを打ち直します!
そ、それで…その…私の作った聖剣は…貴方が…って使ってくれたら、その嬉しいです…ボソボソ…。」
それだけ言うと、アルテイシアさんは俯いてしまう。
最後の方が良く聞き取れなかったが、聖剣は僕が使って欲しいと言うのは聞こえた。
ただ、クズ貴族に渡すのを考えれば、是が非でもないお願いだ…なので…。
「えぇ、喜んで使わせて貰います。」
「ほ、本当ですかッ!?だ、だったら全身全霊を込めて作らせて貰います。
あ!あと、このナマクラ…すぐに作り直しちゃいますね?」
そう言うと、アルテイシアさんは工房へと向かう。
いや、全身全霊って…あと、研ぎの作業だけでしたよね?
だが、アルテイシアさんは、そんな疑問を他所に、急ピッチで折れた剣を打ち直していく。
「トン、チン、カン!トン、チン、カン!」
適当に打ってるのでは?と思うほどのスピードで鎚を振るう音が聞こえてくる。
そして…その音は5分ほど続いく事となる。
「お待たせしました。」
音が止んだかと思うと、アルテイシアさんが部屋から出てくる。
「かなり手抜きで作りましたが、先程渡された剣の刃の部分を私が作った剣と交換しました。
まぁ、手抜きと言っても、そこそこ気合い入れて作ってますので、そこらの剣に比べたらかなり強いはずですよ?」
僕はアルテイシアさんから貴族の剣を受け取り見てみる。
「うわ…性能が段違いだ…。」
僕が見た結果…剣にはドワーフ製の文字が付いてある。
また、攻撃力も+50と言う攻撃補正まで付いているだけじゃなく、攻撃速度増加の効果まで付いている。
こんな物を手抜きで…しかも5分ほどで作ったと言うのから驚きだ。
「あの…それでですね…ちょっとお願いがあるんだけど…。」
「どうしました?」
「た、確か、オリハルコン…持ってたわよね?
それを少し分けて欲しい…聖剣に使いたいんだけど、ダメかな?」
「オリハルコンですか?まぁ、少しくらいなら構いませんが…。」
素人考えでアレだが、聖剣を作るのにオリハルコンを追加で使うなら、更に性能が良くなるはずだ。
「良かった♪なら、少し貰うわね。
その代わり、貴方の聖剣、期待して良いわよ♪」
アルテイシアさんは、僕から必要なだけのオリハルコンを受け取ると再び工房に向かう。
去り際に、ウインクして行ったのはなんでなんだろう?
暫くすると、『カンッ!カンッ!』と鎚を振るう音が聞こえてくる。
「あ、あの…昨日、アルテイシアさん、後は研ぐだけって言ってなかったですか?」
キッチンから洗い物を終えたクズハが出てきて僕に聞いてくる。
「そうなんだけど…何か、オリハルコンをくれって言うから渡したら、何故かまた鍛えてるみたいだね…。」
その後、お昼の時間になってもアルテイシアさんは工房から出て来る事は無かったのだった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます