231ページ目…認めないッ!!

 「さぁ…今こそ、魔王様の復活の時!絶望の始まりだッ!!」


 魔族はそう叫ぶと同時にプリンの身体に突き刺さっている剣を振り上げ、プリンの核を完全に破壊する。

 スライムであるプリンの核を破壊する…これが意味する所…即ち、プリンの『死』である。

 そして、その事が正しいと証明する様にプリンの身体は黒い霧となり消滅え始めている。


「ふ、ふざッ、こ、こんなの認ッ…。」


 信じられない思いからか、はたまた怒りの所為なのか、思う様に言葉が出ない…否、僕自身、言葉を喋っているのかも分かっていない。

 それどころか、僕には息をしているのかすらも分からない程、混乱している。

 僕の目に映る景色から色が失われる。


 だが、そんな事は、今の僕にはで…僕の前からプリンがいなくなる。


 そんな事は、絶対に認められない。


【あぁ、そうだ…そんな事は絶対に認めてはいけないな…。】

〔プリンが僕をおいていなくなる?そんなのありえない…。〕

【そうだ、長い時を経てやっと見付けたのだから…。】

〔そんな事あって堪るかッ!〕

【あぁ、そうだ…許される物か!】


 いつの間にか、僕の中からあり得ない程の力が湧き出ている。

 それは…まるでプリンと〖魔王化〗した時の様に…だが、そんな重大な事ですら、今の僕には些細な事で関係ない話だった。


〔プリンを助けるにはどうすれば…そもそも助ける事が出来るのか?〕

【否、助ける事が出来るか…ではなく、助けるのだ。】

〔だが、どうやって…。〕

【分からぬ…だが、必ず方法があるはずだ…。】


 ゆっくりと動く時の中、僕は自問自答を繰り返す。

 だが、果たして、コレは本当に自問自答なのだろうか?

 そもそも、浮かんでくる疑問に対して、答えているのは本当に僕なのか?

 いや…そんな事は、もはやどうでも良い…それよりもプリンの方が大事だ…。

 こうしてる間にも、プリンは、刻一刻と消滅え様としているのだ…。


 まるで時が止まったかと思うほどの刹那の時間で行われるプリンを助ける為の自問自答。

 そして、それは残酷なまでに悲しい答えを弾き出す。


 そう、『死んだ者』は生き返る事が出来ない…それこそ、神様であろうとも…だ。

 だが、それは『死んだ者』であって『死にゆく者』ではない…なら、まだ何とかなるはずだ。


〔クソッ!もし、僕が神様ならプリンを生き返らせる事が出来るかもしれないのに…。〕


 物語などで、神様が転生させたりするのは、よくある話だ。

 だから神様であれば、プリンを助ける事だって可能なはず…。


【否、例え神であろうとも死んだ者は生き返らせる事は出来ない。】

〔何故、生き返らせる事が出来ないんだ?

 神ならそれくらい造作もない事なのではないのか?〕

【分からん…だが、それこそが世界の決まり事ルールなのだ。】

〔はぁ?世界のルールだと?巫山戯ふざけんな!

 そもそも、神様がこの世界を作ったんだろうがッ!〕

【そうとも言う…だが、今世の神はこの世界を見守るのが仕事だ。

 この世界が滅ぶならまだしも基本的に、この世界に干渉する事など出来ないのだ…。】

〔それこそ、巫山戯んなだ!世界が滅ぶ時は干渉出来るのに、世界が滅ばない時には干渉が出来ないなんてあり得ないだろうがッ!!〕

【我もそう思う…故に、我は無理矢理干渉をしようとしたのだ…。】

〔それでも、死んだ者を復活させる方法がないって事は、干渉しなかった言い訳にはならないんじゃないか?〕

【あぁ…否定はせぬ…他の神に邪魔されたと言え、現に我に干渉するだけの力がなかったのだから…。】


 僕はいったい誰と話しているのだろう?

 プリンがいなくなる…その事を否定したいが為、現実逃避をしているのだろうか?


〔なら…もう、プリンは助からないのか?〕

【我には分からん…新たな神が生まれ、その神に力があれば…だが、そんな事はまずあり得ない…。】

〔それも、世界のルールだから?〕

【あぁ…世界のルールだからだ…。】


 何が、世界のルールだ…巫山戯るな!そんなルールのある世界の方が間違ってるんだ。


〔そんなの認めるかッ!プリンがいない世界なんて、僕は絶対に認めて堪るかッ!〕

【あぁ、我も認めぬ…やっと…何百年も探して見付けた***を、二度も失うなど…そんな世界など、認めてなる物かッ!】


 あぁ、そうだ…絶対に…この世界は間違っている…。

 既に僕の目には何も映っていない…そう、命よりも大事なプリンでさえ…。

 全てはこんなルールに縛られている世界が憎い…その思考だけが頭を巡る。


 そして、重なる思考と魂の叫び…たった一つの願い…愛する者を助け、失わない為に…。


「僕は【我は】…この世界を【認めない】ッ!!」


『カチリッ!』


 気の所為かもしれない…それでも、今まで足りなかった何かが埋まった様な音が、僕の耳に聞こえた様な気がしたのだった…。

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