229ページ目…魔族との戦い【5】

 プリンと本当の意味で一心同体になった感覚。

 もう、何も怖くない…何も畏れる事はない。

 ならば、後は解き放つのみ!

 そう感じた僕は、呪文を口にする。


「四方(死方)より交わりて六つ出でよ、魂喰らいソウル・イーター…我が手に宿りて力となれッ!」


 すると、目の前の空間が歪み、六匹の禍々しい蛇の様な魚みたいなのが現れる。

 そして、六芒星を描いたかと思うと、そのまま俺の右手に集まってきた。

 否、集まるだけではなく右手の中に収まったと言った方が正解か…。


 だけど、俺の行動ターンはこのままじゃ終わらない。


 次に使うのは〖スキル:魂強奪ソウル・ドレイン〗…魂を奪うスキルである。

 魂喰いソウル・イーターの召喚に続き、更に魂を奪うスキルの上乗せ…だけど、まだ終わらない俺のターン!

 ありえない物に、ありえない事をする…それだけでも十分だけどまだ何か足りない。

 そう、魔神剣みたいに…ん?何で、魔神剣みたいに?

 あぁ、魔神剣みたいに斬り付けてって考えていたんだったな…。

 ならば、いっその事、魔神剣みたいにしてしまえば良いのか…。


 と、何処か他人事の様に、冷めた自分がいた。


 僅か一瞬の間に、幾多の無理、無茶、無謀がなされていく。

 そして完成する新たな魔神剣…刮目せよ、この力ッ!


「魔神剣・魂の破壊者ソウル・ブレイカーッ!!」


 発動と同時に現れる一振りの剣…但し、今までの魔神剣と違い、あまりにも禍々しく、この世界にあってはならない事を実感する剣…。

 誰だよ、こんな剣を作ったのはッ!…って、俺か…。


 作り出した事すら後悔するほどの禍々しくも、凄まじい力を秘めた剣が俺の右手に顕れる。


 そして、それを短時間でも維持する事すら不可能な事を思われる程、がんがん消費されていく俺のHPとMPとSP…まさに、己の命を削って作り出しているが如く、命の危険さえ感じる。

 このままだと1分と待たずして自滅するのは間違いない…ならば、その前に何としても倒す!

 俺はラドルに向けて駆け出す…幸い、まだ身体強化の魔法も加速の魔法も効いている状態である。


「く、来るな、来るな化け物ッ!!」


 今までの余裕も何のその、急に怯えるラドル…ってか、精神体である筈の魔族が怯えるって、それだけでダメージになるんじゃ…と思いつつも、更に近付いていく。

 そして…振り下ろされる魔神剣・魂の破壊者ソウル・ブレイカー


『ザシュッ!』


 袈裟斬りに切り裂かれたラドル…その体は次第に黒い霧となり霧散する。

 結局、切り裂かれた時に断末魔すら上げる事が出来ず倒されたラドル…そして、同じく霧散する魔神剣。

 うん、こんな物騒な物、長時間維持しておけるかッ!


 俺は、大きく息を吐くとプリンに声を掛ける。


「プリン、お疲れ様。」

〔はい、ご主人様もお疲れ様です。〕


 プリンはそう言うと僕から分離して、魔王化を解除する。

 次の瞬間、あり得ないほどの脱力感と喪失感…分かっていた事だけど、そうとう無理をしていたみたいだ。

 そして、喪失感か…最近じゃ殆ど感じる事がなかったんだけどな…。

 と、そこまで考えて…何か忘れている事を思い出す。

 そして、とうとう思い出す…大事な事。


「あッ!クズハはッ?!」


 そう、魔王化する際に素早く隠れる様に指示したから大丈夫だと思うが…。

 すると、少し…いや、この距離は、かなりと言うべきか?

 とにかく離れた場所から、クズハが涙目になりながら姿を見せる。


「ご、ご主人様、酷いですよ…死ぬかと思いました~。」


 クズハに言われて、辺りを見渡す…すると、そこには所狭しと無数に折れた木やクレーターがある。

 うわぁ…自然破壊が半端無い…ってか、これ弁償しろって言われたら洒落にならんぞ?

 どうも、プリンも同じ事を考えてみたいで…。


「あの…ご主人様、これって、弁償しろと言われたら、かなり問題があるのでは?」

「あ…うん、たぶん問題あると思う…。」


 いや…むしろ、森の一部を此処まで破壊しておいて問題ないって言われた方がビックリだ。


「でしたら、早く逃げちゃいませんか?」

「そ、そうだね…。」


 先程の戦闘の所為で、既にクタクタだったし…そもそも、ここに来た理由も車で移動する為なのだ。

 だったら、戦闘も終わった事だし、さっさと車を出して帰宅する事にしよう。

 ってな訳で…僕は、無限庫から車を出そうとする。


 しかし…。


「ご、ご主人様、危ないッ!」


『ドンッ!』


 少し離れた所から悲鳴の様に響くクズハの声、そして、真横からの衝撃と共に吹き飛ばされる僕の体…そして、僕の目に映る信じられない光景…。

 この瞬間、僕の目に映る物は、全ての色を失うのだった…。

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