169ページ目…目指せ、聖王都【10】
予想外のトラブルもあったが、一応、無事に馬車が完成した。
とは言え、これで聖王都に向けて出発する準備が完了た事になる。
まぁ、今回は馬車での移動と言う形にしたので車ほどの速度は出ない物の、この馬車を引くの馬は、ゴーレムなので疲れ知らず。
その為、他の馬車ならば馬の休憩も必要なのだが、その必要もない。
それ故、そのまま進む事が出来るのだから、その分の時間と距離が稼げると言う物だ。
とは言え、流石にノンストップで走り続ける何て事は出来ない。
何せ、馬はそうであっても中に乗っている僕達はそう言う訳にはいかないのだ。
当然と言えば当然の事だが、お腹も空けばトイレにも行く…その度に、馬車を止める必要が出てくるのだ。
まぁ、最悪、僕とプリンだけであれば、その必要も無いんだけど…と、付け加えておく。
「ご、ご主人様、後はあちらの荷物を積み込めば終了です。」
「うん?そっか…なら、僕が積み込むから積み忘れがないか、もう一度チェックして貰って良いかな?」
「は、はい!畏まりました。」
僕の指示に従って、クズハは樽や箱をチェックしていく。
「あ、あれ?ご主人様、そちらの箱に干し肉って入ってますか?」
「こっちの中身は…。」
『バタンッ!』
見てはいけない物を見てしまい、慌てて木箱の蓋を閉める。
「ご、ご主人様、どうしました?」
「い、いや…僕は見てない…女性の下着なんて見てないから…。」
「あ…。」
そう、僕が確認の為に開けた箱には、クズハの衣服が入っていたのだ。
そして、ピンクの水玉や赤いハートなどの入った布が…見てないと言ったら見ていない。
「と、とりあえず、この箱はクズハに渡すとして…干し肉がどうしたって?」
「は、はい!いえ、えっと…確か、こちらの中に入れていたと思った干し肉が無くなっていまして…入れ間違えたかな?…と。」
「いやいやいや、普通、干し肉を別の場所に入れる…何て事はないんじゃないかな?
強いて言えば、干し肉なんだから…ローラが、こっそり食べたとかじゃないか?」
「ま、まさか…いえ、いくらローラさんでも、これから旅に出るって言ってるのに、その食料を摘み食いするなんて事は無いですよ…たぶん。」
僕は冗談半分でローラの所為にして、その場を和ませようとする。
クズハも笑って否定したが…途中から自信が無くなり『たぶん』で締める。
すると、視界の端で、ローラが数歩下がるのが横目に見えた。
「ローラ…ちょ~っと、こっちにおいで?」
今にもダッシュで逃げ出そうとしているローラに対して、先手を打つ。
もし、これで逃げたのなら犯人確定だと言っている様な物だ。
「ローラ、干し肉知らない。」
「ローラ、僕はまだ干し肉の事は何も言ってないよ?
僕が言ったのは、『こっちにおいで』って言ったんだよ?」
まぁ、ローラの耳であれば、僕とクズハの会話が聞こえていたとしても不思議ではない。
ただ、聞く前から答えてしまっているので、ほぼ確定だろう…。
「ローラ、そっち行きたくない。」
「大丈夫だよ?『僕』は、何もしない…ローラと、ちょっとお話がしたいだけなんだから…ね?」
僕の何もしないと言う説得に応じて、ローラが近付いてくる。
ただし、ローラとは反対側…つまり、僕の背中側からも近付いてくる気配がある。
僕は、あえてその気配を無視する事にした。
それ故の、『僕』は何もしない…と言ったのだった。
そして、僕の言葉を信じたローラが近付いて来て…その背後にいた存在に捕獲されたのだった…。
「主、嘘吐き!」
ローラは僕に対して文句を言いながら暴れ様とする。
だが、僕が何か喋る前に、ローラを捕まえた犯人が答えた。
「ご主人様は嘘吐きではありません。
現に…ローラを捕まえたのは、ご主人様ではなく私なんですから。」
そうローラを捕まえたのは、ローラにバレない様に僕の後ろから、そっと近付いて来たプリンだったのだ。
とは言え、これはある意味、屁理屈なのだが、残念ながらローラには通じたらしく、大人しくなる。
「で、改めて聞くが、干し肉を食べた犯人はローラかな?」
まぁ、僕達の中で勝手に食べてしまうのはローラだけ…しかも、肉だから疑い様は無いのだが、念の為、確認する。
だが、ローラは無言で答えない。
僕は、小さく溜息をつくと、ローラの頭に手を乗せる。
そして、冷たい声で言う。
「もし、ローラが犯人ならば今すぐ謝れば怒らない…だけど、後からローラが犯人って分かった場合、しばらくオヤツ抜きにする。」
すると、ローラが即答で返事をする。
「ローラ、干し肉食べた。」
「まぁ、分かってたんだけどね?
だけど、食べたなら食べたって言うか、欲しいなら欲しいって言わなきゃダメだぞ?
じゃないと、いざ使うって時に無かったら困るだろ?
ローラだって、ローラが食べようとしてた串肉を誰かが黙って食べたら嫌だろ?」
敢えて、ローラの好きな肉を例に上げて、注意する。
「ローラの肉喰うヤツ、ローラ許さない。」
「だったら、僕達の干し肉食べたの許さないって言われたら、ローラどうする?」
まぁ、今は問題ないが、いずれ大事になる事だってあるかもしれない。
その為、今の内に、しっかりと教えておかねばならないと思う。
「ローラ悲しい。」
「だったら…ローラも、人の物を勝手に盗ったらダメって覚えないと…ね?」
「分かった、ローラ、約束する。」
「そっか…なら、話はこれで終わり…もう勝手に盗ったらダメだからね?」
「うむ、分かった。」
本当に分かってくれたか疑問ではあるが、一先ず、話を終わりにする。
「って事だから…プリン、ローラを離してあげて?」
「ご主人様の決めた事ですから、従います…ですが、ご主人様はローラに甘過ぎではないですか?」
「そうかな?正直、みんなに甘いのは自覚あるけど…一番甘いのはプリンに対してだと思ってたけどね。」
「もう…ダーリンったら…。」
そう言うと、プリンはテレまくりながらローラを離す。
うん…未だにダーリンって言うって事は、かなり気に入ったみたいだな。
まぁ、特に問題無いから、そのままにしておくが、直ぐに飽きるだろうから、プリンが飽きるまで止めなくても良いだろう…と思う。
「まぁ、それは置いておくとして…干し肉を買わないとダメになっちゃったから、そろそろ出掛けようか?」
僕はプリンとクズハに声を掛ける。
すると、2人から『はい!』と返事が返って来る。
その返事に僕は頷くと馬車に乗り込む…それに続き、プリン、クズハの順で乗り込んで来る。
そして、僕は馬型のゴーレムを操作し聖王都へ、ゆっくりと動き出すのだった…。
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