170ページ目…聖王都への旅路【1】

 『聖王都:シロガネ』へ向かう為に馬車に乗り込んだ僕達…と言っても、僕は馬車の荷台から前の扉を開けて更に前へと進む。

 所謂いわゆる、御者と呼ばれてる操縦者のポジションに移動すると、ゴーレム馬の手綱を握り操作を始める。

 この操作と言うのは、誰にでも操作出来る様な簡単な操縦方法にしているが、登録している魔力パターンにのみ反応する様にしてあるので、困った事に、今現在、僕の言う事しか聞かない仕様となっている。

 その為、移動するには僕が操作しなくてダメと言う事になってしまった。


 まぁ、それは別に良いんだけど…プリンに任せたら面白がって爆走させてしまいそうだし、クズハに任せたら、安全運転第一でノンビリ過ぎて、時間が掛かり過ぎると思うから…ね。


 まぁ、そんな訳で、色々な思考の結果、僕が操作すると言う事になっている訳だが…。

 メルトの町を出て聖王都と呼ばれているシロガネの街へと移動を始める。

 ただし、シロガネへ向かう前にメルトの町でする事があるので寄り道をする。


『パカポカ…パカポカ…。』


 メルトの町をノンビリと馬の蹄の音が響く…ここら辺は金属で出来たゴーレムの馬だけに金属音がするかもと不安だったが問題ない様だった。

 まぁ、そんな事を考えつつ、ノンビリと歩いて向かった先は、毎度お馴染みメルトの冒険者ギルドである。


「それじゃ、僕はちょっとラオンさんに挨拶してくるから…このまま、大人しく馬車で待っていてね?」



 僕は馬車の荷台へと続く扉を開けると中にいた二人に声を掛ける。


「はい…でも、早く帰ってきてくださいね?」

「は、はい、ちゃんとお留守番していますのでご安心下さい。」


 僕は二人の返事を聞いて馬車から飛び降りる。

 まぁ、荷台に戻れば飛び降りる必要はなかったのだが…何となく、格好良いかな?と飛び降りたくなってしまったのだ。

 とは言え…飛び降りた瞬間、足を挫くなんてベタなイベントも、幸い発生する事なく無事に大地に降り立つ事が出来た僕はギルドの中へと入っていく。

 すると、入り口をちょっと過ぎた所でポプラさんが掲示板に依頼書を貼る作業をしていた。


「おはようございます、ポプラさん…ラオンさん…ギルドマスターいますか?」

「はい、自室にいるはずですよ。」

「お忙しそうなんで勝手に入っちゃって良いですかね?」

「いえ、それは流石に…ちょっと待ってください、レオナに案内させますので。」


 そう言うとポプラさんは受付まで行き、カウンター越しに、中にいるレオナに声を掛ける。


 すると、レオナはカウンターの横にある扉を開けてポプラさんと一緒に僕の元に来てくれた。

 そして、簡単な挨拶を済ますと、レオナの案内でラオンさんの部屋へと案内された。


『コン、コン。』


 レオナが軽くドアをノックする。


「レオナです、ムゲン様をお連れいたしました。」

「あぁ、通してくれ。」


 部屋の中からラオンさんが返事をする。

 許可が出た事により、僕は部屋の中へと入っていった。


◆◇◆◇◆◇◆


「お忙しい所すいません、一応、報告に…今から聖王都へ向かうつもりです。

 それと、今回は車を使わないので時間が掛かると思いますが、日に何度か〖魔法:空間転移ゲート〗で家に戻る予定ですので、用があれば家の方に連絡していただければ、文字通り飛んできますので。」

「あぁ、了解した…だが、聖王都シロガネまで馬車で行くとは言え、よく急に馬車なんて用意出来たな?」


 まぁ、僅か数日で用意してしまったのだから、疑問に思っても不思議ではない。


「えぇ、ちょっとで素材を集めましたので…ね。」

「よし、聞かなかった事にしよう。」


 森とダンジョンで…まで言った時点でラオンさんの顔に皺が出来た。

 そして、材料を…と言った時点で、ラオンさんが明後日の方を向いたのだ。


「ちょッ!?それって酷くないですか?」

「いや、どうせ碌でもない事なんだろうから、聞かなかった事にした方が無難だと言うのは、これまでの経験で分かるからな。」

「いやまぁ、確かに否定は出来ませんけどね?

 まぁ、そんなこんなで馬車は、ちゃんと用意出来ましたので、これから向かいます。」

「あぁ、道中、気を付けるんだぞ?

 もっとも、お前達に気を付けろと言うのは微妙な気持ちになるがな。

 それと分かっていると思うが、敵が逃げても深追いはするな?

 あくまでも、今回の目的は調査だ…それ程までに『零の使い魔』は危ない組織だからな?」


 やはり相手が正体不明の『零の使い魔』は厄介な相手の様である。


「はい…僕も、あのダンジョンの事を忘れてませんから…あいつらは正直言って危険です


だと思います…。

 もっとも、それはオマケで、本当の目的は、美味い物ツアーですから…無謀な事はしませんよ、無謀な事は…ね。」


 あくまでもギルドからの依頼は『王都に行くついで』なのだから、無理する気は全く無い。

 ただ、こう言う時は、必ずトラブルが起こるのがベタである。


「…可能なら、無茶もするなよ?」

「ギクッ!」

「おい、本気で無茶をするつもりだったのかッ!?」

「いえ、冗談ですよ?」

「なぁ、殴って良いか?」


 そう言ってラオンさんは、僕に向けて拳を握った。


「まぁ、冗談は置いておくとして…。

 正直、その場になってみないと分かりませんが…あいつらが相手だと、無理無茶無謀は付いて回る気がしますけどね…。」

「違いない…だからこそ、気を付けて行ってくれ。」

「はいはい…まぁ、全くの無駄足の可能性もあるんですから、気楽に行きましょう。」


 そんな事はありえない…と、僕は確信めいた物があるが心配させない様に巫山戯ふざけた態度を取る。


「チッ…すまんが、頼んだぞ。」

「はい、任されました。」


 僕はそう言うと、部屋を後にしたのだった…。


◆◇◆◇◆◇◆


「おまたせ、さぁ、出発だ!って言いたい所だけど…その前に、干し肉買わなきゃだな…。」

「えぇ…ローラが食べちゃいましたからね。」

「まぁ、そう言うな…あれでも一応は反省してるんだから…ね?」

「私は、反省だけなら猿でも出来る…と言っておきます。」

「また、古い記憶を引っ張ってきたな…言われるまで、その台詞忘れてたよ。」


 プリンが言った台詞は一時期、猿回しの猿が、反省と言う名の芸で人気者になった時に流行った言葉だった。


「まぁ、そんな事より…肉屋へ向けて、出発!」


 そう言って、僕は御者の席に移動と、ゴーレム馬を走らせるのだった…。

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