168ページ目…目指せ、聖王都【9】

 貸し馬車屋で見学後、昼食を済ませ屋敷に戻ってきた僕達の行動は早かった。

 何せ、参考にする荷台を幾つも見学していて、取り込みたい部分はピックアップ済み。

 まずは、アイアンゴーレムのパーツを、〖魔法:模型創造モデリング〗使い馬車の骨組みを完成させる。

 そこから、更に金属で補強…それにより、鋼鉄製の馬車の骨組みが完成する。

 だけど、残念ながら、それだけでは完成とは言えない。


 次に用意するのは、その馬車の全体に、薄い木…所謂、ベニア板を張り付けていく作業である。

 もっとも、糊とかでくっつけるのではなく、こちらも〖魔法:模型創造モデリング〗を使い表面同士を融合させると言った方が正解だ。

 想像を創造する…と言うとネタじゃないか?と語弊があるが、材料を加工するのに、これ以上便利な魔法はないと思う。

 とは言え、車輪部分に関しては、かなり苦労した。


 と、言うのもイメージだけで正確な円と言うのを作成するには、ちょっとばかり厳しい物がある。

 だけど、ここで役に立ったのが、元の世界での知識という訳だ。


 棒に紐を付け、反対側にも棒を取り付ける。


 そして、片方の棒を中心とし、もう片方の棒で地面に線を書く要領でグルリと一周する。

 すると、そこには綺麗な○円の形が出来上がる。

 簡単に言うと、コンパスで円を描いたのだ。

 これにより、車輪も無事に完成させる事が出来たのだ。


「ふぅ…思ったより、短時間で完成させる事が出来たな。」

「そうですね…ですが、まだクッションを設置していませんので、このままお乗りになると、おそらく体のあちこちを痛めるのでは?と思います。」

「あ、そっか…クッションの事を忘れてたよ…。

 確かに長旅になるんだから、その事を忘れたら大変な事になるね。」


 言われるまで忘れていたが、それは最初に思った懸念材料である。


「そうですね…御主人様の許可が頂けるのであれば、今から買いに行って来ますが?」

「僕としては、その方が助かるんだけど…でも、良いの?だいぶ暗くなってきたよ?」

「はい、御主人様は、まだ馬を作られなければいけませんので…それに、これくらいであれば大した労力は必要ありませんので、私が行ってまいります。」

「そっか…だったら、お願いしようかな?

 あ、でも…お金持ってる?」


 一応、アリスはメイドとして働いてくれているので、食料などの必要な物を買う為のお金は、それなりに渡しているが、余裕があるかは分からない。

 その為、聞いたのだが…。


「はい、それに関しては、皆さんから貰っている分で足りておりますので。」


 アリスはそう言うと、お辞儀をしてその場を離れていく。

 どうやら、僕以外にもアリスにお金を渡している様だ。


 何はともあれ、ここからは僕一人の作業だから、今まで以上に集中しなければいけない。


「さて、いっちょ頑張ってみますかね。」


 僕は、一人そう言うと、無限庫インベントリから大量の鉄の塊…アイアンゴーレムのパーツを取り出して、馬の銅像ならぬ鉄象を作り上げていく。


◆◇◆◇◆◇◆


 1時間後、僕の前には2頭の馬の鉄象が完成していた。


「あ~疲れた…もう、何もしたくない…。

 つっても、これじゃまだまだ未完成なんだよな…。」


 そう、馬の鉄象が完成したら終わりではない。

 これに〖魔法:擬魂付加フェイクソウル〗を使い、擬似的に魂を与えゴーレム…この場合はガーゴイルに近いのかな?に作り替える必要がある。

 また、このままだと偽物の馬なのは一目瞭然…その為、馬用の鎧を作り出し、馬たちに装備させなくてはいけないのだ。


「とは言え、正直な話、もう集中力なんてないんだよな…。」


 誰もいない庭で一人ごとを言う様に、ボソリと呟きが漏れる。

 すると、そこに一人の女性がやってきた。


「主、馬 いる」

「ん?その言い方は…あぁ、ローラか…どうだ、似てるだろ?」

「…これ、馬?でも、何か ちがう」


 ローラも、かなりまともに喋れる様になっているが、まだ違和感がかなり残る喋り方なのは仕方がない。

 少し聞き取りづらくて大変だな…とは思うが、最初の頃に比べたら、飛躍的な進歩と言っても良いだろう。

 などと考えていたら、いつの間にかローラが目の前から消えていた。


『カチーン!』


 何かが金属に当たった様な音がする。

 僕は慌てて音のした方を振り向いた…すると、そこには…。


「ローラ、それ鉄の馬だから食べれないよ?」

「主、硬い」

「そりゃ、さっきも言ったが…鉄で作った馬だからね…。」

「主、これ食べれない?」


 どう見ても、馬の様な形をしているとは言え馬じゃないのは一目瞭然である。

 なのに、その馬の様な金属の塊を、何故、喰おうとするのだろう?


「そうだね…流石にローラでも食べれないと思うよ?

 って言うか、そもそも食べ物じゃないからね?」

「ローラ、分からない」

「えっと、ローラは、僕の車は知ってるよね?」

「おぉ、あの早いヤツ」

「そうそう…あれだと他の人に目立っちゃうから、他の人と同じ様に馬車を使って移動しようと言う話になったんだよ。」


 わざわざ説明してるのに、相変わらず理解出来ていないのか、きょとんとしているローラ。

 いや、既に何度かローラのいる場所で話している事である。


「まぁ、あれだ…この馬は車と同じで食べれない…それだけ覚えておけば良いよ。」


 若干、それで良いのか?とも思わなくもないだが…ローラの知能の成長を考えると、今は、これで良いのかもしれない…と、諦めが入る。


「肉ちがうなら、ローラいらない…。」


 ローラはそう言うと、僕から離れて屋敷の中に戻っていく…いったい、何がしたかったのだろう?と考えていると、ちょうどアリスが戻ってきた。


「御主人様、ただいま戻りました。」

「あぁ、お帰り…どうだった?」

「はい、思っていた以上の良い物が手に入りました。

 御主人様の方はどうですか?」


「あぁ、完成した馬は、そこにあるから見てみると良い。」


 僕は、アリスにそう言うと、アリスからクッションを受け取ると馬車の中に入って設置をする。

 うん、思っていた以上に良い出来になったと思う。

 すると、次の瞬間…。


「御主人様、あれはいったい…。」


 アリスがドアの向こうから僕に呼び掛けてくる。


「あれって、何が?」

「いえ、ですから…馬?に歯形がくっきりと…。」


 …はい?当然、僕はそんな物を付けた覚えはない…って言うか、そんな面倒な作業はする意味がない…と言う事は?


「ローラーーーッ!」


 夕焼けで赤く染まった空の下、僕の雄叫びが盛大に響き渡るのだった…。

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