167ページ目…目指せ、聖王都【8】
材料は揃った…唐突に、これだけ言われたら何を言ってるんだ、こいつ?となるはずだ。
いや、分かってた事なんだけどさ…伐採した材木を運ぶのに悩み、なけなしのダンジョンポイントで部屋と、アイアンゴーレムを1体のみ作成して手に入れた大量の鉄…。
これが意味する所は…やっと馬車が出来ると言う事だ。
ただし、今回作るのは本当に馬車にしか見えないゴーレム馬車なのだ。
その為、この世界にない高速機動用ゴーレム(通称:車)とは違い、目立たずに移動が可能となる…はずなのだ。
とは言え、正直な話、僕も馬車なんて物は作った事がない。
まぁ、それを言い出したら車自体作る事はないが…ゴーカートとかを運転した事があるのだから、大体の外見は分かる。
もっとも、エンジンとかの駆動機部分は分からないけが、そこはゴーレムなのだから、そこら辺の面倒な部分は無視出来たのは幸いだった。
さて、ここで重要になってくるのが馬車だけに、馬と荷台が必要になる。
馬に関しては、鎧を着せた馬の形をしたゴーレムにする…これを2体作り、二頭引きの馬車を作る予定だ。
問題は、先ほども言ったが馬車の荷台の方だ。
大体の作りは、何度か馬車に乗った事があるから、ある程度は分かる…だが、通常の馬車では色々と危ない。
その為、小細工が必要になるだろう。
まぁ、何はともあれ…荷台の研究をする為に、僕とアリスは、とある場所へ来ていた。
「御主人様、もう少しで例の場所に着きます。」
「へ~…正直、こっち側なんて来る事がなかったからな…僕一人で来てたら迷子になりそうな場所だね。」
「ですが…御主人様ならこちらの区域に住まわれても、問題ないのでは?」
「いやいや、僕は普通の人だから、こんな悪趣味な区画なんかには住みたくないね。
と言うか、今の家、気に入ってるからね?」
「ありがとうございます、そう言っていただけると私も嬉しいです。」
何を好き好んで、こんな金持ち連中が集まる様な区域に住まないといけないのだ。
そう思った僕は、アリスの言葉を、真っ向から否定する。
「それに…仮に引っ越し出来たとしても、アリスが居ないんじゃ寂しいからね…。」
「御主人様…そんなに私の事を…うるうる…。
あ、でも…引っ越しする場合、付いていく事は可能ですよ?」
「え?そうなの?」
てっきり、今住んでいる家に憑いているから引っ越しの際は付いてこられないと思っていたので、あっけらかんと言うアリスの発言に唖然とする。
「でも、それなら何でお化け屋敷になるまであの家にいたんだい?」
「それはですね…当時の御主人様が家を頼むと言って出て行かれた物ですから…。」
「あ~それで帰ってこないままだった訳か…。」
全く、前の持ち主は何を考えているたのやら…とは言え、そのお陰で、僕は安く家を手に入れたのだから良かったと言える。
「はい、その為、私はあの家に縛られたまま…そして、御主人様に会ったのです♪」
それはまた…さぞかし寂しかった事だろう…。
いくらブラウニーでも何時戻るかも分からない主を待って、何十年…何百年も待っていたなんて…。
「まぁ、あの時は、危うくプリンに食べられそうになっていたけどね。」
「はい、あの時は本気で死ぬかと思いました…もっとも、その後の御主人様の方が怖かったですけど…。」
「あ~…確か…『生まれてきて、すいません』とか言ってた気がするね。
今でも魔王化した僕は怖い?」
仲間になったとは言え、全てが許される訳ではない。
そう思って聞いてみたのだが…。
「いえ、今は大丈夫です…御主人様は御主人様ですので…。」
「そっか…それなら安心した。」
考えてみたら、そんな事があったのもそんなに遠い話ではない。
すでに何年も前の様に思えるが、まだ数ヶ月前の出来事だ。
改めて考えてみると、こっちの世界に来てからと言う物、どたばたした日が続いている気がするな。
だからこそ、こんな何ともない日常と言う物が大事なんだろうな…。
「あ、御主人様、見えてきました!あちらが、この街一番のお店です。」
そうアリスが言って指さしたお店こそ、今回の目的地であるお店だった。
◆◇◆◇◆◇◆
「ふむふむ…さっきの馬車より、こっちの馬車の方が僕は好みかな…。
アリスは、どっちの方が好き?」
「私としては、先ほどの馬車の方が…ですが、御主人様の馬車ですので、御主人様の選んだ方を優先させるべきだと思います。」
と、アリスが切り返してくる。
現在僕達が居るのは、色々な需要に対して馬車を貸し出すお店だ。
元の世界で言うならレンタカー屋さんと言った所かもしれない。
その需要と言うのが実に厄介で、貴族なら派手で豪華な物、商人であれば大型の…荷物をいっぱい運べる物…そこらの普通の人であれば、屋根も幌ホロもない…ただ、乗って運ぶ程度の物と、多種多様に用意されている。
そんな中、僕達は色々な馬車の見学に来ている。
「それで、ご所望の馬車は見付かりましたかな?」
「いえ、どれも良い馬車だとは思うのですが…何と言うか、これだッ!って即決出来る様な物が無いですね…もっとも、僕が欲張り過ぎなだけなんでしょうけど…。」
「そうですか…ですが、当店で今開いてる馬車はこれだけでして…。
あと、10日もすれば、当店で一番良い馬車も帰ってくる予定となっていますが…。」
あと10日も待つほど余裕はない。
明後日には、出発しないといけないからだ。
「そうですか…そちらも見てみたかったんですが、残念ながら僕達にはそれを待っている時間がないのです。
ですので、今回は機会がなかったと言う事で…もし、次の機会があれば、その時はよろしくお願いします。」
「えぇ、その時は当店をよろしくお願いします。」
と、頭を下げてくる…ほぼ冷やかしの客にも関わらず、さすがは商売人だと言える。
「それでは、僕達はこれで失礼します…アリス、帰るよ。」
「はい、御主人様。」
「またのお越しをお待ちしております。」
◆◇◆◇◆◇◆
そんなやり取りをして店の外に出てきた僕達は、ふぅ…と、大きな溜息を付く。
僕達は、まるでコンビニで立ち読みをする様な感覚で、馬車がどう言った物か見学に来たのだが思った以上に店側の
そもそもな話、わざわざレンタル馬車屋に僕達が来たのは、馬車を作る際の参考資料として見学に来ていたのだ。
故に、店側としては何しに来たか分からない状態だったと思う。
とは言え、わざわざ来た甲斐は十二分にあったと思う。
「よし、これで思ったより馬車の方も、しっかりと作れそうだね。」
「そうですね、一応ですが、細部まで確認出来ましたので、御主人様ならバッチリだと思います。」
流石に、見ただけで出来れば苦労しないが、それでも見た事により、分かった事も多々ある。
「よし、なら…あとは帰って作成開始だ。
っと、その前に…お腹空いたから、どっかで食べて帰ろうか?」
「はい、御主人様♪」
こうして、僕達の馬車見学は終了し食事を済ませて、家へと戻ったのだった…。
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