第280話 謁見の間での再会
レーヴェ神国の王都ガイアクレイスの中心に建てられた荘厳に佇む巨大な王城。その謁見の間は巨大な王城に相応しく天井、奥行きともにたっぷりと空間がとられている。天井には照明型の魔道具である見事な造形のシャンデリアが吊るされ謁見の間を明るく照らしている。王城の謁見の間と言えば王は高い位置に座し、入場したものはその高い位置から見下ろされることなるのが通常であるがレーヴェ神国の謁見の間は違っていた。
謁見の間の奥に一段だけ高い場所がありそこに豪奢な王座が置かれている。敷かれている絨毯は魔羊と呼ばれる美しい繊維を紡ぐことができる魔物の毛皮を贅沢に使用した逸品。壁や天井の意匠も見事なものである。その空間は一段だけ高い場所のある極めて豪華なダンスホールの様といった趣であった。
王座に向かって右側に整列している騎士、左側に整列している文官、総勢百名ほどが胸を手に当て一斉に頭を下げることで臣下の礼を取る。この場にあることが許されるのは最も信用のおける武官と文官たちである。プレスが見知っている者も多かったが当然の如く新しい顔も散見される。五年という月日を感じながらもプレスはフランツの先導でティアを伴い真っ直ぐに王座へと歩を進めた。
そんなプレスの視線の先、その一段だけ高い王座が置かれているところに八人の男女が居並んでいる。全員が笑顔だ。一歩一歩その歩みを進めるたびにかつての思い出が蘇る。プレスは懐かしさと共に我が家に帰ってきたことを今、確かに実感していた。そしてそんな家族をティアに紹介したいと思った。
プレスが八人の手前で足を止める。フランツが八人の元へと加わり総勢九人がプレスとティアの眼前に居並んだ。両サイドには騎士と文官が静かに頭を下げている。
「プレス。久しぶりだね。戻ってきてくれて嬉しいよ!」
九人の中央で立っている男性がにこやかな笑顔でそう言葉をかけた。長身痩躯という言葉をそのまま当てはめたような佇まいの男性である。その美形もさることながら、肌の色が透き通るほどに白い…、というか青白いといってもいいような血色をしていた。そして燃えるような赤毛と赤い瞳が存在感を放っているが彼が纏う気配はティアがこれまで見てきたどんな人族よりも優しく穏やかな気配だった。
「ああ、久しぶり!まさか冒険者のおれに依頼をしてくるとは思っていなかったよ。元気そうだな、ハインリッヒ!」
プレスが泣き笑いのような表情を浮かべそう応える。そうしてハインリッヒと呼ばれた男性とプレスが互いに歩み寄りしっかりと握手を交わした。居並ぶ騎士からは歓声が、文官からは拍手が巻き起こる。
この燃えるような赤毛と赤い瞳、そして青白いとまで形容できそうな透き通る白い肌を持った美形の男性こそ、
「ティア!彼がハインリッヒ。正確にはハインリッヒ=ウィルフォレスト=ラ=レーヴェ。この国の国王陛下ってやつでおれの親友だ!」
握手したまま振り返ったプレスがティアに男性のことをそう紹介するのであった。
「ハインリッヒ殿。ティアと申す。人の姿をしているが主殿に従うドラゴン…、というかドラゴンのような存在だ」
いつもの口調ではあるが主であるプレスの親友ということで殊勝な態度を取るティア。彼女なりに気を使っているらしい。
「ティアさん、初めまして。この国を治めているハインリッヒです。やっとあなたにお会いすることができましたね。マルコやミケやサからがあなたのことを聞いてからお会いするのが楽しみでした。まさかプレスがこんな素敵な女性を連れて帰ってくるとは…」
「ハインリッヒ、旅はまだ続いている。今回は依頼を…」
「いいじゃないか、プレス。一時的だろうがなんだろうが帰還は帰還だよ?彼らと積もる話もあるだろうけど…」
そうして一旦言葉を切ったレーヴェ神国の国王ハインリッヒ。彼らと呼ばれた他の八人…、いい笑顔を浮かべている他の八人へそっと視線を投げかけると集まっている騎士と文官たちへと向き直る。歓声を上げ拍手をしていた者たちが口を閉じると同時に整列し隊列は一瞬にして整った。彼らがどれほど訓練されているか、そしてどれほどの畏敬の念をもってこの国に仕えているのかがよくわかる一幕であった。
「
謁見の間は今一度歓声と拍手に包まれるのだった。
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