第279話 聖印騎士団の副長
プレスはフランツと呼ばれた男性と共にティアを伴い王城内を謁見の間を目指して移動している。廊下の端々を飾る装飾品は見事な意匠が施されており荘厳な王城の雰囲気に一層の凄味を与えている。
「いやー、フランツがいてくれてよかったよ!」
「紋章を見せれば簡単でしょうに…、大方、彼らに気を使ったのでしょう?全く…、相変わらずですね…」
穏やかにそう返してくるフランツという人物。見た目は金の瞳と金髪で背丈はプレスと同じくらいのやせ型で顔立ちの整った好青年に見える。先ほど簡単な挨拶は交わしたのであるがティアはフランツという人物を測りかねていた。
『確かフランツ殿と言えば聖印騎士団で副団長を務められている主殿の腹心ということだったが…』
ティアはフランツと呼ばれた人物からは魔力の反応を感じ取ることが出来なかった…。加えて人族などに覚える存在感のようなものが希薄なのだ。無理に言葉にするとなればその場に居るのに、その場に居ないというような不思議な感じ…、といったところであろうか。
そんなティアの内心を見透かすようにフランツが声をかけてくる。
「あなたがティア様ですね。マルコさんからお話は聞いています。こんな団長ですが宜しくお願いしますね?」
「誰がこんな団長なんだよ!」
プレスが抗議の声を上げるがフランツは意に介せずティアに向き直る。
「ふふふ…。表情に出ていますよ?私の存在に違和感を覚えますか?」
その指摘にも驚いてしまうティア。
「す、すまない…。フランツ殿の気配が…、その…」
「人族に似つかわしくないほど希薄だったと?さらに魔力も感じない…?」
そう聞かれて思わず頷くティアである。
「団長?どうして説明していないのですか?ティア様はドラゴンですよね?私を見れば違和感を覚えるに決まっているじゃないですか?」
ほんの少し視線をきつくしてフランツがプレスを見る。
「い、いやあ…、ここで会うとは思わなくて…、え、謁見の間で一堂に会したときに順番に説明する予定だったのだけれど…、人生ってなかなか上手く行かないものだね…、はははは…」
シドロモドロに乾いた笑いを浮かべつつ言い訳をするプレス。
「全く…。ティア様、改めまして私の名はフランツ。性はありません。そして正直に申しますと私は人族ではありません」
「な…、それにしては…」
「竜の眼は鑑定の効果を持っていますよね?私の場合、少しだけ隠蔽が得意なのですよ。マルコさんから伺いましたが、港湾国家カシーラスにある河口の街リドカルでクリーオゥ殿にお会いされていますよね?」
その言葉と同時にフランツの体内から尋常でない魔力が漏れ始める。ティアはその凄まじいまでの魔力量と神々しい気配に驚く。それは河口の街リドカルの精霊であるクリーオゥに会った時と同じ感覚。その魔力量は恐らく現在のティアと同等…。従魔になる前に敵対していたなら一瞬で消滅させられただろう圧倒的な力を感じたのであった。
「私もクリーオゥ殿と同じような精霊に近い存在の様なのです。私の場合はクリーオゥ殿よりも行動範囲が広いですけどね。あ、ただし国内では魔力の無い人物として通っていますのでご配慮いただければ幸いです」
確かクリーオゥは河口の街リドカルから離れることは出来ないと言っていた。フランツという人物はそのような制限はないらしい。
「そして私にはもう少しだけ秘密がありましてね…」
そう言って周囲に人の目がないことを確認したフランツはパチリっと指を鳴らす。ティアは目を見張った。そこには金色の長髪をなびかせる絶世の美女が佇んでいたのである。ティアよりも少し雰囲気の柔らかい優しい瞳をした女性である。
「うふふ…。本当はこちらお姿の方が過ごしやすいのですが、かつてこの姿の時に婚姻の申し出が殺到しまして…、それ以来、男性として過ごしているのです」
「フランツ殿はどれ程の時間を過ごされて…?」
「ティア様とそれほどは変わらないと思います。マルコさんはこの国が建国されて以来存在していますが、私が自我を持ったのはもう少し後の話です。建国王とされている方から数代後の国王様やマルコさんと出会いそれ以来、縁あって聖印騎士団の副長を務めてきました。立場は文官ですけどね」
そうして一礼する美しい美女。
「そうであったか…」
その存在感と魔力量に思わず納得してしまうティア。
「このことは聖印騎士団と王族、歴代の宰相くらいしか知らないことの筈なんだよ…。フランツ!あのランキングはどういうこと?」
プレスが非難めいた声を上げる。
「うふふ…。サラさん達から聞いたのですね?誰が考えたのか面白いものですね。でもなんの問題もありませんでしょう?私としてはどちらの姿でも団長のお好きな方でお相手さえて頂く用意ができていますわ?」
「そ、そうじゃなくて…」
余裕の笑みを浮かべた女性のフランツに返され項垂れるプレス。
「主殿は皆に愛されているのだな?」
「ユリアが敬愛されていたのは本当だけど、おれの場合は皆が面白がっているとも言うけどね…」
「ふふ…。それも親愛の証と呼べるのではないか?」
「そうとも言うけど…、ちょっと恥ずかしいね…」
話ながら移動している内に大きな扉のが見えてくる。
「さてと…、その話は後にしてそろそろ謁見の間です。改めましてお帰りなさい団長。ようこそティア様。国王様がお待ちです」
素早く男性へと姿を変えたフランツがそう言うと音もなく扉が開かれた。
「ふぅ…。ティア、行こうか…。きちんと皆を紹介するからね」
「主殿。我の紹介もお願いするぞ」
「ああ。分かってる…」
プレスはティアを促して謁見の間へと入場するのだった。
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